ドリーミー刑事のスモーキー事件簿

バナナレコードでバイトしたいサラリーマンが投げるmessage in a bottle

2025フジロックの記録

▪︎はじまり

フジロック。毎年胸がときめくが、いざ行くとなると金も時間も体力も消耗する。どちらかと言うとそのリソースは小さなライブハウスで新しい表現を探すことに使いたいと思っている私はそれほど積極的ではなかった。しかし今年のフジロックは去年12月、某所でお会いした鳥居真道さんに「来年、トリプルファイヤーが出たら行きますよ!」と伝えたところから始まった。ご本人は覚えてないだろう。しかし私は酒の席での軽口も(できるだけ)守る男だ。しかもその日は約一年にわたる佐野元春ヒストリーの連載が決まった時でもある。第一弾の出演者と日割りが発表された時点で、三日間行くことは決定していたのだ。おまけに東郷清丸まで追加されたのだから、今年のフジロックは私のために開催されると言っても過言ではない。過言か。

しかし三日間キャンプはさすがにキツい。宿を抑えようとしたけど、公式ツアーは抽選も先着も全滅。いろんな宿に連絡してみても一見さんお断り。そして僕は途方に暮れた。今までキャンプしかしたことないからな。いやしかし私には前から試したいことがあったじゃないか。それはキャンピングカー。幸い近所にレンタカー屋があったので、思い切って予約。これで宿問題は強引に解決。

俺は行くんだフジロックに…!という心地よいプレッシャーは私の生活を変えた。体力をつけるために、お気に入りのDEATHROのTシャツを着るために、4キロのダイエットを成功させ、出発の日を迎えた。

出発にあたりあらかじめ整理したミッションは以下の通り。

・親子三人、無事に帰る

・金曜朝のトリプルファイヤーから日曜夕方の佐野元春、深夜の東郷清丸をしっかり観る

・娘の観たいアクトは全部観る

音楽好きとしての欲求を満たすよりも、安全・安心なフジロックを過ごすことを第一優先に。

俺はやるぜ俺はやるぜ…。

 


DAY0

7月24日。午前中で仕事を終えた私はキャンピングカーを借りにレンタカー屋に向かう。デカい。分かっていたことだけどあまりにもデカすぎる。「じゃ、楽しんできてくださーい」と親切な店員さんに見送られて出発。しかし、3トンの車体を止めるブレーキは緩く、ハンドルは甘い。いつもの道は怖くて通れず、3倍くらいの距離を遠回りして家に着く。

ギリギリまで荷物を準備して23時ごろに就寝。3時に起床。不思議そうにしてる猫に申し訳ない気持ちで荷物を積み込み、3時40分に出発。10時には着くだろうと走り出したが、トラックが横を通り抜けるたびに車体が揺れ、カーブを曲がるたびに荷物が倒れ、段差を越えるたびに臀部を蹴りあげるような振動が突き抜ける。こんな車で本当にたどり着けるのかと涙目になりながらまだ暗い東海環状道を走る。しかし俺は絶対に11時半にはフィールド・オブ・ヘブンに着いていなければならない。全集中で頑張っていると不思議なもので、松本市をすぎたあたりで車の特性にも慣れ、なんならちょっと楽しい気持ちになってきた。しょぼい音質のカーステでキャロル・ケイのプレイリストを聴いた。

 


DAY1

予約していた駐車場に着いたのは10時半。予定より30分遅れ。最深部のフィールド・オブ・ヘブンに行くのはかなりギリ。turn岡村詩野編集長から「配信観るからトリプルファイヤー最前を目指せ」というLINEが来たが、すみません無理です。数百円をケチったことを後悔しながらリストバンドの列に並び、想像の3倍くらいの暑さと会場のバカ広さにドン引きしてる妻子を宥めつつ、恥ずかしいくらいの早歩きでひたすら奥へ。全身から吹き出す汗が尋常じゃない。ようやくステージが見えてきたのは開演3分前だった。

