ドリーミー刑事のスモーキー事件簿

バナナレコードでバイトしたいサラリーマンが投げるmessage in a bottle

変わること、変わらないこと。スカート 『20/20』について

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我らがスカートがメジャーデビューすると聞いたのは、まだ暑い夏の日のことだったでしょうか。

インディーからメジャーに移ると、何がどう変わるのか、わたしにはよく分からなかったけど、渋谷駅に現れた巨大ポスター(超カッコいい!)からNHKの歌番組、果てはデイリースポーツのインタビューまで、あの人懐っこい笑顔がグイグイお茶の間に入り込んでくる様に、メジャーの力ってやつを痛感せずにはいられなかった。

と同時に、ついにスカートはそのクオリティとスケール感(体型のことではない)に見合った場所で活動できるようになったんだなぁ…という深い感慨を抱きつつ、リリース日を心待ちにしておりました。

さて。

私はスカートの楽曲における、大きなテーマのひとつは「成長と出発」ってことなんじゃないかと思っています。文字にするとちょっとこっぱずかしいんですが。

 

ただ、初期から前作『CALL』までは、その成長や出発とは、否応なく迫られる、痛みを伴うものとして描かれていたことが多かったように思います。

「選んだ道は違った 引き返すにも 遠いけれど 笑った笑顔が歪んだ 確かに残ってる」(ハル)

「あなたの目も あなたの声も 橋を通り過ぎたら 忘れる準備しなくちゃ」(どうしてこんなに晴れているのに)

「背負い慣れた重い荷物 ほどいてまた歩き出した さみしいけど 好きな歌を どうやって忘れようかと」(CALL)

もうすぐ人生の折り返し地点に差しかかろうとするいい大人の私が言うのもなんだけれども、こうしたスカートの陰影のある世界観が、自分の中にあるなけなしの繊細さに深く突き刺さり、鼻の奥をツンとさせてきたのです。

なので、この待望のニューアルバム『20/20』の一曲目を飾る『離れて暮らす二人のために』が流れ出した瞬間に、ふわっと胸に広がるあたたかい感覚。そして歌詞カードに目をやると飛び込んでくる

「いつかの歌を あなたのためにうたってみたいんだ 埃を払い 次の言葉を繋げてみたいんだ」
という頼もしさすら感じる言葉。

続く二曲目『視界良好』のファンキーだけど、力みのないカッティング。体が浮き上がるような、まさにいい感じとしか言いようのないグルーヴに乗せて歌われる
「遠回りばかり ずっとしてたけど 立ち止まることにも 意味はあったんだ」
というフレーズに込められた力強い肯定に、思わずはっとさせられた。

この成長や出発というものを、正面から引き受けるような姿に、スカートが輝かしい、新たな季節に入ったことを感じたのです。

そして、こんなにステキな歌が、日本中のラジオやテレビや映画館で流れる未来が、「好きな歌をどうやって忘れようかと」思っていた『CALL』の先に待っていたなんて…と、作品を超えたストーリーにもグッとこないわけにはいかなかった。

 

かくも新鮮な変化を感じさせる一方で、『20/20』においては、スカートの変わらない側面もまた、輝きを増しているように思う。

それは例えば『パラシュート』や『手の鳴る方へ急げ』で強く感じられる盤石にしてしなやかなバンドサウンド。
あるいは『わたしのまち』や『さよなら!さよなら!』での、失われてしまったものへの深い愛を隠さないナイーブさや、『わたしの好きな青』に感じられる池袋のモッズレジェンドやニューヨーク在住の王子様へのオマージュをはじめとする、先人たちへの深いリスペクト、などなど。

しかし、なによりも澤部渡氏の信頼できる不変ぶりを強く感じるのは、楽曲に込められた「優しさ」ではないでしょうか。

テレビ番組のエンディングテーマとして山田孝之の愛すべき愚行を包みこんでいた『ランプトン』。そして、夜明けに射す薄日のようなストリングスも麗しく生まれ変わったインディー時代の名曲『魔女』。

「もう少し悪い人になれたらいいのに/このままでは困ると思ってたんだけどなあ」

こんなポップミュージックの常道から大きく外れた、優柔不断なほど穏やかな言葉を乗せたサビに、アルバム全体のクライマックスを持ってこれるのは、やっぱりスカートしかいないよ…(そっと目頭を抑えながら)。

