もし誰かに「今年1枚しかアルバム買えないとしたら?」と聞かれたら、俺は迷わずこのアルバムを勧める。
そう断言できるほど、2017年のど真ん中を貫く、大傑作である。
この作品は偉大な先人たちが耕した豊かな音楽的土壌を受け継ぎ、そこに新たな果実を実らせたものである。
例えば一曲目、その名も「Ride on wave」に封じ込められた山下達郎80年代の黄金期を煮詰めたような極上グルーヴ。
あるいは三曲目「World is mine」の軽快なロックンロールに乗せたシティボーイの高揚と憂うつは、佐野元春のデビューを彷彿とさせる。
続く「Dive in to honeytime」のガレージスピリット溢れる初期衝動には初期GREAT3のギリギリの疾走感が、「C.A.M.P」にはサニーデイサービスのこぼれ落ちそうなロマンチシズムが、眩しいほどピカピカにアップデートされ、ギュッと凝縮され、ヨギーの歌として新たな命を吹き込まれている。
こんな風に書くと、「なるほど。大人ウケするいわゆるグッドミュージック的なアレね」とか思われてしまうかもしれない。
そうじゃないんだ。
いやそうなんだけど、それだけじゃないんだよ。
このアルバムが本当にすごいのは、趣味としての音楽、音楽好きのための音楽。
そういう(愛すべき)インディーミュージックの枠を大きく超えてしまったところで鳴っているところにあると思うのだ。
誤解を恐れずに言うなら、このアルバムは音楽というよりは、スラムダンクとかワンピースとかスターウォーズに近い存在、つまりその時代に生きる全ての若者が通過しなければならない文化的経験のようなもの。そういう王道感と大きな引力を感じるのです。
スラムダンクにもワンピースにもスターウォーズにも背を向けて生きてきた39歳のオッさんが言ってんだから、たぶん間違ってないと思う。同じ光を放ってるよ。
ちなみに歌詞カードに記された「あとがき」でボーカル角館健悟はアルバムタイトル「WAVES」に込めた意味をこう書いている。
「「WAVE」は君であり、僕であり、いま君が感じている感情のことである。(中略)「僕のことかな」って君が思ったなら、それはすでに「WAVE」であり、そんな君の愛してる人もきっと「WAVE」である」
一読するとほとんど長嶋茂雄の世界である。
しかしワタシはこれを、自分のつくった作品は自分のものではない。聴き手と聴き手の暮らすコミュニティ全てを巻き込むことによってこそ、この作品は完成するのだ、という宣言と受け止めた。
作品や聴き手に対してこれだけの覚悟と責任、(不遜なまでの)自信を持ったミュージシャンが、果たしてどれだけいるだろうか。
思えば2015年の大晦日、渋谷wwwで 初めて彼らのライブを観た感想を、俺はこう書いていた。
「ボーカルの人の、「コイツ、今キテるな感」の強さ。人が輝く時ってこれだよね!というような、何をやってもみんなの視線を惹きつけてしまう感じ。彼らが間違いなくこの日の主役だったし、今見ておくバンドだと思いました」
それから一年半。
この時感じた衝撃をそのままカタチにした作品を届けてくれたことに最大級のリスペクトを送りたいと思います。