大好きなジョージ・ウィリアムズの前説の後に登場したのはトリプルファイヤー。来たぜ鳥ちゃん。願わくは俺もビールを飲む時間がほしかったところではあるが、「お酒を飲むと楽しいね」には間に合った。ベースの山本さんは全身で喜びを表現し、さすがの吉田も高揚を隠しきれずMCで普通にいいことを言ってしまっている。が、この日の演奏も野心的かつ仕上がりがバッチリ。繰り出される変態アフロビートを浴びながら25年前にここでフェミ・クティを観たことを思い出した。あの時会場で見かけたドイツ語の先生が単位くれなくて留年しかけたんだよな。「次やったら殴る」の尋常ではないアレンジ(興奮しすぎてあんま覚えてない)の後に披露されたのは山下達郎RIDE ON TIME」。これをサウンドチェックではなく最終盤にぶち込んでくる不敵さ。思わず達郎が吉田を殴る姿が目に浮かんだが、その後の「スキルアップ」のバキバキすぎるアレンジに達郎の顔はどこかに吹き飛んだ。不敵すぎるだろ鳥居ウォン…。これでミッションの一つ目を達成。

 

そのままOrange echoでSummer eyeを観たかったが、いきなりの長距離高速移動に疲れた娘がぶっ倒れそうだったので、昼食タイムに。昼間はやめておこうと思っていたビールを飲んでしまう。信じられないくらい美味かった。

 

せっかくだから娘にレジェンドオブロックンロール・甲本ヒロトを見せておくべきじゃないかという意見が妻から出て、グリーン・ステージでROUTE17 ROCK N’ ROLL ORCHESTRA を観る。ホット・ハウス・フラワーズのリアム・メンリィが歌うThe Whoのカバーに感動してたら山下久美子が登場。佐野元春が提供した「So Young」を歌った。佐野元春も若いけど、山下久美子も若い。本当にすごいことだ。そして松葉杖で登場したヒロトはなぜかTシャツを履いていた。とにかく声がデカくて歌が上手い。娘はちょっと怯えていた。

 

ホワイトでECCA VANDALが見たかったが、腹減ったというので音漏れを聴きながらところ天国でかき氷などを食べる。とにかく暑い。まだ会場での過ごし方がつかめない。

 

気づけばもう16時近く。そろそろビシッとライブが観たいぞと西ニジェール出身、MDOU MOCTARへ。サウンドチェックからビンビンにエキゾチックなグルーヴが炸裂。ある意味、トリプルファイヤーと地続きの音楽とも言える。が、彼のサウンドからは快楽だけではなく、苛立ちや怒りのような感情も伝わってくる。言葉も文化も共有しない初対面の私たちが音楽を通じてどれだけのものを共有できるのかということについて考えさせられた。演奏は激しくタイトだが、MCでは日本に来れたこと、フジロックの観客に感激していることを素直に語っていて、遠くから来たお客さんがこの国を好きになってくれるのって、やっぱりシンプルに嬉しいことじゃない?と思った。


そしてグリーンに戻ってHYUKOHとSUNSET ROLLER COASTERからなる韓台混合バンドAAAを。ちょうど夕暮れにさしかかったところで聴く、メロウなサウンドにウルっとくる。それにしてもグリーンステージの音の良さは本当に格別。どこにいても楽器一つひとつの音がニュアンスまで含めて伝わってくる。そんな環境で聴く名曲「Young man」の高揚感たるや。ふくよかなアナログシンセの音を聴きながら、これはクラフトワークが下敷きだということにようやく気づいた。後半になって映し出されたスクリーンの中には、思い思いの格好したチャーミングな若者たち。こんなお兄ちゃんたちがこんなスケールのでかい音を鳴らすとは。ますますグッとくる。あと違う国の若者がコラボレーションしてるのってやっぱりにいいよね。みんな仲良くしようぜ。

 

