ドリーミー刑事のスモーキー事件簿

バナナレコードでバイトしたいサラリーマンが投げるmessage in a bottle

サニーデイ・サービス「TOKYO SUNSET」

2021年の夏。

俺もおかしかったし、みんなもおかしかった。まだ何も決着がついたわけではないけど、10月13日にリリースされたサニーデイ・サービスの新曲「TOKYO SUNSET」は、この狂った夏を走り抜けたアーティストからの手紙のようなものだと思った。もう少し踏み込んで言うと、この夏に打ちのめされた俺たちの気持ちを代弁してくれた曲なんじゃないか、という気すらしている。


パラリンピックが終わって空っぽの9月」という歌い出しが想起させるのは、逆にあまりにも空っぽじゃなさすぎた8月までのこと。制御不能の新型コロナウィルスの感染に怯える中で開催されたオリンピック・パラリンピックの果てしない混沌。一方で軒並み中止に追い込まれたロックフェスと、石を投げられながら厳戒態勢で開催されたフジロック。今はどれも無かったことになってしまっているけど。

続く「きみからのメール もう一度読んだ」「太陽はいつだってぼくらの側にいるんじゃなかったのか?」というフレーズから連想したのは、真夏の太陽の下で開催されたフジロックを巡って様々なアーティストが表明せざるを得なかったステートメントのことだ。ミュージシャンにとっては音楽こそがステートメントのはずなんだけど。そういえばその昔に「太陽は僕の敵」という曲を書いたアーティストも、長い文章を書いていたけど、みんな読んでくれたのだろうか。あれは自分というものと真正面から向き合った誠意の塊のような文章だったと思っているけど、気にかけたりちゃんと反応してくれた人はほとんどいなかったように思う。やっぱり太陽は僕らの側にはいなかった。

 

「移り気なホームレス 変わりゆく街の色をまとってただうろつく」

前のヴァースでの予感が正しければ、ここで言う「ホームレス」とは、定見なくフラフラと言論というバットを振りまわしながら歩く評論家、次から次へと標的を探しまわっているマスコミやジャーナリストのことに思えてくる。本当のホームレスの人たちには失礼すぎる解釈だけど、ホームレスの人たちそれぞれに事情があるのと同じように、評論家やジャーナリストにも、そう振る舞わなければならない理由がある。そんなことまでを汲んだ表現なのかもしれない。

 

そして

「TOKYO SUNSET 言い訳はぜんぶのみこまれてしまう(はあ…)」

「TOKYO SUNSET 涙が出るほど美しいねホント」というサビ。

ソカバンを彷彿とさせるシンガロングなメロディに乗ると、まるで美しい夕暮れを讃えているようにしか聴こえないけど、歌詞だけを抜き出してみると皮肉めいた、うんざりした感情が浮かび上がってくる。例えば小山田圭吾やGotchや太田出版が書いたメッセージがどんなに真摯なものだったとしても、SMASHクリエイティヴマンがどんなに誠実な仕事をしても、そんなことに誰も興味を払ってはくれないという無力感に重なり合う広すぎる空。そんなやるせなさが吐き出されているように思えてしまう。

 

一番の歌詞がこの街を覆った狂気を語ったものだとするならば、二番に出てくる「もしもアベンジャーズがこの街に現れたとしたらオレをやっつけてくれ頼むぜ」という歌詞には、その狂気を飲み込んで生きていかなければならないことへの罪悪感が込められているようだ。例えば彼らがフジロックに出演した時の葛藤は、外からは想像できないくらいに深いものだっただろう。それでもあえて私は、この感覚は彼らだけのものではなく、私たち自身のものでもある、と言い切ってしまいたい。コーネリアスへの過剰なバッシングに抵抗したり、こっそりフジロックに参加したり、マスクを着けて無言のままライブハウスへ足を運ぶことで、世間というアベンジャーズにやっつけられてしまった私(たち)もまた、投げやりになりそうなくらいの罪悪感の中にいたのである。しかも俺は今までずっとアベンジャーズ側を生きていると思っていたわけで、もう笑うしかない。こんなにあっけなく悪者になっちゃうんだな、という虚無感は、これから先も引きずっていくことになると思っている。

 


長々と自分のトラウマに引き寄せた勝手な解釈を書いてしまった。でも結局のところ、この曲の何が最高なのかと言えば、かくも重くてドロドロした現実を乗せても、サニーデイ・サービスというバンドワゴンはそのスピードを緩めなかった。そして、こんな答えのない憂鬱すらも燃料に変えてしまうロックンロールの魔法を体現してくれた、ということに尽きると思う。ロックがつくった傷はロックでしか治せない。そう考えると、日本のミュージシャンにとって「2021年の夏」というテーマは何よりもタイムリーで、誰にとっても切実なものだと思うのだけれども、そこに手を突っ込んだ表現に、少なくとも俺はまだ触れていない。またしてもサニーデイ・サービスがファーストペンギンになってしまう光景、ここ5年くらい何度も繰り返されているような気がする。

ともかく、早くこの曲をライブ会場で(声は出さずとも)、彼らとシンガロングできる日が来てほしいし、この夏に打ちのめされた人たちが、新しい季節に進めることを祈っている。

 

2021/11/4追記

「TOKYO SUNSET」のMVが発表に。私の妄想とは一切関係のない、どこまで純情でリアルな高校生の物語。曽我部恵一監督作品。こちらが真説でしょう。しかしこんな清々しく美しい物語を真ん中に置きつつも、私のようなおじさんの葛藤も乗せてドライブしていくサニーデイのロックンロールの懐の深さに、改めてやられている。

 

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