ドリーミー刑事のスモーキー事件簿

バナナレコードでバイトしたいサラリーマンが投げるmessage in a bottle

2015年・2022年

2015年は2022年の自分の骨格を作った濃密な季節だった。そのことを思い起こさせる出来事が多い4月だった。

 

2015年最大のトピックと言えば、まずは安保法案に反対するカウンターアクションとの遭遇。結局法案は成立してしまったし、安倍晋三は居直り続けているし、何よりも2022年の世界はあの時誰も想像もしないくらいひどいものになってしまっている。でも、自分で考えること、フェアであること、自分のスタイルを持つことの大切さを、あの活動の中心にいた若者や大人から学んだ。今となってはこうやって冷静に振り返ることができるのだけど、当時の自分は今よりももっと頑なだったので、政治的意見の相違がきっかけで失った人間関係もあったり、なんだかんだ必要以上に傷を増やしていたところもあった。

そんな時に聴いていたのが、佐野元春&COYOTE BANDのアルバム『Blood Moon』。直接的に当時の社会情勢について言及している歌詞はないけれども、分断を乗り越えようとする意志と、大きな敵に立ち向かっていこうとする勇気、そして何よりもロックンロールの躍動感に満ちた作品だった。

dreamy-policeman.hatenablog.com

 

その感動を今以上に拙い文章でブログに書き残していたりもしたのだけれども、まさか7年後にソニー・ミュージックのウェブサイトに彼の、と言うか日本ロック史上の名盤『SOMEDAY』のレビューを書けることになるとは夢にも思わなかった。少ない字数だけど、2015年当時の思いも行間に押し込んだつもり。ちょうど今月リリースされたばかりの最新作『ENTERTAINMENT!』も本当に素晴らしくて(表題曲は俺たちが去年の夏に心を痛めていた「あの人」のことを歌っているのだと思う)、『SOMEDAY』で立てた誓いにウソがなかったことを40年も体現し続けている真のレジェンドなんだよな…と改めて尊敬の念を深めた。

otonanoweb.jp

このレビューをマイアイドル・北沢夏音さんが読んで下さったようで、Twitterでこんなリプライをくれた。私がうんうん唸って書いた400字を射抜いてしまう慧眼よ…。

 

 

 

安保法案へのカウンターの真ん中にいた若者たちと言えばSEALDs。その中心メンバーだったUCDはヒップホップ・バンドTha Bullxxxtでラッパーとして活動しており、残された2枚のアルバムは自分にとっての名盤だった。その後間もなく活動休止してしまったけど、さとうもか、GUIRO、トリプルファイヤーに思い出野郎Aチーム、mei ehara など、自分にとって大切なアーティストばかりをサポートしているキーボーディスト・沼澤成毅がそのバンドメンバーだったと知った時は大変驚いた。そんな彼が初めてソロ名義でリリースした「結晶」という素晴らしい楽曲のレビューをTURNに書かせてもらったのも、自分の中ではこの7年が繋がったような感慨があった。

turntokyo.com

 

そして2015年に起きた極めて個人的な変化。それは再び熱量をもって音楽を聴き出したこと。あれからいろいろなライブを観たけど、あの時期に目撃したアーティストは今でも特別な存在だ。そのきっかけになったミツメのライブを、初めて観た時と同じ名古屋クアトロで観ることができたことも今月の嬉しいイベント。

dreamy-policeman.hatenablog.com

コロナの影響もあってすっかりご無沙汰してしまっていたミツメは、涼しげな佇まいこそ変わっていなかったけど、鳴らしている音の確信のようなものが一段と増しているようだった。空白と余韻を聴かせるスタイルは変わらないが、一つひとつの音がピタッと脳と筋肉のスイートスポットをより正確に刺激してくるし、音像全体から受け取る情報量が増しているように感じたのだ。ひんやりした空洞感はそのままに、歌謡曲的な情緒を一切の雑味なく重ねている様は妖術感すらあった。肉体がないのに気配があるのである。そういえば前作のアルバムタイトルは『Gohsts』でしたね…。

そして対バンのDYGLを観るのは2016年に渋谷7th floorで観たマイカ・ルブテのリリースパーティー以来。彼らもまたあの時と同じように青くて熱かった。ある意味ではミツメとは正反対のスタイルだけど、自分のやりたいことだけをやる、やりたくないことはやらない。この線を自分で引けるという意味で、二つのバンドには本物のインディースピリットを持っているという共通点があるということだと思う。そして「こんな厳しい時代にライブにきてくれるお客さんはもう客じゃない。バンドやスタッフと一緒に音楽を鳴らす場をつくるチームメンバーだと思っている」という秋山信樹の言葉に泣きながら頷いた。

そういえば、DYGLSEALDsdommuneと主催した選挙権の棄権防止を呼びかけるイベント「Don’t trush your vote」にTha Bullsxxtと共に出ていた。10年代でも20年代でも、常にリアルな空気を感じとって行動できるアーティストはカッコいい。