今年の春、スカート澤部氏がMステに出演したその日、初めて訪れたココナッツディスク吉祥寺で入手した台風クラブの3曲入りCD-R『ずるやすみ』。
もちろん名前も知らないバンドだったけど、そのバンド名と、手書きPOPの熱さに誘われて手を伸ばしてみたのだった。
結果はまさに大勝利。
そしてボーカルの石塚淳による、情景の描写だけで心にぽっかり空いた喪失感をリアルに表現していく文学的な歌詞。
一聴ですっかり心を捉えられてしまい、入れ替わりの激しい私のiPhoneのミュージックライブラリーの中で不動のポジションを占め続けているのであります。
その日のトリとして台風クラブの三人が登場。
その佇まいから立ちのぼる、社会にうまくなじんでない感じが期待をあおる。
だってあのホームセンターで買ったようなサンダルを履いて京都から名古屋までやって来るって、なかなかの胆力じゃないですか。
『処暑』から始まった演奏はその期待を裏切らない、ルーズだけど三人じゃないと成立しない、まさに絶妙な三点倒立感。とにかく目が離せない。
もっとも、ブランキージェットシティを3ピースバンド界のF1とするならば、こちらは原チャリ。
しかし、真夏の国道を時速30kmで走っていくスリルと興奮というのも確かに存在するのです。
そしてやはり、未聴の曲も含めソングライティングの素晴らしさが際立つ。
既に聴いたことのある3曲以外も、フォークにヒップホップ、ソフトロックまで、 無節操なほどに広い音楽性を感じさせつつ、しれっと心のど真ん中にストレートを投げ込んでくるような大胆さ。
その象徴が、本編ラストに披露された「まつりのあと」の間奏で唐突に炸裂するカノン風のコーラス。
あれは日本の歌謡曲史上に輝く山下達郎「クリスマスイブ」への挑戦状なんじゃないかと思うのだけども、あの達郎御大ですらも見逃し三振しそうな絶妙な愛嬌がある(それでいて、その歌詞は人生のどん詰まり感を歌っているというダイナミックなねじれ!)。
そういう細々したことは置いておくとしても、彼らのライブには、生まれたての子鹿のような新鮮な熱と、人生の行き止まりでダンスするどうしようもない解放感を感じた。
そしてこれこそが、俺がロックンロールに求めるものの全てなんじゃないか、なんてことも思ってみたり。
わずか30分のライブの衝撃を噛み締めながらサイゼリヤで安いワインを飲んだ帰り道。
そう言えばちょうど一年前の8月に名古屋クアトロの「月光密造の夜」でスカート、ミツメ、トリプルファイヤーを見たんだよな。
夏にはいろんなことが起きて最高だな。いくつになっても。
そんなわけでスカート澤部氏もオススメしてる台風クラブ、チャンスがあれば万難を排して観に行くことを強くオススメします。