ついでに言うと、トータルタイム35分という前作を更新する短さにも、「ナイスポップかくあるべし」というメジャーに行っても変わらないこだわりが感じられますね。


こうしてアルバムは、『魔女』から『静かな夜がいい』で聴き手の心と身体を再びアップリフトしてエンディングを迎えるわけですが、この完璧過ぎる流れに、つい、小沢健二のファーストアルバムにおける『天使たちシーン』と『ローラースケートパーク』の関係を思い出してしまったよ。

 

 

以上が、リリースから2日で聴きまくったかけ足の感想ですが、間違いなく言えることは、このアルバムは、これからの私の成長にいつまでも寄り添ってくれる作品だ、ということです。

 

先週末のこと(Social tower marketと「カレーとDJ」)

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10/7(土)
娘の学芸会の後、急いで名古屋市のテレビ塔で行われているSocial tower marketへ。3年連続で遊びに来ている。
今年の目当ては王舟。アルバムはずっと愛聴していたものの、ライブを観たことはなかった。
初めて聴く王舟の歌には、例えば曽我部恵一の圧倒的な迫力や、澤部渡の心の急所をピンポイントで突いてくる感じとも異なる、聴く者を包み込むような大らかさと、周りの風景にフィルターをかけてしまう力があるように思えた。そしてギターがとても上手だった。
夏のような日差しを浴びながら、「あぁこのまま溶けちゃいたいな」と夢想しているところにさりげなく入り込んできた電気グルーヴ「虹」のカバーの美しさ。トリコじかけになるってこういうことか、と思った。

王舟を観た後は急いでパルコの世界堂へ。7月のOur Favorite Thingsで小田島等さんに描いてもらった娘の似顔絵をようやく額装してもらう。そういえば2年前のSocial Tower Marketでは娘と二人で小田島さんのライブペインティングを見たのだった。


再びテレビ塔に戻り、Tempalayのライブ。こちらも初体験。育ちが良さそうな東京インディーシーンへのカウンターのような、不良っぽさと底意地の悪さを感じさせる佇まい。そして絶対にシッポを掴ませないぜと言わんばかりに目まぐるしく変化するグルーヴにシビれた。普段は音楽に一切興味のない次女も「Have a nice day club」で踊ってた。

 

 

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10/8(日)
朝から町内の神社のイベントにかりだされた後、息つく間もなく新安城駅前ラヴィエベルへ。「カレーとDJ」というパーティーに参加させてもらった。店主ウエノ氏の「ブロックパーティーって感じでやりたい」という言葉通り、軒先にデーンと鎮座するElectro Voiceのスピーカー。マジかよと超ドキドキしつつ、日曜日の昼下がりにふさわしいグッドメロディーかつおだやかなリズムの曲を中心にかけさせて頂く。人通りもまばらな新安城、最初はどうなることかと思ったけど、陽が傾くにつれて、ウォーキング中のお姉さん、飲み会帰りの会社員グループ、近所のライブハウスに出演する外国バンドマンなど、実にダイバーシティなお客さんが寄っていってくれた。おだやかな天気の中でメインDJをつとめる二宮さんのプレイを聴きつつ、いつか街の名物パーティーになる日を夢想した。そしてそんな私たちが心を込めてお届けするレギュラーパーティーKennedy!!!は10/14(土)の20時スタート。カゼノイチでお待ちしております。

 

 

帰宅後、録画しておいたNHK「シブヤノート」を観る。我らがスカート、演奏はもちろんトークもバッチリのやつだった。

いい週末だった。

最近読んだ本の話(ECDと徳大寺有恒)

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ECDの文章を読むと、普段自分がペラペラと喋ったり書いたりしている言葉が、なんだか軽くて薄っぺらいもののように思えて恥ずかしさを感じる。

 

無駄というものが存在しない、清潔な文体。
事実を淡々と書き連ねているようでいて、その心情をも過不足なく伝わるよう空けられた行間。

上手いとか素敵だと思わせる作家はたくさんいるのだけれども、恥ずかしいという気持ちにさせるのはECDだけである。

 

