今この文章が世に出ているということは、この日のライブで私はコロナに感染することは(おそらく)なかった、ということである。それが分かるまではどうしても「サニーデイのライブいってきました!」と大きな声では言えない後ろめたさがあった。そんな後ろめたさに意味はないのかもしれないけど、医療体制がひっ迫する中で、自分のわがままを優先させてもらったと思っているし、様々な理由で行きたくても行けなかった方には申し訳ない…という気持ちを今も抱いています(私の妻も行けませんでした)。
なお会場では念入りな予防策が取られており、消毒、換気、ソーシャルディスタンスはもちろんのこと、アルコールの販売すら行わず、開演前のSEも無かった(大声で話さないようにするための配慮だろう)。ほぼ毎日電車通勤している私の日常生活においてこの会場は、特段感染リスクの高い場所ではないように感じたことは付記しておきたい。
さて。
とりあえずライブが終わった直後の私がもっとも叫びたい言葉はたった三つ。
大工原幹雄!
大工原幹雄!!
大工原幹雄!!!
以上です。
それくらい新しいリズムがバンドに新鮮な風を呼び込んでいることを感じるライブだった、ということであります。
奇跡の大傑作『いいね!』のリリースツアーという位置づけのライブだったが、「久々にみんなに会えて嬉しいね、という気持ちで選曲したくなった」という理由で、まさにオールタイムベストのプレイリストとなっていた。なんせ「月光荘」「東京」から始まったかと思えば、「パレード」「万華鏡」といっためったに聴けないナンバーまで演奏されたのである。
世界でも最上位の「いいね!」リスナーの私(Spotify社調べ)ですが、この10ヶ月もの間、エレキギターの轟音とベースとバスドラの低音を待ち望んでいた状況からして、そしてそもそもサニーデイの楽曲をあまねく愛する者として、今日はもうどんな曲を演奏してくれても、ただただ「うれしい!たのしい!せつない!」というドリカム状態。何を演奏するかということよりも、新たなバンドとなった彼らがどう演奏するか、ということの方が重要だったのかもしれない(とは言え、アンコールで披露された「Christmas of Love」はやはり特別だった)。
この日の彼らの演奏は良くも悪くもラフ。しかし音楽をリアルな空間で共有することの喜びに溢れていた。曲順を間違えたり、歌詞が飛んだり、たまにリズムがおぼつかない瞬間があったりしたけど、そんなことまったく気にならない。むしろこういう瞬間こそライブの醍醐味じゃん?ということを思い出させてくれるようなフレッシュさ。曽我部さんも何度も何度も、感無量の面持ちで「ありがとう」と繰り返していたし、最後には「もう帰りたくない」とまで言ってくれた。これほどフランクに心の通い合うサニーデイのライブを観るのは初めてかもしれない。
しかしそんなアットホームな雰囲気な中で聴く長年親しんできた楽曲たちも、大工原幹雄がドラムを叩くと、それまで潜んでいたグルーヴがムクっと屹立するような感じがあった。「サマーソルジャー」「NOW」ってこんなに踊れる曲だったっけ?というくらいの抑揚があったし、特に激しく手数の多い近年の曲、「春の嵐」「コンビニのコーヒー」「心に雲を持つ少年」や「セツナ」の殴り合いが始まるんじゃないかっていうアタックの強さ、テンションの高さは俺の脳みそメーターを軽く振り切っていた。
そして何より重要なのは、この3人のこれから先の深化を絶対に見てみたいと思わせる新鮮な青さに満ちていたことだ。活動歴25年以上のバンドが獲得したものとして、これはあまりにも貴重なものではないだろうか。
今年はコロナもあったし、自分の仕事も情けないくらいに上手くいかなくて、とにかく鬱々とした年末なんだけど、せめて俺の人生にはサニーデイ・サービスあって良かったと、「若者たち」を聴きながら心の底から思えた。人生なんて上手くいくはずのないものだって、最初から知っていたはずじゃないか。