ドリーミー刑事のスモーキー事件簿

バナナレコードでバイトしたいサラリーマンが投げるmessage in a bottle

初めて家主のライブを観た話

これまで二回企画されて二回ともコロナでキャンセルになった家主のライブin名古屋。まさに念願のライブ初体験。セカンドアルバムが出てようやく…である。

 

しかしライブは見たことはないものの、彼らの音楽は自主制作のCD-Rの時から聴いているし、配信ライブもほぼ欠かさず観ている私。なのでこのバンドについてはそれなりにわりと分かってますよ、という体を気取っていたのだけれども、なんか全然そんなことなかった。むしろなんも分かってなかったわ…ということを体感したライブだった。

 

去年のTURNの年間ベスト記事でも書かせてもらったように、家主というバンドの魅力の源泉は、彼らが内包する歪みや矛盾にあると思っていた。例えば、最高に人懐っこいメロディーと絶望の底を突き破ったような歌詞。あるいはカレッジバンドのような佇まいに同居する往年のギターヒーローのような田中ヤコブの超絶プレイ、といった具合に。

 

でも初めて観る家主のライブはそんな細かいヘリクツははるか彼方に投げ飛ばしてしまっていた。

ロックバンドがひたすらにいい曲を演奏して、お客さんが思いっきり泣いたり笑ったりする。ただそれだけの1時間半は、もう拍子抜けするくらいにシンプルな多幸感に満ち溢れていた。歪んだり屈折したりしてる場合じゃなかったんですよ。

 

なんせこの4人組、思い思いに風変わりな雰囲気をまといつつも、とにかく楽しそうに演奏する。大学サークルの演奏会ですか…?というくらいのアットホームぶりで。それを観てるだけでこっちまで嬉しくなってしまうし、少なくともライブにおいては、芸術性とか作品性みたいなことよりも、この四人で演奏する喜びこそを大切にしている感じが伝わってきた。

そしてその姿勢は音にも反映されていて、配信ライブを見た限りでは飛び道具的に浮いているところが最高にユニークだった田中ヤコブのギターも、見事にアンサンブルの中に溶け込んでいたように思った。あの豪速の変化球を受け止められるくらいに、三人の作るリズムの足腰が太かったのである。その結果として、シンプルな8ビートでもなんだか妙にスウィングしている不思議なグルーヴが生まれていて、椅子になんか座ってられねぇよ…と気持ちにさせられた。精緻かつ繊細な技術で勝負するアーティストが多い昨今のシーンにおいて、まったく真逆の王道的アプローチ(でもやっぱりどこか狂ってるんだけど)で未知の領域に達している様が最高に清々しい。

さらにこの日のライブの何が特別だったと言えば、ソールドアウトで家主を迎えたお客さんのあたたかさですよ。大人しいことで知られる名古屋のお客さんが、バンドの演奏と完全に呼応しながら盛り上がっている光景は、コロナ以降のライブハウスで一番の美しさだったかもしれない。ワンマンだから当たり前だけど、ここにいる人たち全員が家主のこと好きなんだよな…と思うと胸が熱くなりました。

 

これはまた絶対に観たいわ…でも俺は4月の京都も行っちゃうもんねーとほくそ笑んでいたところで「あれ、そういえばチケット取ったけ…?いや、取ってないじゃん!」と気づき愕然。すっかり予約した気になっていたよ…。

信じられない失態に涙しながら得三の新名物のおみや(お持ち帰り用のおつまみセット)をアテにやけ酒をキメた。どなたかチケット余っていらっしゃればぜひ声かけてください…。