2009年に出版され、つい先日文庫化された「ホームシック」は、ECDが写真家・植本一子と結婚して、第一子のくらしちゃんが生まれるまでのエッセイ集。

中でも俺が一番好きなコラムは「一日」と題された文章。

くらしちゃんが生まれて間もない頃の、一児の父としてのルーティン、朝起きて、ミルクをあげて、仕事をして、家に帰ってお世話をしてから寝る、ただそれだけの記録。
それなのに、この時にECDが感じていたであろう静かで深い幸せがこちらにも伝わってきて、お腹の底からじんわりと暖かくなるような気持ちになる。

 

もちろん、この前には壮絶な「失点 イン・ザ ・パーク」の日々があり、この後には「かなわない」から「家族最後の日」に至る人生が待ち構えていることを、2017年の読者である私は知ってしまっている。

それを知った上でこの本を読むと、ひとしおの切なさを感じずにはいられないわけだけれども、同時に、ECDこと石田義則という人が生き抜いている、いくつもの季節の濃厚さに羨ましさにも似たような感情を抱いてる自分にも気づく。

これが極めて無責任な感想であることは分かっているのだけれども、苦境に満ちた現実を反転させてしまう強さが、ECDの文章には宿っていると思う。

 

特に家族を持つこと、子供を育てることに不安を漠然とした不安のある人におすすめしたい一冊。

 

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続いて手に取ったのは故・徳大寺有恒巨匠1992年の著作「ダンディートーク2」。
徳大寺って誰だよ、と思われる方は、ムッシュかまやつ北方謙三勝新太郎を足して3で割ったようなおじさんだと思ってもらえればいいと思います。

 

この本は徳大寺氏の愛するイギリス車を中心に書かれたコラム集なのだけど、普通の自動車評論のつもりで読むと、ヤケドすることになる。

 

例えばイギリスの高級スポーツカー、アストンマーチンの乗り心地は、巨匠の手にかかるとこんな風に表現される。

 

「知謀がありながら世に認められず隠遁していた老いらくの武将を、三顧の礼で軍師に迎えたため、そいつが感激して必死に主人に尽くそうとしている感じ」

 

果たしてこれがアストンマーチンという車の評価として正しいものなのかどうか、極めて怪しい。というか、そもそも何を言っているのかよくわからない。

 

しかし、そんなことはどうでもいいのだ。
どうせ俺がアストンマーチンを運転することなどないし、別に車の評論が読みたいわけでもない。

 

俺はただ、溢れんばかりの自動車への愛を、天を駆け回るほどのイマジネーションを駆使して語る、徳大寺有恒という人物の熱さに触れたいだけなのである。

 

「好きなこと好きなだけ 好きならもっと好きにやれ」と加藤ひさしも歌っていた通り、愛を愛として表現できる大人は、とてもチャーミングだ。
アストンマーチンに乗る財力のない俺も、かくありたいと思う。


それにしても、このECDの静謐な筆致とは対極の過剰なレトリックに満ちた文章。しかしこれもまた、私を構成する一部なのです。

 

 

落日飛車とYOK.のライブを観た話

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 久々に名古屋のライブハウスに潜入。
YOK.と落日飛車のライブを観てきました。

 

まずはYOK.
ずっと前からフライヤーなどでよく名前を見かけていて気になる存在だったわけですが、ようやく観ることができた。
しかも今回は名古屋では初というドラムの入ったバンドセット。
ハープ、サックス、バイオリン(ジョセフアルカポルカの人だった)という独創的な編成が奏でる、俺のよごれちまってる魂を浄化してくれるような美しい音楽。
特に中盤に演奏されたゆったりとした鉄琴が印象的な曲と、最後の少しアップテンポなグルーヴのある曲が良かった。

 

続いては台湾からやってきた落日飛車。
昨年末にEP「JINJI KIKKO」の濃厚なAOR感と東京インディーとのシンクロぶりにヤラレて以来、ずっとライブを楽しみにしていた。

 

メンバーは6人。スカートの編成にサックスが加わったカタチと言えばいいだろうか。

 

