ドリーミー刑事のスモーキー事件簿

バナナレコードでバイトしたいサラリーマンが投げるmessage in a bottle

スカート「アナザー・ストーリー」を聴いて思ったこと

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スカート「アナザー・ストーリー」のフラゲに失敗した私が自分を慰めるために思いついたアイデアは「アナザー・ストーリーと同じ曲順でオリジナルバージョンを並べたプレイリストをつくる」という作業だった。

いつもならSpotifyでチョチョイとつくるところなのだが、今回の収録されたカチュカサウンズ時代の楽曲はSpotifyには上がっていないのである。なので、ハードディスクのライブラリから一曲ずつタイトルを入れて検索していったわけだが、「おばけのピアノ」と入れると6バージョンも見つかった。そして「すみか」「月光密造の夜」も5つずつ、「返信」は4つの異なるテイクが発見された。

活動歴10年。決して短くはないが、ベテランという域でもないミュージシャンにしては、異常な数のようにも思われるテイク数。何度も何度も録り直す楽曲への偏愛と、それに応える楽曲の耐久性。そしてやや恩着せがましく付け加えるなら、そうしたセルフカバー作品についつい手を伸ばしてしまうリスナーとの信頼関係。そこにスカートの特殊性が凝縮されてるように感じた。

 

さて、自作のプレイリストを経た後、満を持して聴いた「アナザー・ストーリー」。奇をてらわず、原曲のそれをほぼ活かした、ストレートなアレンジは、私がスカートを知ってからの5年間で観続けてきたライブでの演奏そのままの躍動感。ついイントロや間奏で「キーボード佐藤優介!」「ドラム、シマダボーイ!」などと合いの手を入れたくなってしまうほどの生々しさがある。スカート最大の魅力の一つである「肉体性」が全面に押し出された、血湧き肉躍るサウンドなのである。

 

それにしてもここまで原曲に忠実なアレンジというのは、「NICE POP RADIO」で開陳される音楽リスナーとしての博覧強記ぶりを考えるとやや意外という気もする。しかし活動開始から10年という歳月をかけてたどり着いた最高のメンバーによる最高の演奏を、そっくりそのまま録音することこそが、自らの楽曲と歩みに対する最大の肯定なのだろう。そしてそれは同時に、未だカチュカサウンズ時代の楽曲に触れていないリスナーの完璧すぎる自己紹介でもある。

このアルバムでスカートの過去作の素晴らしさを初めて知ったリスナーは、スカートを初めて知った5年前の私のように、ストリーミングサービスでは聴けない音源を求める旅に出て行くことになる。その道程においては、例えばココナッツディスクのような素晴らしいレコードショップだったり、ミツメやトリプルファイヤー、TJNYといった盟友の音源にぶち当たることもきっとあるはず。つまりこのアルバムからリスナーそれぞれの、無数の物語が広がっていくと言えるのではなかろうか。そう思うと「アナザー・ストーリー」というタイトルに潜む深みをしみじみと感じてしまう。そして、この5年間、スカートが私に見せてくれた景色の豊かさを思い返し、ますますしみじみとした感謝の念がたえないのである。