そして19時。待たせたな、娘。この日彼女が唯一楽しみにしていたVaundyの登場である。俺もちょっと好き。音源と寸分たがわぬボーカルと演奏、クリアなサウンドはさすが。「フジロック、おまえらほんとに踊れんの?気取ってるだけじゃねーの」っていうMCにも痺れた。が、、コーラスや鍵盤系の音など、あまりにも生ではない音が多すぎて、ライブバンドとしての迫力に欠ける。せっかくドラムがBOBOなのに。残念ながらファン以外のオーディエンスを巻き込むところまでには至ってなかったように思う。めちゃくちゃ売れてるわけですし、こういう場では日本代表としてもっと無茶していいんじゃないか。機材トラブルでスクリーンが映らなかったのは気の毒だったけど。ちなみに娘から「恥ずかしいから踊るな」と厳命されたので、直立不動Vaundyでした。

 

さあここから佳境。TYCHO、Ezra、Suchmos、Fred again…、のろしレコードが目白押し。なんですけど、我々はここでいったん車に戻り、お風呂タイム。普通の人から見れば気がふれてると思われるかもしれないが、体力のない娘を休ませて、心置き無く本命に全力を注ぐにはこの選択が正しかったと信じている。会場を離れて電波が良くなったところで、otonanoで連載中の「佐野元春ヒストリー PART4」が更新されたことに気づく。毎回気合い入れて書いているのでみんな読んでほしい。

 

大人だけでふたたび会場に戻り、RED MARQUEE へ坂本慎太郎を観に行く。4年前に来たコロナ厳戒のフジロックでは夜の部がまったくなかったので、眠らない会場を歩いているだけでテンションが上がる。いつもは森道すらめんどくさがるフジ初体験の妻は、これ理想の国じゃんと盛り上がっている。ゴミは落ちてない、人は親切、安心感がすごい、と。この景色を4年前のコロナ禍フジロックしか経験していない、今回は留守番の長女にも見せてあげたかったと何度も思う。

 

ヘッドライナーを全て諦めてでも観たかった坂本慎太郎。風呂上がり、寝不足、ちょっと飲んじゃった、というわけで開演前から昇天しかけていたが、完全に召された。ワンマンと違って、前戯なしでダンスチューンをガンガン投入するセットリスト。坂本慎太郎でも気合いが入ることってあるんだなってことが分かる極上のギターソロ。鳥居真道、MDOU MOCTARを観た日をこのギターで締められたのは幸せすぎだろう。誰だギターソロはもう古いって言ったやつは…と思っていたら前方に松永良平さんがいた。さすが。PAブースには大根仁もいた。

 

車に戻って就寝。駐車場を借りたホテルのトイレを使わせてもらえるので飲んでも安心。アミノヴァイタルとよく眠れる薬を飲んで2時半に就寝。ほぼ24時間起きてたな。

 

 

DAY 2

7時半に起床。極端に眠りの浅い私、出先で5時間寝られれば御の字。山の中はめちゃくちゃ涼しくてさわやか。あのいつも苦しめられていたキャンプサイトの灼熱は一体なんだったのか。車についている家庭用エアコンもほぼ使わなかった。


昨日、死にそうになりながらヘヴンまで早歩きした反省を踏まえ、今日は早めに出てオアシスで朝ごはん食べていくのはどうだい?と提案し了承を得るも、スキンケアが終わらない妻から先に行ってくれと言われ、娘と二人で先に出発。そばを食べてたら時間がなくなって、カトパコで盛り上がるグリーンステージに後ろ髪が抜けそうなくらいに引かれながら結局早歩き。もはや恒例のやつ。こんなはずじゃなかったのに…と思いながら汗だくでヘヴン着。しかし鳥居ギャル男は黙ってmei eharaよ。Cellar Records のTシャツ着てる浜公氣ガチ勢でもあるしな。複数回のアメリカツアーを経て太くなったバンドのグルーヴはもはやヴィンテージ感すら感じさせる。新曲も超最高。これはもう次はClairo との並びでグリーントリ前でしょう…と震えていたら、後ろにフェイ・ウェブスターがいた。本当に好きなんだなと胸を熱くしていたらあっという間にファンに囲まれて姿を消した。