パイナップルの飾りがぶら下がるフロアを子供たちが駆け回るアットホームな雰囲気の中でサウンドチェックが終了。
そして一曲目の「Burgndy red」のイントロが鳴り出した瞬間、きっと俺はこのバンドを好きにならずにはいられないだろう、という確信が身体を貫くのを感じた。
いや、39歳のおじさんという属性をかなぐり捨てた率直な表現を許して頂けるならば、恋に落ちた、という方が正確かもしれない。

 

街の灯りが明滅するロマンチックな輝き、巨大な万華鏡を思わせるサイケデリア、そしてポップソングのお手本のような甘く美しいメロディ。
それでいて、メンバーの佇まいはその辺にいる気のいい兄ちゃん風で、鳴らされている場所はガレージの片隅、という感じ。

達郎、Prefab sprout、そしてGREAT3とスカートやyogeeを愛している私のような者がグッとこないわけないのだ。
そしてなにより素晴らしいのは、こうしたグレートなバンドたちを分母に割り算しても、割り切られることなく彼らのオリジナリティーがたっぷりと残っていること。

それを彼らが暮らす台湾という土地に結びつけることはあまりにも短絡的とはわかっているけれども、この濃厚な甘さにはどこかエキゾチックな香りを伴っているように思う。

 

「JINJI KIKKO」を中心にした本編が終わってももちろん拍手は鳴りやむことなく、「アンコール準備してなかったから昔の曲を」と前置きして演奏された曲は、どことなくペイブメントの影響を感じさせるもので、彼らの幅広いルーツを感じさせた。


約1時間の短いステージだったけど、また一つ好きなバンドが増えた、エキサイティングな夜でした。

 

夏の終わりの課題図書 サニーデイ・サービス、北沢夏音著「青春狂走曲」の感想文

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今、目の前にはとうの昔に読み終わり、付箋が貼られまくった「青春狂走曲」が置いてある。
その感想をなんとか文章にまとめようとしているのだけれども、どうにもうまくいかないので、とりとめなく順番に書いていこうと思います。


まず、著者である北沢夏音氏について。

私が北沢氏のことを自分にとって特別な書き手として認識したのは例によってものすごく遅く、クイックジャパン山下達郎インタビュー。今から12年前くらい。

達郎御大が怒り出すんじゃないかと心配になるほど、自らの達郎に対する積年の思いを臆することなくぶつけることによって引き出された金言の数々。両者ががっぷり四つに組んだ言葉の応酬を、手に汗握りながら何度も読み返したことを覚えている。

 北沢氏の文章やインタビューは、もはやそれ自体がロックンロール的な匂いがして、音楽の深みにはまることの素晴らしさとある種の危うさを教えてくれるのだ。

 

そして本書の冒頭を飾るコラムのタイトルは「君に捧げる青春の風景」。
これぞ北沢夏音というべき、濃厚な愛が詰まった一行が目に入った瞬間、後に続く400ページ余りの充実ぶりを確信した。

 


この本は1995年から2017年、ファーストアルバム「若者たち」から最新作「POPCORN BALLADS」が発表されるまでの期間に行われたインタビューを中心に構成されている。
曽我部恵一、田中貴、丸山晴茂のこれだけまとまった肉声を読むのは初めてのこと。

 サニーデイ・サービスというバンドの裏側にどんなストーリーがあって、なぜいつまでも私を含めた多くのリスナーの胸を打つのか、その手がかりがこれでもかというほどに盛り込まれている(ちなみに2000年に解散を決めた瞬間も3人の口から克明に語られている。それぞれの記憶が少しずつ違っているところが生々しかった)。

 

 

語り出せばキリがない山のようなエピソードから印象に残ったものを一つあげると、曽我部恵一が再結成後のリハーサルで、ベースの田中貴に、「俺はこの曲をやるとき、当時付き合ってた彼女のこと思い出して歌ってる。楽しかったりケンカしたり。おまえもそういう気持ちで弾いてくれ」と詰め寄ったという話。

