ドリーミー刑事のスモーキー事件簿

バナナレコードでバイトしたいサラリーマンが投げるmessage in a bottle

GEZANとトリプルファイヤーのツーマンを観に行った日。

トリプル・ファイヤーとGEZANという、世にも奇妙な組合せのライブ。

オミクロンと猛烈な寒さを避けるため、浜松までは電車ではなく車で向かう。朝は雪が振ったけど、夕方にはすっかり晴れた。浜松に来るのは20年3月の宇壽山貴久子さんの写真展とトークショー以来。思えばあれがコロナ緊急事態宣言前の最後の県外訪問だったのでとても印象深い。開場前に何か食べようと街を歩いたが、閉店あるいは休業している飲食店がとても多い。特に個人店はほぼ開いていないという印象。結局、商店街のはじっこにある闇市の露店というか小屋というかテントのような店に入る。ドアもなくほぼ野外。ストーブにあたりながら焼酎お湯割りを飲む妻は楽しそうだったが、車で来たので酒が飲めない私はひたすら凍えていた。

 

初めて訪れた浜松FORCE。フロアには番号付きのバミリが施され、感染対策もしっかり。

最初に登場したのはトリプルファイヤー。最後に生で観たのが思い出せないくらいに久しぶり。最初にステージにメンバーが揃って鳴らした音が気持ち良すぎて変な声が出そうになる。サポートのシマダボーイはテルミンまで弾いていて、なんかもうビンテージ感、オーガニック感、つまり本物の風格のようなものすら漂っている。これはもう完全なる完成形なんじゃないだろうか。フェラ・クティも草葉の陰で喜んでいるはず。なので問題は吉田の不謹慎極まりないリリックが真面目でちょっと怖そうなそうなGEZANのファンにどう受け止められるのかということのみ。なんなら途中でステージから引きずり下ろされるのではないか。しかし演奏が始まってもその吉田がいない。しばらくして妻が最前列でモゾモゾやってる人を観て「あれ吉田じゃない?」というのでよく見てみると、フロアー側からステージによじ登ろうとしている吉田がいた。プロレス式の入場で盛り上げようとしたのか、本人がMCで言ったようにウンコしてる間に演奏がはじまってここを通らざるを得なかったのか、真相はよく分からない。とりあえずお客さんにとっては迷惑な登場であったことは間違いない。しかし一たびステージに上がりマイクを握れば、さすがタモリ倶楽部に出る芸能人は一味違うと思わせる声のデカさ。多くがトリプルファイヤー初体験であろうGEZANのファンも、この未知の生命体に戸惑いながらも生暖かい眼差しを送っていたように思う。そして何よりこのすっとぼけたボーカルと鉄壁のアフロビートが一切混じり合う気配がないまま、それぞれの軌道で宇宙空間を飛び続ける様に、ポップミュージックの奥深さ、ダンスミュージックの神秘を感じた。最高。

 

続いてはGEZAN。フジロック以来二回目のライブ。こんな小さい会場で観たら圧死するんじゃないかという微かな恐怖。

私がGEZANの音楽と向き合う時は、巌流島の決闘に挑むような感覚がある。彼らが歌っていることのいくつかには深く同意するし、押し寄せる肉体的な興奮に抗うことはできないのだが、歌詞から透けて見える考え方にどうしても強い違和感を感じてしまうという葛藤。なのでこの日も「やれるもんならやってみやがれ」という謎の反骨心を持ってフロアに立っていた。

フジでは数十人のコーラスを従えていたGEZAN。この日は四人のみ。しかし地鳴りのようなトライバルビートとマヒトが駆使するルーパーによって生み出される迫力は数十人規模の軍勢がいるようにしか思えない。ずるいじゃないか!と思う間もなく、『狂』のナンバーを中心としたメドレーに熱狂した。ここには音楽を超えた何かがあるような気がする。

そしてめちゃくちゃエキセントリックで繊細な人という先入観を抱いていたマヒト氏もMCで「トリプルファイヤーを見てるとなんか励まされる」なんて言ってくれたりするいい兄貴であることも分かった。これからは自分の中の勝手な警戒態勢を緩めることにしたい。


トリプルファイヤーという宇宙と、そこをひた走る彗星のようなGEZAN。そこには何らかのケミストリーがあったのだろうか。いやきっとあったはずだ。今の技術では観測できない何か、ダークマター的なやつが。そんなことを考えながら運転してたらいつの間にか深い山の中に迷いこんでしまい泣きそうになった。