ドリーミー刑事のスモーキー事件簿

バナナレコードでバイトしたいサラリーマンが投げるmessage in a bottle

檸檬企画「曙の音」に行った日の話

先日配信デビュー曲も素晴らしかった檸檬のお二人が企画した「曙の音」に行ってきた。会場は金山ブラジルコーヒー。「めっちゃおいしい食べ物がたくさんあるで」という甘言で下の娘も一緒に連れ出した。

 

最初に登場したのは東京からやってきた(すみません愛知の方でした)シンガーソングライター・ムルヒ。完全に初めましてだったけど、ドラム、ベースにトロンボーンが入ったバンド編成と少しとぼけたアレンジはSAKEROCKを彷彿とさせる。一方でファンクネスあふれる歌と演奏はSUPER BUTTER DOGのようだし、楽曲はいかにも宅録的なねじれ感もあり、まさに才人現る、という印象であった。

 

続いて登場したMURAバんくはこれまた初めましてのバンド。スーツでビシッと決めた外観で疾走感のあるジャズをバカテクで決めつつも、クレージーキャッツ的なギャグを炸裂させていくスタイル。見事な芸達者ぶり。こないだカセットを手に入れてそのデタラメな才能が炸裂する様に打ちのめされた葛飾出身とも交流があるそうなので、もう少し深掘りしてみたい。しかしどうでもいい余談ですが、楽器にでっかい「TRUMP」というステッカーが貼ってあるのが見えた気がして、え?好きなの?ギャグなの?実は光の戦士なの…?と勝手にドキドキしてしまった。


お花見のようににぎやかな2バンドの後に、ギター一本を抱えて現れたのは、我らが東郷清丸。急に夜桜のムードである。彼の歌を最後に生で聴いたのはなんと2019年9月の『Q曲』のリリースツアー。すっかりご無沙汰してしまっていた。あれからいわゆる全国流通されるフルアルバムのリリースはないけれども、去年アジカンのGotchとスプリットでリリースしたカセットテープは彼のポップネスが健在であることを印象づける傑作だったし、bandcampでリリースした「Golden Week Songs」もシンプルな弾き語りというフォーマットでありながら、最新のジャズを彷彿させるような音像と余韻を感じさせたりもして、やはりこの人は底知れないものがあるな…と思っていた。

年末から今年にかけてリリースされた『余生Ⅲ』『ラバ区』も、完全自主制作のCD−Rということで、デモあるいは習作という印象を持ってしまいそうになるけど、よく聴くとやはりそう簡単に片付けられない深みがある。むしろポップミュージックを発明し直してきた東郷清丸のこれまでのスタンスからすると、この歌とギターというシンプルな形態こそが最新形なのかもしれない。彼が今どこにいるのか、その現在地をどうしても確認したいと思っていたのである。

そんな思いで見届けたこの日のライブ。歌の深まりぶりが想像以上にすごかった。安直な想像だけど、お子さんが生まれたこと、事務所から独立したこと、そしてもちろんコロナ禍も含めて、この2年半の出来事をすべて歌の滋養にしてしまったのではないか。そう思わせる凄みがあった。それまで賑々しかったブラジルコーヒーの空気を一瞬でつかみ取って、曲を重ねるごとに聴く者の心深くにじわじわと侵食していく静かな迫力に、ずっと鳥肌が立っていた。約30分と短いライブだったけれども、それでも来た甲斐があったと思わせてくれると同時に、あと1時間は聴かせてくれいとも思ってしまう。今の東郷清丸、みんなも絶対に観た方がいいと思います。

 

そんな感じでずっと音楽に打ち震えている父親を尻目に、ナポリタン、カフェオレ、クリームソーダを平らげて満足した娘と、それぞれお腹いっぱいになりながら帰宅。楽しいイベントでございました。