ドリーミー刑事のスモーキー事件簿

バナナレコードでバイトしたいサラリーマンが投げるmessage in a bottle

東郷清丸ワンマンコンサートを開催しました

久しぶりにライブを主催した。その名も「東郷清丸ワンマンコンサート」。私のような音楽好きがイベントを企画する場合、その価値観にあった何組かのアーティストに出演してもらうということが普通だと思うのだけれども、今回はワンマン以外の選択肢はあまり考えなかった。今の東郷清丸の歌をたっぷり聴いてほしいということこそが私のエゴであり、今やってみたいキュレーションだったから(とは言え個人的にもう少しドキドキしたいと思い、オープニングDJをやらせてもらうことにした)

 

清丸さんから声をかけてもらってライブの開催が決まったのが5月末。それから2ヶ月の間にコロナの感染状況はみるみるうちに悪化。果たして彼は無事に名古屋に来れるのか、私や家族も感染せずに乗り切れるか。最後の一週間くらいは毎日ヒヤヒヤして、絶対に電車に乗らないようにしていた。私ですらこんな気持ちになるのだから、世の中のミュージシャン、イベンターの皆様の胸中たるや…。

 

ライブを開催した7月29日はフジロック初日。清丸さんが到着した頃、ちょうど配信もスタートしたので、しばしお茶を飲みながらモンゴルのバンドを一緒に鑑賞。「なんかこのまま夜まで観ちゃいそうですね」という一言で今日の予定を思い出し、娘たちと一緒に近くのラーメン屋さんへ。しかしそこでもフジロックが流れていた。

 

昼食後、名古屋へ向かう車の中で清丸氏といろいろな話をした。今さら私が言うまでもないけど、清丸さんの話はいつも本当に面白い。考え方はとても合理的なんだけど、その合理の「理」の部分をちゃんと自分の五感で納得するまで確認している感じ。私のようなサラリーマンにとっての合理性とは、どれだけ楽に、早く利益を出せるかという観点のみであり、それが本当の「理」なのかどうかなんて考えもしない。しかし彼はアーティストとして、あるいはひとりの人間としての最善というものをきちんと考えて、その状態を作り出そうとしている。成功するかどうかとかは関係なく、それを追い求める過程こそが人生なんだよな…と会うたびに考えさせられてしまう。この辺りの話はぜひ彼が書いている「日誌I・II」を読んでみてほしいと思う。

 

行ってみたいとリクエストのあったコメヒョウを経由して会場のブラジルコーヒーへ到着。ここで私がライブを開催させてもらうのは初めて。だけど6月末にリ・ファンデくんが曽我部恵一さんとツーマンをやった時にも店主の角田さんにはご挨拶してるので緊張少なめ。清丸さんはもう何度もやっているのでリハもスムーズに終了。開場まで一時間あったので、DJの練習。清丸さんのストレッチが捗りそうな選曲を心がけていたら、角田さんに「知らない曲ばっかりだけどいいわー」とほめてもらってとても嬉しかった。そして西陽が窓際に置いてあったジンジャーエールのグラスに差し込んできた時の美しさは忘れられないプレシャスメモリー…。

 

このコロナが吹き荒れる昨今、しかもフジロック初日に集まってくれる人はいるのだろうかと心配していたけど、思った以上の方が集まってくれた。改めてお一人ずつにお礼を言いたいくらい嬉しかった。音楽、特に清丸さんのような真にインディペンデントな音楽を聴きにきてくれる人たちは、ただのお客さんということではなくて、その表現を支えているパートナーのようなものですよね…と思った次第です。ありがとうございました。


そしてライブはたっぷり1時間半。聴きたい曲はほぼすべて歌ってもらった感じがする。

この日のことを私はなかなか客観的な視点で振り返ることはできないのだけれども、歌詞カードも見ず、曲順も決めず、身体のおもむくままに曲を紡いでいく姿をもって、非日常的な歌唱という行為をいかに自然な営みとして発生させることができるか、という命題に対する過程を見せてもらったような気がした(アンコールをやらない、というのもその一環だろう)。そしてもちろんその試みはすでに高いレベルで完成していて、すっと心に染み込んでくる歌声や、音と音の間だけで身体を心地よく動かしてくる独特のリズムはその証しとして届けられたものだと思うのだけど、この先が彼がどうなっていくのか、本当に目が離せないアーティストだと改めて思った。演奏が終わった後のお客さんの表情や、長い物販の列を見ると、きっと来てくれた皆さんも同じようなことを感じていたのではないかと勝手に思っている。

機材を撤収して帰宅。ただの肉体作業ではあるけど、こんなとすらもなんか文化祭みたいで楽しかった。

 

翌日、みんなで朝ごはん。人懐っこい兄猫はもちろん、用心深いはずの妹猫もすっかり懐いている。いつまでも引き止めてしまいそうなくらい、家族のこと、仕事や生活のことなどをのんびりと話してしまった。次の公演地、高山はここからかなり距離があることを思い出し、急いでお見送り。夏が夏でることをまっとうしたような、強く眩しい陽射しの中を走り去っていく車を見送って、俺の夏が終わった。今からはもう残暑だな、という思いでいっぱいになった。

清丸さん、様々な形でご協力頂いた皆さん、ありがとうございました。