ドリーミー刑事のスモーキー事件簿

バナナレコードでバイトしたいサラリーマンが投げるmessage in a bottle

2017 10/22 Cornelius 『Mellow Waves tour』@名古屋ダイヤモンドホール

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※ネタバレあります。ご注意ください。

 

トヨタロックフェスの2日目が中止になってしまったこともあり、急に思い立って嵐の中、コーネリアスのライブに行ってきた。

 

コーネリアスのライブを観るのは、98年の夏にたまたまロンドンでやっていた『Fantasma』のツアーを観て以来、なんと19年ぶり3回目(1回目は雑誌のイベントに当たって観た渋谷クアトロ。バックバンドにワックワックリズムバンドが参加していた)。

 

ちなみに98年の19年前というと79年。
今では小山田圭吾もサポートするYMOが最初のワールドツアーをした年である。
その時はいにしえの伝説のように思っていたけど、自分が同じ長さの時間を生きてみると、ついこないだのことのように思えて実に恐ろしい。


満員のダイヤモンドホールに入りまず目にするのは、ステージに張られた幕に映された、皆既日食のような円環。

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その円環を構成する微粒子がせわしなく運動を繰り返す様は、壮大な星雲のようでもあり、電子顕微鏡で覗く細胞のようでもある。
ぼんやり眺めているうち、村上隆の禅をテーマにした「円相」という作品を思い出したのだけど、コーネリアスの最新作「Mellow waves」のモノトーンな静謐さ、内に秘めた力強さは、これに通じるものがあったように思える。


開演時間ちょうどに客電が落ち、SEの波の音とプログレッシブなシンセサイザーの音が大きくなる。続いて幕の向こう側であらきゆうこが叩くドラムの音に合わせて円環が形状を変えていき、客席の期待と緊張が一気に高まる。
次の瞬間、メンバー四人の姿が映し出されるのと同時に鳴らされる『あなたがいるなら』のイントロと、それに完璧にシンクロしてスクリーンに映し出される「Hello everyone welcome to Mellow waves」の文字。
この見事な演出に、思わず「ふわぁ」と間抜けな声が漏れてしまったよ…。

 

『あなたがいるなら』はイントロだけで寸止め。そこから『Mellow waves』を中心に『Sensuous 』『Point』『Fantasma』からの代表曲が次々と演奏されていく。

 

フロアにいてまず感じるのが、音の一つひとつの気持ちよさ。
堀江博久の弾くトレモロの効いたエレピ、大野由美子のジューシーなシンセベース、そしてソリッドで時にヘビーな小山田圭吾のギター。これらがバイノーラル録音まで再現した完璧な音響で鳴らされる。


まるで開演前に映し出されていた円環を構成する微細な粒子が身体の中に入ってくるような感覚である。

 

 

そして、スクリーンに映し出されるクリエイティブの極北のような映像に、寸分の狂いなく同期したバンドのアンサンブル。

超複雑な因数分解を鮮やかに解いていくような快感がある。
特に『Fit song』のミクロ単位で精緻に構築されたファンクネス、『Count five or six』や『Gun』の時速300キロで走る重機のようなハードな迫力には肌が粟立った。しかも、合間合間に挟み込まれたユーモアも完全再現する余裕まで。
とにかく、あの音源ホントに人間が演奏してたのか!というアホウのように根本的な驚きを禁じえない。

特にあらきゆうこの、どんなに理不尽な(としか言いようがない)フレーズにも完璧に対応するドラム。俺からは見えない位置だったこともあり、本当はサイボーグとか鬼とかが叩いているんじゃないかという妄想が広がってしまいましたよ…。


その演奏力と視覚的情報量の膨大さにただただ圧倒されっぱなしの本編は、『STAR FURITS SURF RIDER』と、そこから切れ目なく突入した『あなたがいるなら』でクライマックスを迎え大団円。
アウトロで、オープニングと同じように演奏に合わせて映し出される「Thank you very very very much. Mellow waves」の文字を呆然と眺めつつ、このライブが『あなたがいるなら』から始まって『あなたがいるなら』に終わる、つまり円環を成す構成になっていることに気づく。あぁ圭吾、恐ろしい子…。


一言も喋らなかった本編から一転、アンコールはリラックスムード。
台風の中集まったお客さんを気遣う小山田の言葉に「あの小山田君が他人を気遣うなんて…」と驚きの空気が流れる。


そして彼の「どうもありがとうございました」というセリフのイントネーションが、中学生の時に死ぬほど聴いたフリッパーズのライブ盤のままだったことも密かに嬉しかった。

ちなみに最後に演奏された曲(タイトルわかりませんでした)は唯一ほぼ映像との同期なしの、素に近い演奏だったんだけど、やっぱり痺れるほど気持ちよくて、いつか「映像なし・ネイキッド版」のライブも観てみたいと思った。


先日出版されたZINE「Something on my mind」のディスクレビューで、私は名盤『Fantasma 』のことを、「音と想像力でつくりあげた一大テーマパーク」と表現した。
しかしこの日体験したコーネリアスのライブは、その世界観をさらに突き詰めて、小山田圭吾という天才の頭の中を、音と映像と光を駆使して具現化する、ミュージシャンや制作スタッフの限界に迫るようなパフォーマンスだった。

願わくば、ライブハウスじゃなくてホールだと映像も演奏もストレスフリーで楽しめるんだけど…と思ったりもしましたけど。

 

そしてもう一つ願わせてもらえるならば、この日会場を埋め尽くした大人の音楽ファンが、もう少し小さなライブハウス、東京で言えばwww、名古屋で言えばダイヤモンドホール地下のLounge vioあたりに出演するバンドに注目してくれると、この世はまだましだなって言うか、もっと楽しくなると思うんですよ。例えばミツメとかVideotapemusicとかバッチリだと思うのですが、どうでしょう。


こちらからは以上です。