サニーデイのライブで見る曽我部恵一は、ソカバンともソロの時とも違う、何か大きなものに身を捧げるような雰囲気をまとっていると思っていたのだけど、こういうことだったのか、と深く納得した。
そしてあれだけのキャリアと力量を持つミュージシャンが、今なおリハーサルから全身全霊の演奏しているという事実。
「曽我部と一緒にバンドをやるのは過酷。あそこまで突き詰めるミュージシャンはいない」という田中貴の言葉とも重なって、あの圧倒的なパフォーマンスを生み出すためのエネルギーの大きさに、めまいがしそうな思いがした。

 

この、ロックバンドを続けていくために必要な音楽的、ビジネス的、精神的エネルギーの膨大さ。そこから得られる対価とリスクを考えれば、とてもまともなオトナのやることではない(あれだけ売れていたMIDI時代の月給は最大でも18万だったらしい)。
ロックバンドとは、もはやそれ自体が作品のようなものなのだということを思い知らされる。

 

にも関わらず、「Dance to you」発表時のインタビューで曽我部恵一

「もうサニーデイ以外の活動はしない。自分のすべてをサニーデイに注ぎ込むことにきめた」

と、これからの覚悟を語っていて、ファンとしてはこんなに嬉しい言葉もないわけだけれども、その道の険しさを想像すると、バンドが存在する間に、彼らがもたらしてくれる興奮と喜びを思いっきり吸い込まなければならない、とも思う。


後半には「第四のサニーデイ」ことアートディレクターの小田島等氏のインタビューも収録。
小田島氏によるアートワークを語ることは、サニーデイ・サービスというバンドの本質に迫ることと同義だと思っていた私としては、この点をしっかりと北沢氏が掘り下げてくれたことが嬉しかった。
「若者たち」「東京」あるいは「Dance to you」。これらのアルバムジャケットが、もしも凡庸なものだったとしたら、サニーデイディスコグラフィーに対する評価も、もしかしたから音楽自体も、違うものになっていだろう。

サニーデイ・サービスがつくりあげる音の世界を、目に見えるものや手に触れられるものへと拡張してきた小田島氏。
3.11以降に大阪へ移り住んでいた彼が東京に戻ってきたのが2014年で、そこからサニーデイの作品とライブが別次元に突入していったのは果たしてただの偶然なのだろうか。
小田島等こそが、曽我部恵一というアーティストにとって唯一のプロデューサーなのかもしれない、なんてことを愛と批評性にあふれた彼の言葉を読みながら思ってしまった。


そして小田島氏の「ある作家や作品にハマると、それを自分のことのように考えてしまう」という言葉を噛みしめつつ、俺は過去のどの時期よりも、今(NOW!)のサニーデイの音楽が一番好きなんだよな、と思っているところだ。

 

 

 

 

台風クラブ、スカート、曽我部恵一「Groomy Saturday」に行ってきました

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台風クラブ、スカート、そして曽我部恵一

ワタシのリスナー人生の今を象徴するような3組が出演するライブを観に行ってまいりました。

 

この三組に共通するものを一言で表すなら、日本のポップミュージック史の重みを「背負っている」ということ、ではないかと思っている。

 

パンクにマンチェ、はっぴいえんどフリッパーズギターという洋邦の音楽的遺産をバックグラウンド(あるいはトラウマ)にしてデビューし、自らその歴史を更新し続けている曽我部恵一

同じく、はっぴいえんど山下達郎はもちろんのこと、サニーデイ以降の日本のポップミュージックの最良を凝縮した音楽を作り続けるスカート澤部渡。

そして、遅咲きのファーストアルバムのリリース直後にして、すでに伝説になっている感すらある台風クラブもまた、京都の、日本のロックンロールの豊潤すぎる土壌から生まれ落ちたバンドと言えるわけで。

 

この三者が一同に集い、演奏する。
しかも会場は老舗・磔磔、オーガナイザーはその愛あるペンでシーンを支えてきたライター・岡村詩野さん。

 

ワタシがどんな手段を尽くしてもこの夜に立ち会いたいと思うのは必然だったわけですよ…。

 

ほぼ満員の会場でトップバッターをつとめるのは台風クラブ


ライブを観るの三回目なんだけれども、ステージに現れた瞬間から、いつものどこか居心地の悪そうな表情ではなく、この特別な緊張感の中で、とにかくやるしかない!という気合がみなぎった感じが遠目にも伝わってくる。

