ドリーミー刑事のスモーキー事件簿

バナナレコードでバイトしたいサラリーマンが投げるmessage in a bottle

5月のこと。

この5月で41歳になった。

若い時にイメージしてた40代というのは、首まで砂風呂に埋められた人のように、仕事とかローンとか体力の低下とか、ほとんど身動きの取れない生き物であり、そしてたぶん実際はその通りのはずなんだけど、のしかかった砂の重さをやりすごす、あるいはそもそも重いと感じないようにするスキルも身につけてしまったせいで、意外と心身の可動域が広いように感じている。つまり、あまり老いを自覚していない。もちろんこれはこれで恐ろしい事態であることは重々承知だ。

 


5月には私が住む愛知県岡崎市という小さな街で、図書館を舞台にしたフェス「リゾームライブラリー」があった。

これといった見どころも名産品もない街には不釣り合いなほど豪華な出演者が最高のライブをかましてくれて、ホール着座で観るVIDEOTAPEMUSIC の贅沢さとか、誰も知らない岡崎のバンドのレコードが欲しいと言ってお客さんをキョトンとさせる台風クラブとか、本当に素晴らしかった。そしてこの日は、ちょうど一年前、この地で私が開催したイベントに出てくれた東郷清丸さんも出演したのだけれども、せっかく近くに来てくれるならば、セカンドアルバム発表間近の彼の手伝いになることはできないかというお節介モードが発動してしまった。今考えると何が「せっかく」なのか、さっぱりわからない。

 
とにかく5秒にわたる熟考の末に出た結論は、「俺が清丸さんにインタビューして、それをまとめた原稿をどこかの媒体に載せてもらう」という、極めて安直かつ突拍子のないもの。

 
しかしこれが無駄に可動域の広い40代の恐ろしいところで、清丸さんにインタビューの許可を取り付けた上で、4月の「うたのゆくえ」で挨拶させて頂いた音楽ライターの岡村詩野さんにメールを送りつけ、岡村さんがエグゼクティブプロデューサーを務めるwebマガジン「TURN 」に掲載してもらえないかとお願いしてみた。

dreamy-policeman.hatenablog.com


はっきり言って勝算ゼロのギャンブル。ダメなら清丸さんに謝るしかないな…と思っていたところ、まさかの掲載オーケーの返信が。

あの日本屈指の評論家である岡村詩野さんが、こんなど素人からの申し出を受け入れてくれるとは…と度量の大きさに感謝しつつ(これはインタビューを受けてくれた清丸さんにも言えることだけど)、インタビューの準備を進めた。

 
ちなみに私がインタビューというものをやるのは、実はこれが初めてではない。本業の業界紙的なものに掲載するために、国会議員に話を聞くという仕事をやったことがある。

与えられたインタビュー時間は1時間半ほどだったが、それは今思い返してみても、人生最長最悪の90分と言うべき、苦悶に満ちた時間であった。何を聞いても「・・・で?」。やっと答えたと思ったら絶対文字にできない悪口ばかり。結局紙面には、その議員の秘書が書き上げたほぼ架空のインタビュー記事が掲載されることとなった。ちなみにその議員はまだ現役。三日に一回くらいのペースで犬のフンを踏めばいいと思っている。

 

なので今回のインタビューについても、自分で言いだしたにもかかわらず、大きな不安があった。しかし東郷清丸は大人だ。ファッキンシットな国会議員とは器が違う。私の的外れな質問を冷静に咀嚼し、ジェントルにフォローしながら、全編にわたって誌面に映えるパンチラインをぶち込んでくれた。とても私より年齢が一回り下の若者とは思えない明晰ぶり、ビジョナリー感。インタビューから一ヶ月近く経った今も、「こういう時、清丸さんならなんて言うかな」と考えてしまっている自分に気づくところがままあるほど。リゾブラの会場(つまり俺がいつも本を借りている図書館だ)のそばを流れる河川敷で話を聞いた1時間を忘れることはないだろう。

 

というわけで、この拙い文章と質問を通じて、日本のポップミュージックの基準を塗り替えてしまった新作「Q曲」の魅力はもちろん、東郷清丸というアーティストの新しさと勇敢さの一端が伝われば、と思ってます。

  

さて、清丸先生のインタビューを掲載してもらえればもう思い残すことは何もない…はずだったのだが、岡村さんから声をかけて頂き、TURNにディスクレビューも書かせてもらいました(掲載はこちらが先)。しかも王舟と川辺素という私にとって最重要アーティストの新作。震えるわ。

 

turntokyo.com

 

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TURNの雰囲気に合う文章が書けるのか甚だ不安だったが、岡村さんの適切なアドバイスとエンカレッジのおかげで、なんとか作品に対する私なりの愛と敬意だけは表せたのではないかと勝手に思っております。

ぜひご一読の上、この傑作二枚を聴いてもらえると嬉しいです。