ドリーミー刑事のスモーキー事件簿

バナナレコードでバイトしたいサラリーマンが投げるmessage in a bottle

真夏のクライマックス 前編(9月1日金山ブラジルコーヒー)

去る9月1日。金山ブラジルコーヒーにて「found the sun again」という音楽イベントを開催しました。お越し頂いた皆さん、告知にご協力頂いた皆さん、ブラジルコーヒー角田さんを始めスタッフの皆さん、そして出演してくれたOhhki さん、東郷清丸さん、ありがとうございました。良い音楽イベントが全国津々浦々で、それこそお客さんとしての自分が行ききれないくらいに開催されている中でも、まだこの土地に持ち込まれていないヤバいブツをお届けできたのではと思っております。

 


以下、備忘録。

 


今回の企画は去年に続いて名古屋、高山、松本を回るツアーをやりたいから協力してほしいという清丸さんのオファーから始まった。なぜこんな俺にとも思うが、こんな俺に任せてくれるならやってやろうじゃないかと快諾。ツアー日程はすでに決まっており、まずは会場を探すところからスタート。あまり日にちがなかったので焦ったけどブラジルコーヒー角田さんが調整してくださってなんとかクリア。

 


去年は私が清丸さんの歌をたくさん聴きたいという理由でワンマンライブにしてもらったが、今年は対バンがあった方がいいという清丸さんのリクエストもあり共演者を相談。清丸さんからもアーティストの名前もいくつか挙げてもらったけど、私の心はイサヤー・ウッダことOhhkiさんに決まっていたように思う。まだ名古屋でライブをやったことをないし、私もライブを観たことがない。が、音源はすべて聴いているので、東郷清丸との相乗効果によってイベントとしてめちゃくちゃヤバくなるんじゃないかという予感があった。清丸さんもお気に入りであることを確認し、すぐメールで連絡。果たしてこんな見ず知らずの人間からのオファーを受けてくれるかしら…とドキドキしていたけど快諾頂いた。

 


私にとって最初の鬼門はフライヤーつくり。今どきレコード屋やライブハウスでフライヤーをもらう文化もあまりないかも…と思いつつ、やはりやれることはちゃんとやっておきたい。しかしとにかくデザインができない。イラレ?フォトショ?なんですかそれは。というわけで今回もサラリーマン愛用のパワーポイントでアーティストのイメージをぶっ壊さない程度になるよう、私が森道市場で撮った写真を使って粘った。そしてデザインがダメなら文字で勝負だ!と勝手にお二人の紹介文を書きまくった。これは去年の清丸ワンマンの時に思いついた力技。

そして今回新たにやってみたのは、Spotifyでお二人の曲だけを入れたプレイリストを作るというやり方。これを聴いてくれれば、いかにこのアーティストの相性がいいか分かってもらえるでしょう、という発想。フライヤーにリンクを印刷し、予約してくれた人たちにもいちいちお知らせした。効果のほどはよくわからないが、悪くないアイデアのような気がする。ライブの後も聴けるし。

 


そして最大の難関はなんといっても集客。収支のことはひとまず置いておいたとしても、ガラガラの会場でパフォーマンスしてもらうのはアーティストにも、そして超良心的な会場代のブラジルコーヒーにも申し訳なさすぎる。きっとイベンターという役割は、地元に音楽仲間がたくさんいて、アイツが企画するなら行ってやるかという人望のある人がやるべきだと思うんだけど、私はぜんぜんそうじゃない。会社の同僚は私がこんなことをしているなんて知らないし知ったところで興味も持たれない一般男性会社員。なので頼みの綱はSNSということになるわけど、あんまりガンガン宣伝すると「あのアーティスト人気ないのかな」というネガティブな印象を与えかねない…。しかし私が敬愛するアーティストはみんな告知を頑張っているぞと自分を励まし、「ドリーミーの執念を感じた」と岡村詩野さん(何度もリツイートして頂きありがとうございます)に言われるほどしつこく発信させて頂いた。しかしTwitterが無くなったら貧者の告知はどうすればいいのだろう。

 


今回の反省点は開演時間とチャージ。あまり深く考えずに19時スタートにしてしまったのだけど、最近は平日であれば19時半、あるいは20時というパターンも多いようで、仕事帰りの皆さんのことを考えるともう少し遅い方が良かったのかもしれない。「仕事で行けなくなりました」というキャンセルをいくつか頂き胸が痛んだ。あと当日でも来やすいように予約と前売を同額にしたのだけれどもやっぱりほとんどは予約の方で、その効果は限定的のように思えた。そして何より主催者にとって予約は言葉では表せないほどにありがたいものなので、やっぱりなんらかの恩恵があるべきだな、と。当日の開場ギリギリまで予約を受け付けておけばいいわけだし…。