一曲目は「春は昔」。

そこから「処暑」「ずる休み」と、ファーストにして名盤「初期の台風クラブ」からの楽曲が続く。

ラウドだけど端正、どん詰まってるのに突風が吹きぬけるような解放感。アクセル踏みすぎて空転したタイヤから煙が出る感じも最高。魔法のロックンロールは今日も勢力を増したままライブハウスを転がり回る。

そしてこの日の瞬間最大風速は、やはり「飛・び・た・い」からの「台風銀座」の流れ。

吹っ切れたような伊奈昌宏のドラムと洒脱に跳ねる山本啓太のベース。そして万感をぶち込んだような石塚淳のギターリフ。
俺の心の中はまさに、吹けよ風、呼べよ嵐状態。
そしてその勢いのまま最後は日本語ロックの殿堂入り間違いなしの名曲「まつりのあと」でシメ。

こうして晩夏の台風はあっという間に通りすぎていった…と思ったところにスペシャルサプライズ!

曽我部恵一をゲストに呼び込んでのサニーデイ・サービス「御機嫌いかが?」。

一番のコーラスを石塚淳が歌い始めた瞬間、1995年のサニーデイサービス、2017年の台風クラブ、巨大な円環が繋がったような気がして、ビリッときた。
そしてステージの上の曽我部恵一が、ニコリともせずに演奏していたのも最高にカッコよかった。ステージに上がれば先輩も後輩もない真剣勝負なんだぜ、と背中で語っているようで。

のっけからいいものを見せて頂きました・・・。


続いてはその曽我部恵一がギター一本で登場。

一曲目は曽我部恵一バンドの「ソングフォーシェルター」。
サニーデイ・サービスやアズテックカメラの歌詞を引用しながら、ミュージシャンとしての自分の来し方を激しく自問するような圧巻のブルーズ。
しかしサビの「坊や、そっちはどうだい」というフレーズはこの日は若い二組のアーティストにも(もちろん観客の一人ひとりにも)向けられていたような気がしてちょっと震えた。

この日の曽我部恵一は、MCを含めた緩急のつけ方というか、アーティストととしての振り幅がすごかったように思う。

出会い頭の一発で表現者としての凄みを見せつけた後は、19年前のこの日にリリースされたサニーデイ・サービスの名曲「今日を生きよう」、そして「あじさい」でオーディエンスを甘酸っぱい青春のど真ん中に連れていき、プライベートなMCで笑いの坩堝に落とす。

そうかと思えば「キラキラ」や「満員電車は走る」では喉も潰れんばかりのシャウトでまたしても度肝を抜き、「大人になんかならないで」ではたまらなく純度の高い愛で心を焦がしてくる。

この人のライブを見るたびに、ミュージシャンが、音楽が、表現できることの幅広さ、果てしなさを見せつけられるような気分になって呆然としてしまう。

振り回されっぱなしの数十分、素晴らしかった。


そしてトリをつとめるのは、澤部渡率いるスカート。
台風クラブ曽我部恵一が温めまくったライブハウスの空気はいわば甲子園9回裏サヨナラのチャンスのような高揚感とプレッシャー。

いやしかし見事にやってくれましたよ、澤部選手。

磔磔の素晴らしい音響も相まって、歌も演奏も繊細にして揺るぎのない、今までで最高のパフォーマンスだったと言ってもいいんじゃないんでしょうか。

「暗い歌を一曲」という言葉と共に最初に演奏されたのは、台風クラブ石塚氏が愛してやまないというスカートの記念すべきファーストアルバムの冒頭を飾る「ハル」。

この「暗さに愛されてしまった天才」というところが澤部、石塚というソングライター二人の共通点なのかもれないな、としみじみしているところに畳み掛けられる「ストーリー」「おばけのピアノ」というキュン死必至の名曲たち。

この日のセットリストは、デビューからの時系列に並べたという、スカートの軌跡を辿るベストオブベスト。

メジャーデビュー直前のこのタイミング、このメンツのイベントで、こういうセットリストを組むところにも、澤部氏がこの日のライブをいかに特別なものと捉えているかがわかるというもの。
その大きな背中で、もっと大きな何かを背負ってしまうところ、大好きです。