カトパコ最高だった〜!と興奮してる妻と合流。そうだろうとも。俺も最高だったけどな。この後はOrange Echoでキセルを…そしてFOHでTHE PANTURASを…と思ったけど、娘を連れては無理。「あせらない・せかさない・いらいらしない」のドリーミー三原則を心の中で唱えて木陰に避難。グリーンの後方で君島大空を観る。俊英揃いのバンドによる鉄壁の演奏は完全にオーバースペックで、この過剰さこそがロックだろう。この過剰さこそがグリーンに立つ者の証しだろうと謎の目線で感激する。

 

木陰にいい場所を取れたので、荷物と娘を残して大人はジプシーアバロン津田大介ジョー横溝、岸本聡子のトークショー、そして春ねむりのライブを観に行く。が、ステージに着くなり苗場でもほとんど体験したことがないレベルの大雨が。雨具を置いてきてしまったため、フェス初心者ずぶ濡れ中年夫婦が一瞬で爆誕。いやワタシ97年の天神山のサバイバーなんですよ…と言い訳してまわりたい気持ちになる。

春ねむりのライブは初めて見たけど、こんなに普通の、どちらかというと繊細で内気に見える若者であることに衝撃を受けた。あの激しいメッセージは、勇気を振り絞って紡いだものなんだなと。反差別、反ファシズムなんて当たり前のことに、貴重な若者のエネルギーを使わせていることに大人として申し訳ない気持ちになった。素晴らしいライブだった。


雷も鳴ってきたので、グリーンに残してきた娘のところに急いで戻る。楽しみにしていたフェイ・ウェブスターも残念ながら素通りせざるを得ない。しかし娘は木の下でしっかりカッパを着てちゃっかりSTUTSを楽しんでいたそうで頼もしい。着替えのない妻は娘といっしょに車に戻るということで、Tシャツを持っていた私は一人で山をのぼり木の影で上半身裸になって着替える。崖の上のポニョおじさん。

 

グリーンステージにはジェイムス・ブレイクが登場。よく考えてみたらこれが今回初めての英米アーティスト。地獄の入口のような低音と、天使のささやきのような歌声。これは電子楽器を使った宗教音楽だ…と子鹿のように心も身体も震えさせる。


神の子ジェイムスのおかげか、雲の向こうに夕焼けが見えてきた。絶好のシチュエーションで山下達郎。グリーン近辺はすごい人。まったく携帯の電波が繋がらず、妻子が会場に戻ってきているのかどうかもわからない。ご多分にもれず、例の一件によるモヤモヤが解消されないままこの日を迎え、家族で観るならしゃーないという言い訳が私のお守りだったのだけれども、もはやそれすらも定かではなくなってしまった。そんな宙ぶらりんな状態で観た山下達郎のライブはかつて二度ほど観た時と寸分変わらない完璧さ。これを4万人近くが一斉に目撃したステージは、間違いなく日本の音楽史の1ページに残る瞬間と言えるだろう。キャリア50年の御大でも観たことがないであろう光景にめちゃくちゃご機嫌だった。しかし例の一件も、この日のしょうもないセクハラMCも、全てなかったことにしてしまうんだから、音楽の力はなんと偉大でなんと恐ろしいことよ。本当に怖い。でも私が一番興奮するのは「更新」なんだなということにも気づき、色々な意味で呪縛が解けるライブだった。観てよかった、と思うことにする。さよなら夏の日。面倒くさいやつだな。ちなみにサウンドチェックのシンセの音で「プラスティック・ラブ」で竹内まりや降臨という展開はなんとなく予想できてしまっていた。


