ドリーミー刑事のスモーキー事件簿

バナナレコードでバイトしたいサラリーマンが投げるmessage in a bottle

変わること、変わらないこと。スカート 『20/20』について

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我らがスカートがメジャーデビューすると聞いたのは、まだ暑い夏の日のことだったでしょうか。

インディーからメジャーに移ると、何がどう変わるのか、わたしにはよく分からなかったけど、渋谷駅に現れた巨大ポスター(超カッコいい!)からNHKの歌番組、果てはデイリースポーツのインタビューまで、あの人懐っこい笑顔がグイグイお茶の間に入り込んでくる様に、メジャーの力ってやつを痛感せずにはいられなかった。

と同時に、ついにスカートはそのクオリティとスケール感(体型のことではない)に見合った場所で活動できるようになったんだなぁ…という深い感慨を抱きつつ、リリース日を心待ちにしておりました。

さて。

私はスカートの楽曲における、大きなテーマのひとつは「成長と出発」ってことなんじゃないかと思っています。文字にするとちょっとこっぱずかしいんですが。

 

ただ、初期から前作『CALL』までは、その成長や出発とは、否応なく迫られる、痛みを伴うものとして描かれていたことが多かったように思います。

「選んだ道は違った 引き返すにも 遠いけれど 笑った笑顔が歪んだ 確かに残ってる」(ハル)

「あなたの目も あなたの声も 橋を通り過ぎたら 忘れる準備しなくちゃ」(どうしてこんなに晴れているのに)

「背負い慣れた重い荷物 ほどいてまた歩き出した さみしいけど 好きな歌を どうやって忘れようかと」(CALL)

もうすぐ人生の折り返し地点に差しかかろうとするいい大人の私が言うのもなんだけれども、こうしたスカートの陰影のある世界観が、自分の中にあるなけなしの繊細さに深く突き刺さり、鼻の奥をツンとさせてきたのです。

なので、この待望のニューアルバム『20/20』の一曲目を飾る『離れて暮らす二人のために』が流れ出した瞬間に、ふわっと胸に広がるあたたかい感覚。そして歌詞カードに目をやると飛び込んでくる

「いつかの歌を あなたのためにうたってみたいんだ 埃を払い 次の言葉を繋げてみたいんだ」
という頼もしさすら感じる言葉。

続く二曲目『視界良好』のファンキーだけど、力みのないカッティング。体が浮き上がるような、まさにいい感じとしか言いようのないグルーヴに乗せて歌われる
「遠回りばかり ずっとしてたけど 立ち止まることにも 意味はあったんだ」
というフレーズに込められた力強い肯定に、思わずはっとさせられた。

この成長や出発というものを、正面から引き受けるような姿に、スカートが輝かしい、新たな季節に入ったことを感じたのです。

そして、こんなにステキな歌が、日本中のラジオやテレビや映画館で流れる未来が、「好きな歌をどうやって忘れようかと」思っていた『CALL』の先に待っていたなんて…と、作品を超えたストーリーにもグッとこないわけにはいかなかった。

 

かくも新鮮な変化を感じさせる一方で、『20/20』においては、スカートの変わらない側面もまた、輝きを増しているように思う。

それは例えば『パラシュート』や『手の鳴る方へ急げ』で強く感じられる盤石にしてしなやかなバンドサウンド。
あるいは『わたしのまち』や『さよなら!さよなら!』での、失われてしまったものへの深い愛を隠さないナイーブさや、『わたしの好きな青』に感じられる池袋のモッズレジェンドやニューヨーク在住の王子様へのオマージュをはじめとする、先人たちへの深いリスペクト、などなど。

しかし、なによりも澤部渡氏の信頼できる不変ぶりを強く感じるのは、楽曲に込められた「優しさ」ではないでしょうか。

テレビ番組のエンディングテーマとして山田孝之の愛すべき愚行を包みこんでいた『ランプトン』。そして、夜明けに射す薄日のようなストリングスも麗しく生まれ変わったインディー時代の名曲『魔女』。

「もう少し悪い人になれたらいいのに/このままでは困ると思ってたんだけどなあ」

こんなポップミュージックの常道から大きく外れた、優柔不断なほど穏やかな言葉を乗せたサビに、アルバム全体のクライマックスを持ってこれるのは、やっぱりスカートしかいないよ…(そっと目頭を抑えながら)。

ついでに言うと、トータルタイム35分という前作を更新する短さにも、「ナイスポップかくあるべし」というメジャーに行っても変わらないこだわりが感じられますね。


こうしてアルバムは、『魔女』から『静かな夜がいい』で聴き手の心と身体を再びアップリフトしてエンディングを迎えるわけですが、この完璧過ぎる流れに、つい、小沢健二のファーストアルバムにおける『天使たちシーン』と『ローラースケートパーク』の関係を思い出してしまったよ。

 

 

以上が、リリースから2日で聴きまくったかけ足の感想ですが、間違いなく言えることは、このアルバムは、これからの私の成長にいつまでも寄り添ってくれる作品だ、ということです。