MCで台風クラブとのなれそめ(俺と同じココナッツディスク吉祥寺で買ったCD-R!)やインディーデビュー以来の曽我部恵一との縁を語り、「だから今日は今日はエモいんです。みんなが思っている以上に」と言い切った後に披露された「CALL」。
イントロのギターの温度の高さに泣けたし、いつもより回数多めでキメていたシャウトも曽我部恵一の魂が乗り移ったかのようにソウルフルで男前だった。

そしてセットリストの後半は来たるアルバム「20/20」からの曲が並ぶ。
特にアンコールに披露した最後の「さよなら!さよなら!」の突き抜けたポップぶりよ。
どこまで飛距離が伸びるのか、リリースが今からとても楽しみなのである。

 


そんなこんなで21時きっかりにライブ全て終了。
なんだか自分がここにいることも現実とは思えない、夢のような時間であった。

 

京都滞在時間、わずか4時間。30代最後の夏、やりきった感あるな…と涼しくなってきた空気の中、新幹線に飛び乗りました。

 

 

 

 

2017年8月27日 日比谷野外大音楽堂 サニーデイ・サービス サマーライブ2017

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 先週の雨天続きが嘘のように晴れ上がった空の下で開催された、サニーデイ・サービス19年ぶりの野音ライブに行ってきた。

 

19年ぶりと言っても、98年も97年のライブも観ていないので、私にとって野音サニーデイを観るのは初めてのことになる。

 

ちなみに私が野音に来たのは今回で二度目。

前回は東京No.1ソウルセットのワンマンライブ。しかしこれも99年の話なので、まあやっぱり20年近く前の話。

あの時ステージの背後にそびえ立っていた旧長銀の本店ビルも無くなってしまった。

 


開場前から集まった満員のファンは、私よりもだいぶ歳上の人達から、同世代の子連れの家族、そして10代くらいに見える若者まで幅広い。
サニーデイ・サービスが長く愛され、また今もなお新しいリスナーを獲得し続けているバントであることの表れだろう。

 


蝉の鳴き声の中、まだ陽も高い定刻17時ちょうどにライブがスタート。

 

一曲目は「今日を生きよう」。
久々に会った友達に挨拶をするような、カジュアルだけど心のこもった演奏。
そこから「素敵じゃないか」「あじさい」といった初期の代表曲、そして「8月の息子」「江ノ島」「さよなら!街の恋人たち」のように夏の夕方にふさわしい曲が続く。夏をテーマにした名曲だけでこれだけの量があるということが信じられない。

 

そしてそんな楽曲たちを、大都会のオアシスとも言うべきロケーションで、3,000人ものサニーデイを愛してやまない人たちと共有している光景の美しさ。

 

しかし一方で、強欲なヘビーリスナーである私は、今のサニーデイ・サービスが、会場ごとどこか遠くへ連れ去る魔法のようなロックンロールを鳴らすバンドであることを知っている。今日はまだそのモードには入っていないように思われた。


そのスイッチが入ったと感じたのは、ちょうど真ん中あたりで演奏された「海へ出た夏の旅」。

 

新サポートメンバー・岡山健二によるドラムが印象的で、少しアブストラクトなアレンジに、会場にいる蝉の鳴き声が重なった瞬間、自分が松林の向こうの静かな海に連れて来られたような感覚に襲われ、視界が眩む。

 

それに続くのは「Dance to you 」のリリース以降、常にライブで更新され続けてきた「セツナ」の熱狂。

ロックンロールというマグマの一番温度の高いところを素手で掴むような演奏に、老若男女が集う客席もこの日一番の歓声で応える。

ほぼ最新作からの楽曲で、これだけ盛り上げるキャリア20年以上のバンドなんて、世界中のどこにもいないんじゃないか。
直後に演奏された「白い恋人」が放つ、逆に20年前に作られたとは思えない、フレッシュでまばゆい光を浴びながら、心と頭が混沌としていくのを感じた。

 

この三曲の流れが、私にとってこの日最初のピークにして、異次元への入口だった。

 


しかし、どうしようもなく強欲な私は、俄然熱を帯びていくライブの中にあってもなお、あの最新作にして傑作「Popcorn ballads」からの楽曲がまだ披露されていないということが気になっていた。
フジロックでは「街角のファンク」をC.O.S.AとKID FRESINOを迎えてぶちかましたと聞くし。