生き別れていた家族とも再会できて、いよいよヘッドライナーのVulfpeck。鳥居ゼミを受講してこの日を迎えた我々、準備は万端。大歓声の中、登場するといきなり人間業とは思えない演奏と美メロが炸裂。オールドスクールのファンクというのは山下達郎と同じなんだけど、この屈託のなさ、底抜けの明るさはあまりにも対照的。情念なき善なるファンク。シアトリカルな明るさとスーパーテクニックに、かつて観たベン・フォールズ・ファイブを思い出す。ヘッズの熱さはここで苗場で観たフィッシュか。根暗の俺もさすがに前に行って踊りたいなと思ったけど、達郎まで娘をケアしてくれていた妻に権利を譲る。この世に一切の翳りなんてないかのようなメロディとグルーヴ、そしてユーモア。神々の遊びがあまりにも軽やかで、俺にもなんかできるんじゃないかって気になってくる。ジョー・ダートのベースの弦、実はウクレレ用だったんじゃないかって今でも疑っている。椅子に座ってじっと聴いていた娘が「アメリカン・ユートピアみたいだね」と呟くのを聞いて、色々と大変だった一日が報われた。

 

この多幸感のままゆっくり帰るぞ、と言いたいところなのだけれども、私にはまだ見たいライブがある。それはROOKIE A GOGOに出演しているMURABANKU。もともと名古屋のバンドだし、東郷清丸匚のメンバーであるノブトさんがいる。這うようにしてたどり着くと、ルーキーらしからぬ堂々としたトロピカル・ビートを鳴らしていた。ちなみにオジはルーキーステージのくるりを目撃してますからね。やっぱりここには夢しかない。みんなそれぞれのグリーンステージを目指して頑張ってほしい。

 

今日もなんとか生き抜いた・・・とズタボロで歩いていたら、会社の同僚に声をかけられた。すごい偶然だが、ひどい姿を見られたものだ。

車に戻り、ラムとアミノ酸でおやすみなさい。

 

 

DAY3

今日はゆっくり寝るぞと思っても7時には目が覚めてしまうのがアラフィフの悲しさ。しかし今日も苗場の朝は爽やか。酷暑の愛知に住む者として、移住という二文字がちらつくほど気持ちがいい。昨日は風呂に入れなかったので、車で温泉を目指す。ちょっと上級者っぽいだろ?と思っていたが、駐車場から出るのに悪戦苦闘。通りがかりの人が誘導しようとしてくれて、ありがたいけどめちゃくちゃ恥ずかしかった。

YouTuberの人がおすすめしていた温泉は駐車場にすら入れない大渋滞。仕方なくさらに街道を走り、道の駅みつまたにある温泉に入る。いいお湯に感動。100円の足ツボマッサージも2セット。せっかくだからここでご飯を食べようと食堂で注文するも、待てど暮らせど出てこない。Mei Semonesが、Swinging Boppersが観れなくなっていくという絶望感だったが、頼んだモツ煮がめちゃくちゃ美味しかったから全て良しとする。どうせ遅れるならならガソリンも入れてしまおうと会場近くのガソリンスタンドで満タンにしてもらうが、ハイオクみたいな値段の軽油だった。湯沢町の皆さんあってのフジロックですからね…。

 

ようやく駐車場に戻ったのは13時過ぎ。今ならまだOrenge Echoの寺尾紗穂に間に合うかも、と一人で先に出発。ゲート近くでトリプルファイヤー山本さんを発見。「ライブ最高でした!」とオタクムーヴをかます。普通に不審者だったと反省しながら入場。今日で終わってしまうことがすでに寂しい。

 

今日も早歩きでホワイトステージまで到達すると、何やらかっこいいバンドが演奏してる。シリカゲルだ。もうここが目的地ということにする。こういうエッジーかつポップなバンドって日本にあるかな・・・などと考えながら観る。

しかし結局、今回はOrange Echoには一度も辿り着けなかった。

 

娘がグリーンステージに着いたというので合流。Creepy Nutsをちょっとだけ観て、今日の大本命に備えて私は再びホワイトステージへ。そう、佐野元春 & THE COYOTE BANDだ。とはいえ、さすがに開演50分前は早すぎた。いったん浅貝川で沐浴。精神を集中する。目の前にSNSでちょっと話題になったセブンイレブンの制服を着た外国人の方がいた。が現地で見るとさほど違和感を覚えないのがフジロックのいいところ。