 

 

 

さてこうして迎えた当日。

ここまで来たらもう俺が一番楽しむぞ…と気持ちを解放して清丸さんと会場入り。

さっそくリハで歌い出す清丸さん。どれくらいの力をこめて歌っているのか分からないが、一発で世界に引き込まれる。

そしてOhhkiさんもご挨拶した時の柔らかい物腰から一転、凶暴なリズムとマグマのようなメロディをぶちかます。いきなり非日常に連れ込まれるこの感じを味わえるのは主催者の特権。いきなりブッ飛ばされた。

 


少し暗くなってきたところで開場。

開演までのBGM担当は私。私が思うこの二人の共通点は不穏な社会の中で、野生の部分を抱え続けている独立したアーティストであるということ。しかもある種のユーモアと甘やかなセンスも持ち合わせながら。そんな空気を出したいなという気持ちで選曲させて頂いた。

 


最初に登場したのはOhhki。

演奏前から圧倒的に危険で妖しさがだけを固めたような佇まいに圧倒され、惹きつけられる。サンプラーエレキギターを駆使した演奏なのだけれども、改めて気づかされるのは楽曲の練り込まれ具合。音響的に加工する前の状態の熱量が極めて高く、また歌声も魅力的なので素の状態で聴いても魅入られてしまうだろう。これこそがOhhkiの表現の根源であることを実感。そして「Sexy healing beats」からはギターを置き、ハンドマイクで歌い踊る。みんなあっけに取られてるけど、それすら織り込み済みかのように飄々と踊り続ける。このお店の光景が批評的で、一つの作品のように見えた。機材のトラブルでノイズが入る時があったが、後半に向けてさらに混沌とした熱を帯びていく。「Glitter」から「Delta」、そしてキラーチューン「I shit ill」の流れには、名古屋の街に潜む愛と絶望が次々と暴かれていくような感覚があった。窓の外に広がる繁華街の景色とのコントラストに私はちょっと涙ぐんだ。仮に主催者バイアスがあったとしても、はっきり言って期待の30倍くらいすごいライブだった。彼を京都の秘宝にしておくのはあまりにも勿体無い。妻からも「すごい人を連れてきたね!」と誉められた。みんなもチェックするべき。

 

ライブの衝撃に呆然としたまま幕間のBGMを流すが、どんな曲を流していいかさっぱりわからなかった。

 

そして現れた東郷清丸。去年と同じく弾き語りのセットだけど、その中身は全然違っていた。「サマタイム」「ゆくゆくソング」からスタートした演奏は力みというものがなく、呼吸や会話と同じくらい自然なものに位置づけるというのが今のテーマなのかもしれない。ゆえに、と言うべきかどうかわからないがMCもいつもより長い。歌も話もコミュニケーションとしては等価、という思いなのでないか。Ohhkiのライブとは対極に位置する表現とも言えるが、端と端は接しているということでもある。

そして今、彼が取り組んでいる新しいテーマは民謡。民謡というか、録音媒体や楽譜ができる前にその土地で伝承されていた歌。今回のツアーから、その土地の歌を一曲ずつ歌うそうで、記念すべき第一回目として、綿工場で働く女工の労働歌だった「尾張糸引き唄」を披露してくれた。歌というものの根源をより追求していく姿は感動的だったし、やはり彼のライブは見るたびに姿を変える、それそのものが生き物であることを実感した。出演後、そういえば今日は「L&V」も「ロードムービー」もやらなかったライブは初めてだなと気付いた。でもそれがよかった。「ぽつんとシュロが、」「あしたの讃歌」をはじめ、新しい名曲がいっぱいあるし、なにより彼にお約束は似合わない。

 

こうして無事にライブ終了。余韻の中でみんながビール飲んだり演者の二人と話したりしてる光景を見て、安堵と感謝が改めてひたひたと。音楽をよく知っている知り合いや友人が口々に「清丸さん目当てで来たけど、Ohhkiもすごかったね!」と言ってくれたのが何より嬉しかった。そしてこの日の受付は名古屋が誇る名バンドばけばけばーのベーシスト・徐さんがやってくれたのだ。豪華でしょう。

 

最初にも書いたように、これは日本全国いたるところで行われているライブの一つにすぎない。けど、こんな長文になるくらい、少なくとも私の人生においてはインパクトのある大イベントだった。そう思うとライブハウスってめちゃめちゃ濃い尊さが詰まった場所ですよ…と心の中で手を合わせる。関わって頂いたすべての方々と、こんな道楽に協力してくれる家族に改めて感謝します。