ドリーミー刑事のスモーキー事件簿

バナナレコードでバイトしたいサラリーマンが投げるmessage in a bottle

2021年8月21日の記録(フジロック2日目)

フジロックに行ってきました。

すみません。

 

出発数時間前まで、開催に対する批判が吹き荒れるTLを眺めながら悩みに悩んだけど、結局最後に勝ったのは、私のエゴだった。

新潟から遠く離れた場所に住む私にとって、フジロックは簡単に行ける場所ではない。距離的にも時間的にも金銭的にも。実際に私が最後にフジロックに行ってから15年も経ってしまった。

そして「観客数を例年の1/3に絞る」「日本で活動するアーティストのみ」という利益面で苦戦が強いられる開催形態になると聞いた時から、97年の第一回に参加し、いい歳をした今でもライブハウスをウロウロしている自分のような者が、今こそ参加すべきなのではないかと思ってしまったのである。コロナウィルスの前ではそれが取るに足りないセンチメントであることは承知の上だけど、フジロックというイベントあるいはSMASHというイベンターに対する敬意と信頼を表したいと思ったし、今私が夢中になっている若いアーティストにとっても、あの舞台がなくなってしまうというのはあまりももったいないことだと思った。


そしてもう一つ参加しようと思った根拠は、コロナ禍以降、ライブハウスや野外フェスにおいて、主催者が感染対策を必死に考え、オーディエンスもまたそれを守っている現場を実際に目にしていたからということもある。みんな自分の大切な仕事場が、あるいは遊び場が無くならないように必死だし、実際に私が行ったイベントでクラスタが発生したことはなかった。もちろん状況は厳しくなっているのも事実だけど、この情勢の下、数々の修羅場をくぐってきたSMASHがいい加減な運営が行うことはあり得ないのではないかと判断した。


なのでまず最初に、今回のフジロックにおけるコロナ対策に関する、私なりの感想を書いておきます。

扇動的な記事でPVを稼ぎたい新潮とか文春とか女性自身には申し訳ないけど、主催者は厳しい感染対策を行っており、お客さんもそのルールとマナーをしっかり守っていた。その結果、例えば毎日10万人近くを動員するプロ野球、同じく毎週数十試合が行われるサッカーと比べて感染リスクが高かったかと言えば、決してそうではなかったように思う。もちろん多くの人が集まる以上、リスクがゼロとは言えないし、対コロナという観点で言えば、開催すべきではないという意見が正しいとは思う。しかし、経済と感染リスクのバランスを取らなければ生きていけない2021年において、フジロックだけがこれほど敵視される理由もないのではないだろうか、というのが結論です。


話を戻します。


そんな様々な葛藤を抱えつつ、そしてそこまで悩むならもうやめておけよというもう一人の自分を助手席に乗せながら、土曜日の夜が明ける前に私は苗場に向かって出発した。雨と霧、そして厳しいカーブが続く中央道を耐えぬいて、9時30分に苗場着。会場至近の駐車場に車を預ける。例年ならこんないい場所を確保できるなんてあり得ないだろう。


会場に入る前にまずはキャンプサイトへ。健康状態を登録したアプリを見せた上で検温、消毒、荷物検査を経てサイト内へ入ることができる。「アルコール持ち込み検査ゆるゆる」と書いている記事もあったけど、かなりしっかりチェックされましたよ。もちろん直前に抗原検査も実施済み。


私は二日目からの参加なので、いい場所にテントを張るのは諦めていたけど、これまたキャンプサイトも空いていた。入口近くの平坦な場所に寝床を確保することができた。


汗だくになりながらテントを立てて会場へ。もちろん再度の荷物検査、消毒、検温あり。天気予報は曇り時々雨だったけど、ピカピカに晴れている。この色の濃い青空と山の緑を眺めて、ようやく苗場に来たんだな…という実感と喜びが湧いてきた。入場ゲート周りの人口密度は通勤時の駅のホームくらいのイメージ。密といえば密だが、人と人が触れることはない。