気合を入れて再びホワイトステージ前へ。やはり前方は元春ガチ勢のファンの方が多いが、徐々にいろいろなバンドTシャツを着た人たちで埋まっていき、前方はほぼ満員でライブスタート。ホワイトステージの音圧で浴びるコヨーテバンドの演奏がマジで最高。俺はこのために頑張ってきたんだぜ…と言いたくなる。佐野さんもオーディエンスの反応とバンドの演奏に手応えを感じていることがその表情から伝わってきた。たぶんめちゃくちゃ気合い入ってたと思うし、もしかしたら緊張もしていたかもしれないが、一曲目でペースを掴むところはさすが。「約束の橋」の「東の果てから西の果てまで」、「La vita e valla 」の「打ち上げられた魚のように どうにかここまでたどり着いた」という歌詞がしみる。ちなみにこの日演奏したうちの半分はコヨーテバンド結成以降、つまり最近の楽曲。そしてもう半分弱は元春クラシックだけど、コヨーテと共にアレンジを変えた曲。オリジナルのまま演奏したのは「サムデイ」と「アンジェリーナ」だけ。45年にわたり、常に更新し続けるアーティストとしての最良を凝縮したステージだった。おこがましいけど、佐野元春に2025年を捧げていることが誇らしくなった。

 

この感激で一晩は飲めそうだったけど、いったん余韻はしまっておいて、グリーンへダッシュ。Little Simzの後半をガッチリ観た。どファンキーなバンドも良かったけど、何より本人のしなやかなヴァイブスがかっこよかった。おしゃれだし。3日目の夕方、すっかりズタボロになった自らの姿をしばし忘れさせてくれる,スタイリッシュなライブだった。楽しく踊っていたら、後ろをシマダボーイが通り過ぎていった。

 

そのままグリーンで娘が観たがっていたRADWIMPS。私がオアシスエリアへ夕飯の買い出しに行ってる間に朝ドラのオープニングテーマが始まった。初めて観るけど演奏がとても上手いバンドなんですね。何度も引き合いに出して申し訳ないが、Vaundyもこれくらいのライブ感がほしかった。


このままグリーンにいた方が安全ではあったが、娘が羊文学を観たいというので、半分すぎたところでホワイトへ移動。すごい人。もともとスタンディング耐性のない子供にホワイトとマーキーは厳しいが、この人の多さはキツい。しかしサウンドチェックで「1999」がフルで聴けたから早めに来て良かった。硬質かつストイックなギターサウンドに、娘よりも初めて観る妻の方が盛り上がっていた。いいライブだったけど、娘をグリーンへと急ぐお客さんのタックルから守るのに必死だった。そういえば4年前は長女とマーキーで羊文学と、この日のドラムを担当したYUNAがいたCHAIも観たのだった。CHAIがあの後すぐ解散するとは思わなかったけど。

 

VWはきっぱりと諦め、HAIMに全集中。ホワイトの周りは三日間を乗り切った疲労と高揚、そしてこの巨大な祭りが終わってしまう寂しさが混ざり合った、なんとも言えないムードが充満している。

が、そんなセンチメントな空気を読まず、さあパーティーはこれからよ!!!って感じでシャンパンボトルを掲げて乱入してくる感じのHAIM三姉妹。最高。Vulfpeckの100分の1の演奏力に肩透かしを食らいつつも、やりたい放題やりまくる彼女たちの姿から目が離せない。「やりたくないこと全部やめた。あんたも辞めてもいいのよ」という全身全霊メッセージは、あらゆる対立構造を無効化させ、女も男もそれ以外も、すべての人を自由にする。キラーチューンもたくさんプレイしてくれたけど、演奏よりもそういうメッセージが印象に残った。なんという人間力。最高にバカバカしくて明るい海外ドラマを観たような気分。最後のアンコールをやりそうでやらないグダグダ感も良かった。日本人、まじめすぎる。羊文学がこんな感じになったらもっとおもしろくなると思う。俺もHAIMを見習って生きたい。

 

