ドリーミー刑事のスモーキー事件簿

バナナレコードでバイトしたいサラリーマンが投げるmessage in a bottle

2022年11月の日記(リヒター、ツルロックとカクバリズム20周年)

11月2日

高速に乗って豊田市方面へ。車中BGMは昨日出たばかりのサニーデイ・サービス『DOKI DOKI』。気がつくと制限速度をすぐ超えちゃうし、目的地で降りたくなくなるから本当に危険。まずは鞍ケ池公園にできたスノーピークのカフェへ。蔦屋書店とスノーピークから放たれる「こっちに来れば誰でもオシャレに!」というムードにはやすやすと乗ってたまるかと思ってしまうのだが、今回もやすやすと乗った。最高の景色の中で食べるガッツリカフェメシ。座っていたアウトドア用のベンチが欲しくなってしまった。

リヒター展では初めて豊田市美術館のボランティアガイドさんの解説を聞きながら館内を回る。いつかこの仕事をやってみたい、というのが私の密かな夢。

「世界で最も重要なアーティスト」と(うるさいくらいに)評されるリヒターの作品を観ながら改めて感じたことは、優れたアートとはその時代に対する問いかけなんだな、というシンプルなこと。だから作品そのものはもちろん、その質問がその時代を生きる人々にどう受け入れられたのか、あるいは受け入れられなかったのかということが、後々作品を語る上では重要な要素。私には何かを創造する才能はないけれども、せめてこの時代における大切な問いは見逃さず、しっかりとリアクションしていきたい。私もまた歴史による評価の対象なのだから、と思った次第。まあこうやって美術館だのライブハウスだのに通っていることの言い訳なんですけど。

 


11月4日

下の子どもと鶴舞ロックフェスティバル。略してツルロックへ。名古屋、愛知の強豪アーティストが多数参加。タイムテーブルを知らなかったのだけど、着いた時にちょうどsitaqが演奏していた。内気そうに見えて、いきなりソウルだったりプログレっぽい方向に飛んでいこうとする感じが面白い。終盤の二曲が特に良かった。早く新譜聴かなきゃ。そして続いてはブラジルコーヒー店主・角田さん率いるTHE PYRAMID。このモグリめ!と怒られそうだけど、今回が初見でした。が、ぶっ飛ばされましたね…。どことなくトロピカリズモの香りも漂うプログレッシブなグルーヴ。ノンアルビールでめちゃくちゃに酔っ払ってしまった。子どもに「あの人知ってる?」って聞いてみたら、「ブラジルコーヒーの店長さんでしょ」と即答された。先週、アジフライ定食とリンゴジュースとクリームソーダを平らげたやつは違う。

とにかくこの日は天気が良くて、最近はそれなりに悩み多き年頃になってきた子供と、久々にのんびり遊べて楽しかった。こんなイベントを手弁当で開催してくれて本当にありがとうございます…という気持ちで胸がいっぱい。ムルヒさんや最後の小池喬さんまで観たかったけど、またライブハウスで観ることを心に誓い、寒くなってきたのでお先に失礼させて頂く。成城石井で惣菜を買って帰宅。サニーデイの配信ライブを観る。Jマスシスみたいな渋いおじさんがめちゃくちゃ楽しそうに演奏していた。

 


11月5日

ダイヤモンドホールカクバリズム20周年イベントへ。日曜日の14時から21時という長丁場は中年サラリーマンにはしんどいぞ、と思いつつ、ラジカクリスナーとしての矜持を示すために参加。妻には「今日こそ社長に挨拶してくっから」と謎の宣言をして家を出る。昨日のイベントが楽しかったのか、ツルロックキャップをかぶった子どももついてきた(ちなみに中学生以下無料。ありがとうございます社長)。


会場に着くとちょうど在日ファンクが演奏中。久々に観るけどすんごい迫力。子どもも圧倒されている…が、MCになると一気に空気が溶解するギャップがなんとも愛しい。果たして天国のジェームズ・ブラウンは、新曲のアカペラパートをトチったこのバンドにいくら罰金を払わせるのかな…なんて思った。


VIDEOTAPEMUSICのDJを挟んで登場したのはmei ehara。森道に続いてのバンド編成。この日印象に残ったのはcoffのぶっとくて重いベースの音。それがmei eharaのどこまでも澄んだボーカルとの間に広大なスペースを作り、音と感情が自由にたゆたうことができるのではないか。聖と俗のコントラストと言ってもいいかもしれない。発表前の新曲も、バンドアンサルブル全体が大きく、そしてクールに揺れるグルーヴがめちゃくちゃかっこいい…と盛り上がっていたら演奏が止まった。歌詞を忘れてしまったらしい。ライブではたまにある光景ではあるけど、その後のテンパり具合が最高だった。客席から「がんばれー」という声がかかると「がんばれとか言われると余計わかんなくなる!」と言い返すmei ehara。場内爆笑。かなり長い中断の末、歌詞をスマホで確認してことなきを得た模様。めちゃくちゃ高度でかっこいいことをやりつつも、どこかアマチュア的なにくめない空気こそが、なんともカクバリズムらしいと思った。良きパーティである。