最初に見えてきたのはグリーンステージのKEMURI。懐かしい景色とあいまって20年前にタイムスリップしそうになる。しかしまずは昼メシを食べたいのだ私はということで、ところ天国で発酵定食とノンアルビールを買ってホワイトステージのカネコアヤノへ…と思ったら係員さんが飛んできてステージエリアでは飲食禁止と注意を受ける。失礼しました…。


12:00- カネコアヤノ @WHITE STAGE

さてホワイトに立つカネコアヤノ。この日のラインナップにおける10年代インディー代表と言ってもいい存在。小さな身体から発せられる気合いが遠目にも伝わってくる、王道のど真ん中を堂々と歩いていくようなパフォーマンスだった。パッと聴くとシンプルな演奏も、実は繊細な音づくりがなされていることがホワイトの最高のPAを通じて身体全体で感じることができたし、特に最後に演奏した「アーケード」の爆発的なアウトロには、勝手にストーンローゼズの名曲「Fools Gold」を見出してしまい、猛烈に興奮した。MCで多くは語らなかったけど、いろいろなことがもう十分に伝わってくるステージだった。カッコいい。

 

通常であればライブの合間はビール飲んだりだべったり…という過ごし方になると思うのだが、なんせアルコールなし・友だちもなしという環境なので、やることと言ったら散歩しかない。森の中のボードウォークを通ってGypsy Avalonへ。ちょうどムジカピッコリーノ楽団が「Just two of us」を演奏していたのだけど、あまりにもスムーズなグルーヴに絶対大人が演奏していると思ったらガチで子供たちがプレイしていて驚いた。

 


13:50  AJICO @WHITE STAGE

そこからまたホワイトに戻ってきてAJICOを観る。旧作にそれほどは思い入れがなかったのだけど、最近出たEP「接続」があまりにも瑞々しいかったので、ライブもぜひ観たいと思ったのである。ベンジーUAも生で観るのはそれこそ00年や99年の苗場や石狩以来かもしれないけど、歌声がまったく衰えていないことに驚く。UAソロの名曲「悲しみジョニー」ももちろん嬉しかったけど、やっぱりAJICOの新曲がフレッシュで良かった。同行者に「あの野球帽を被ったギターの人が、フジロックのグリーンステージ初の日本人ヘッドライナーをやったんだよ」という豆知識を押し付けてちょっと面倒くさそうな顔をされる。

 

14:50- サンボマスター @GREEN STAGE

その後はField of Heavenでスカフレイムスが観たかったけど、同行者がサンボマスターが観たいというのでグリーンステージへ。この日のライブは2021年における人間の感情の全てを、一時間のパフォーマンスに凝縮したような、濃厚で暑苦しく、そして感動的なものだった。会場へ来ること選んだ、あるいは選ばなかった観客のこと、風化しつつある東日本大震災、開催できなかった多くのロックフェスに対する思い。そんな喜怒哀楽に正面から向き合おうという姿勢は、遠くから見れば滑稽で乱暴だったかもしれない。でも、耳を傾けて心を動かされてみる価値は間違いなくあったと思う。「お前らがクソだったことなんて一度もないからな!」という山口の絶叫はずっと忘れないだろう。それにしても3つの巨大モニターにいい感じの山口隆が映し出される光景はすごく良かったな…。

 


ここで最初の雨。しかも雷もセットになったキツめのやつ。苗場の雨はなんでこんなに粒がデカいの…と思いながらカッパを装着したが、すぐ止んだ。涼しい。

グリーンステージの前でゴロゴロしているとクロマニヨンズが登場。同行者に「あの舌をベロベロしてる人が甲本ヒロトだ。ブルーハーツは知ってるだろ?その後に組んだハイロウズも第一回のフジロックに出演しててめちゃくちゃ最高だったんだ…」と本日二度目の日本ロック豆知識の押し売り。

 


