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ドリーミー刑事のスモーキー事件簿

バナナレコードでバイトしたいサラリーマンが投げるmessage in a bottle

宇壽山貴久子・西村ツチカ「Left to Right, Right to Left」展に行ってきた話

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SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS にて、宇壽山貴久子と西村ツチカによる「Left to Right, Right to Left」を見てきました。

宇壽山さんが暮らしていたニューヨークの地下鉄の乗客を撮った写真「Subway」シリーズと、その写真をもとに西村ツチカさんが描いた絵を同時に展示。

「同時に展示」とサラッと書いてしまったけれども、現実の光景を切り取った宇壽山さんの目線と、そこから跳躍する西村氏の創造力が、行き交い、対峙するギャラリースペースには、どこか引き締まった空気も。


「暮らしの手帖」で連載中の「ワンピースの女」にも感じることなのだけれども、宇壽山さんが撮るポートレートは、被写体が誰であっても、その人が持つ高貴さのようなものが引き出されているように感じる。

今回の被写体も、撮影されていることを意識していない(であろう)地下鉄の乗客であるにも関わらず、まるで映画のワンシーンのような、深みのある表情を捉えられている。

写真を通じてそうした瞬間を目の当たりにすることで、地下鉄にたまたま乗り合わせた名前も知らない誰かも、それぞれの人生の主人公であるという、当たり前の事実に改めて気づかされる。

一方で、それぞれの事情が最も慌ただしく交錯する地下鉄というタフな空間において、そのささやかな事実に、どれだけの敬意が払われているのか、ということに思いを馳せると、一抹の切なさもよぎるわけで。

そんなそれぞれの小さな、数え切れない事情を飲み込んで走り続ける地下鉄にこそ、都市の営みというものが象徴されているのかもしれない。


そして宇壽山さんの写真をもとに描かれた西村ツチカさんの絵。

ニューヨークで暮らす人々の輪郭を、柔らかな憂いと都会性を感じさせるタッチで描いた上で、人物たちの表情(目鼻)が、意外性のある漫画的な線で書き込まれている。

この洗練された色彩と、ローファイで親近感のある線の大胆な組み合わせ。それによって生まれる奥行と重層感がちょっとクラッとするほど新鮮。

特に単純化された線で描かれた、優しげで少し気弱にも見える人物たちの表情は、容姿や属性に関わらず、すべての人が抱える普遍的な心細さを浮かび上がらせているようで、(西村氏がメンバーの)トーベヤンソンニューヨークの世界にも通じる、心の機微に対する繊細なまなざしがあるように感じるのです。
勝手な思い込みかもしれないけれども。


小さなスペースでの展示だったけれども、いろいろな感慨を覚えたので、記録しておきたかった次第。