 

でも今日はなんだかそんな流れでもないみたいだな…と思っていたところでついに披露された「花火」。
ナイアガラのウォールオブサウンドのように華やかなアレンジ、雄大なメロディと歌詞がマジックアワーの夜空に吸い込まれていく様が美しすぎて、1コーラス目のサビの時点で涙を拭うのを諦めた(いろいろ書いてるけど、新井先輩のギターが素晴らしかった「96粒の涙」の時点でとっくに涙腺は崩壊していたのだ)。


そしていよいよ本編も終盤。
ちょうど空が真っ暗になったところで演奏された「時計を止めて夜待てば」、そして「24時のブルース」。

静かなメロウネスとささやかな悲しみを湛えたブルーズが、会場にいる小さな子供たちの声やオフィスビルの窓の明かりと重なり、都市のための子守歌のように響く。高野勲が弾くメロトロンによるひんやりとした寂寥感が心地よい。

この曲をこの場所で聴けるなんて…と感慨に耽っていたところに鳴り出したのは「週末」のイントロ。
個人的には99年のライジングサン以来の再会。夏の夜に溶けてしまいそうな儚いメロディはあの時のまま。

 

でも、

 

「ゆっくりと だけど確かに おだやかに時は過ぎる
気づいたらもうこんなところなんて 僕なんか思ってしまう」

 

というサビが、20年前のあの日とはまったく違う意味を帯びていることに気づき、また泣けた。泣けすぎて、もう「サマーソルジャー」ではステージを直視することができなかった。
OFTで聴いた時は「これはいつかみんなでシンガロンしたいぜ」とか思ってたけど全然無理。歌えなかった。

 

そして本編ラストは「海岸行き」。

ここまでの3曲はアルバム「愛と笑いの夜」とまさに同じ曲順。そうか、ちょうどリリースから20年だったのか…と今さらながらに、この日のセットリストの意図に気づく。

でもそうしたメッセージは別としても、この愛すべき、さりげない曲で、集大成とも言うべき特別なライブを締めてしまうほど底知れない表現力が、この日のサニーデイサービスには宿っていた。

 

 

本編が終わり、急いでトイレで顔を洗い、ビールを飲んで、心を落ち着かせてからアンコールに臨む。


本編で感情を大開放してしまったので、もうあとは楽しむだけ。
同じく「愛と笑いの夜」からの「忘れてしまおう」、「夜のメロディ」「青春狂走曲」。

再結成前の代表曲連発に、もうメチャメチャ盛り上がった。

 

特に「忘れてしまおう」をライブで聴くのは初めてだったけど、なんというカッコよさ。「愛と笑いの夜」における曽我部恵一はモーニンググローリー期のノエル・ギャラガーとタメを張るソングライターだったんだね…とこれまた今さらながらに。


鳴り止まない拍手の中で登場した2回目のアンコールは「胸いっぱい」と、丸山晴茂がドラムを担当した現時点で最後のアルバム「Sunny」から「One day」。

 

「静かな海辺のような風景 ときどきそこにみんな集まる
知らず知らず吸い寄せられる 何も喋らずにただ涙を乾かす風を待つ」

 

という歌詞に、今日この場にいることができた幸運、サニーデイ・サービスというバンドを追いかけてこれた幸せを噛みしめた。


またいつか、ここで会いましょう。

 

 

 

ーお知らせー

①私も寄稿させて頂いたZine「Something on my mind」が発行されました。

今回の特集はずばり「渋谷系」。渋谷系はもちろん、日本のネオアコ・ギーターポップ、シューゲイザーと10年代の名盤ディスクレビューに加えて、伝説のネオアコバンドPhilipsのインタビューまで盛りだくさんの内容で500円。

ココナッツディスク池袋をはじめ、都内レコード店を中心に順次販売されていますので、ぜひ読んでみてください。

(詳しくはまたお知らせします)

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②またまたパーティーやります。

 9月16日(土)新安城カゼノイチで「KENNEDY!!!! VOL.3」を開催します。私もDJとして参加。お近くの方はぜひ遊びにきてください。