17:50- サニーデイ・サービス@RED MARQUEE

本日の私的ヘッドライナーことサニーデイ・サービスの登場。結論から言うと、またサニーデイの最高が更新されてしまった。新ドラマーを迎えて…という枕詞がもういらないくらいに、スリーピースのスリルを保った演奏は一体感を増していたし、曽我部恵一のボーカルもバンドのグルーヴも、これくらい広い会場じゃないと受け止められないでしょ…と思うくらいに伸びやかで巨大だった。そして何よりも、必ずしも熱心なファンだけではないはずのオーディエンスが心から楽しんでいる空気が本当に最高だった。特に「春の嵐」の二番で、バスドラムに合わせてハンドクラップが自然発生した時はなんかもう「ふわぁ…」と心の中で声にならない声が出た。なんなら涙も出てたかもしれない。そして曽我部の「みんな本当によく来たねぇ」という実感が込められた一言から始まった「サマーソルジャー」のかけがえのなさと言ったらもう…。サビの最後、絶叫のような歌声に、この三人も今日の苗場にアーティスト生命を賭けてきたんだな、ということが伝わってくるようだった。できることならグリーンで観たかったと思うけど、生きていれば、生き残ってさえいればまたそんな日も来るだろう。本当に素晴らしかった。

 


レッドマーキーを出ると外はもう暗くなり始めていて、雨のおかげで空気も一層澄んでいた。このトワイライトタイムに、グリーンステージの音響でコーネリアスが観れたのか…と思うとやるせない気持ちになって、夜のボードウォークへ。光に照らされたデコレーションがキラキラしてて美しかったけど、その明滅の向こうに「Mellow waves」が頭の中で鳴ってしまう…。Gypsy Avalonでタコスを食べながら、TwitterKen YokoyamaがMCでいい感じにコーネリアスをいじっていることを知る。来年くらいには復帰できるかも…というイメージが初めて具体的になった気がする。


そしてグリーンへ戻る途中、ホワイトステージのThe Birthdayが目に入る。チバさん、髪は白いけど声はめちゃ若かった。あの発声で30年近く歌えるって一体どういうことなのよ…とモンスターぶりに震えた。

 


21:00- King Gnu @GREEN STAGE

そして本日の真のヘッドライナー・King Gnuがグリーンステージに登場。本当に失礼ながらインディーおじさん的には1ミリも興味がなく、完全に同行者のお付き合いで観たんだけど、これはすごいものを見たぞ…と大変感動しました。ステージの上では炎がバンバン上がって、音響も信じられないくらい音がデカくてクリア。そして何より歌と演奏が、こうしたゴージャスな演出に全く負けないくらいにすさまじく上手い。ファンの方にしてみれば今さらなのかもしれないけど、私はこういうスタジアム級のアーティストを観るのが初めてなので、ものすごく興奮してしまった。特にこの日は多くの90年代レジェンドの変わらぬ勇姿を見せつけられたこともあり、2020年代に輝く若者たちの堂々たるパフォーマンスがひときわ眩しかった。たまにホワイトステージの方角からナンバーガールの音が漏れ聴こえてきて心を乱されないこともなかったが、こちらを観て良かったですよ、ええ。そしてポジティブな感情をめったに表に出さない同行者も喜んでいたので一安心。フジロックに来てることは周囲には内緒なので、配信ライブを観ている体で、友達とLINEのグループで感想を言い合いながら観ていたらしい。


以上で私たちの初日が終了し、出口に向かう。が、ここでこの日一番の密状態が発生。スタンディングゾーンのお客さんは時間差で出すなどの工夫が必要だったかもしれない。それでも隣の人とぶつかるほどの混雑ではなく(二日間で誰かの身体に触れることは一度も無かった)、大声で話している人も見かけなかった。イメージ的にはラッシュ時の駅の階段くらいだろうか。週刊誌やスポーツ新聞としては、ここで思慮のない人間が大騒ぎしてくれないと困るんだろうけど、世間の目に怯えながらクソ高いチケット買ってはるばる山奥までやって来た人間がわざわざそんなことするわけがないのである。


検温・消毒・持ち物検査を経てキャンプサイトへ帰還。あまりにもヘトヘトなので温泉に入浴してから就寝。平たい場所のテント最高。本日の歩数は32,000歩。43歳の俺の足腰。明日も持つだろうか。


ちなみに恥ずかしながら私はアルコールなしには日常を生きられないような人間で、アルコール禁止というルールに耐えられるか不安だったのだけど、究極の非日常であるフジロックにおいてはノンアルコールでも全然平気だった。

 

翌日に続きます(たぶん)。