この日は30分ライブ、30分転換DJという構成だったので、こまめに外に出て子どもはお菓子、中年はエナジードリンクなどを摂取することができた。ちなみにダイヤモンドホールに着くまでの階段が大変だ…と子どもがボヤくのを聞いて「若いもんが情けない。歌舞伎町時代のリキッドルームなんてなぁ…」と言ってしまいそうになるが自粛。


次は急遽出演が決まったトークボックスをくわえた変態王子・藤井洋平。子どもには「次の人はソウル版のDEATHROさんみたいな感じ」と雑に説明しておいたが、実際勝るとも劣らないインパクト。髪型や笑顔から放たれる羽振りの良さが半端ない。そして子どもに聴かせるにはOh…って歌詞すらも良い社会勉強と思っちゃうくらいにゴキゲンな音しか鳴ってない。バグルズオマージュの「意味不明な論理・方程式」で絶頂に到達した。ちなみにドラムの光永渉さんはfrueの角銅真実とceroと合わせてトリプルヘッダーでは。ドラム界の衣笠じゃん。


次はYOUR SONG IS GOOD。今日のアクトの中でウチの子どもが楽しめるのはこの人たち!と思っていたので、「ラジカクの人のバンドだからフロアに降りて踊ろうぜ」と提案してみた。前半のカリプソやロックステディのビートはちょっと小学生には大人っぽすぎたみたいだったけど、途中の「Double Sider」くらいからペースを掴みはじめ、最後のドラムとパーカッションのめちゃくちゃ熱いバトルから始まった「ON」ではしっかりフロアに降りてステップ踏んでましたよ。ナイスグルーヴをありがとうユアソン!と感無量。この日の我が家的ベストアクト。そういえばこの子がまだ赤ちゃんの時に連れていった初回の森道にもユアソン出てたよな…。


キセルは夕飯休憩@松屋のためちょっとしか見れなかったけど、明らかに時間の流れが違う、宇宙の音楽。小学生は「清丸さんに似てるね」と言っていた。なかなか鋭い。


長いようであっという間にトリのcero。そういえば俺のミッション「角張社長に挨拶をする」は果たせないまま終わりそうだなーと開演前にトイレで手を洗っていると、なんと隣に社長が。完全に条件反射で「あ!社長、20周年おめでとうございます!」とサラリーマン仕様の声が出ていた。社長も「ありがとうございます。最後まで楽しんでいってくださいね」と返してくれたけど、どこか表情が固い気がしたのは、俺が怪しかったからか。

 

それはともかくceroである。6月のワンマンは観れなかったので今年初。VIDEOTAPEMUSIC が流す最高のダンスビートと入れ替わるような沸き起こってくる電子音から始まったのは「Nemesis」。目の前に幻想的な景色が浮かび上がってくる感覚にシビれる。まんま流れてきたのは「Fdf 」。厚海さんのスラップベースがカッコよすぎたし、こんなにパワフルだったっけ?ってくらいにコーラスを含めた歌声がソウルフル。そのまま「Elephant Gohst」になだれ込み、ああもう圧倒的だなーと思って隣を見たら小学生も踊っていた。人生初の変拍子。それにしてもceroを観ながらこんなに広いスペースで踊ることはないだろうね…というくらいに快適すぎた。ありがてえけどもったいない。

MCでは高城さんが「カクバリズムのアーティストのライブは観ていて疲れるくらいすごい」って言ってたけど、この方は本当にずっとPAの横でライブを見ていた。誠実な人だなーと思って感動してしまったよ。

アンコールは「Summer Soul」。小学生もよく知ってる名曲。こりゃテン年代の「接吻」だなーと思っていたところ、間奏でまさかのラップをかますしたのは角張社長。90年代風のライムと力の入り具合に、同い年としてマジ泣けたっす。開演前のトイレで心ここにあらずだったのはこういうことか…と一人で納得していた。

 

ファクトリー・レコードは14年、クリエイションは16年、トラットリアは10年で終わったことを踏まえれば、インディー・レーベルを20年続けるというのは偉業というか完全に奇跡。しかもこの音源が売れない、ライブができないご時世に。実際、この日の動員もかなり厳しい感じだったんじゃないかと余計な心配をしてしまう。しかし俺はこの日改めてやっぱり現在進行形のポップミュージックが一番好きだし、その中でも「ある(しかもかなりぶっちぎりの)基準」を示し続けているカクバリズムにはリスペクトしかないっす。

長かったけどいい一日。明日は学校&会社だ。

 


※なお後日、ラジカクにこの日の感想を送ったら番組の中で読んでくれてリスナー冥利につきまくった。