終演後、もう歩けねーという娘の手を引いてホワイトの人混みを脱出。グリーンではクロージングアクトの1950’s Western Caravan Orchestra が美しく豊かな音を鳴らしている。尾藤イサオ(81歳)の美声に見送られてピラミッドガーデンを目指す。この道を歩くのも最後だという寂しさと、もう歩かなくてもいいのだという解放感がないまぜになる。この三日間、いろいろなライブを観たけど、結局のところフジロックで遊んだぞ、生き抜いたぞ、という感覚が一番最初にやってくる。あらゆるものを飲み込む巨大な祝祭。音楽も主要ではあるが、その一部でしかない。ライブハウスこそが音楽のホームだと思うけど、やはりここに来ないと体感できないものは確かにある…とか考えているうちにピラミッドガーデンに到着。子を妻に託し、一人いそいそと東郷清丸を観に行く。

 

夜のピラミッドガーデンに来たのは初めてだったんだけど、ああ俺はもう死んでしまったんだな…と真剣に思うくらいヘヴンリーな場所だった。そしてキャンドル・ジュンの蝋燭で照らされた祭壇の上にいる東郷清丸はまるで教祖のよう。しゃべるといつもの清丸君なんだけど。しかしその歌声は虫の声、川の音、夜の空気と呼吸を合わせるような繊細さ。前半の「つつ」「はどう県」のアンビエント感ある歌声にやられて、裸足で芝生の上に大の字になって聴いた。そして今まで何百回も聴いてきた「ロードムービー」「L&V」も初めて聴くような新鮮な感動があった。理由はもうわからない。モノ持ちのいい私はこの日、ポップスターだった頃の東郷清丸が作った「Q曲」Tシャツを着ていたのだけれども、もしコロナ禍がなくて、小豆島に移住もしていない、あの時のままの東郷清丸だったら今ごろどうなっていたのだろう。マーキーとかに出てたのかな。しかし4月に匚を、そしてフジロックでこんな歌を聴いてしまった者として、これ以上の歌があったとは思えない。最後は「家族の讃歌」。どこで聴いても泣いちゃうからあんまり聴かないようにしてる曲。これでフジロックが終わるなんてあまりにもできすぎてはいないか。ありがとう東郷清丸。ありがとう(この時間にブッキングしてくれた)キャンドル・ジュン。ライブの余韻を1ミリもこぼしたくなくて、清丸君に挨拶することもなく車に戻る。苗場でのミッションはすべて達成。とにかく最高の三日間だった。

 

 

DAY4

朝、留守番の長女からのLINEで7時に起床。15時までに車を返さなきゃいけないので、あまりゆっくりしている時間はない。寝ぼけた人たちを乗せたまま駐車場を出発。宿のおじさん、いろいろお世話になりました。

行きとは違って運転にも余裕がある。常に右斜前方をセンターラインに合わせるように走るとよいという個人的なコツを得て、登坂車線を駆使しながら走る。しかし関越道でGoogleマップが新しいルートを案内するというので従ってみると、なんと長野県のどこかで高速を下された。どこじゃいここは?と一般道を走っていると目の前にツルヤ発見。これは神の思し召しだと迷わず入って食材を買い込む。どさくさに紛れて「今此処」という佐野元春ファンには無視できない焼酎も買う。最後くらい実用的な情報を書いておくと、ツルヤでは絶対にきのこ類を買うべし。合法的に飛べるから。そしてこの日初めてトライしたフリーズドライのスープとレトルトカレーも最高でした。それもキノコが入っているやつは間違いない。

 

レンタカー屋さんにちょっと遅れますと詫びの電話を入れて、15時半に自宅着。これで全ミッションをコンプリート。ままならなかったこと、やり残したことはたくさんあるけど、この苗場に置いてきた後悔がまたフジロックに足を運ばせる理由なのだろう。永遠にクリアすることのないゲーム。行く前はもう不安しかない…と警戒していた妻も、次に行くならば…とか言って持ち物のシミュレーションをしている。しかし未来のフジロックは怒涛の洗濯とメールチェック、そして思い出の整理から始まるのだ!