
昔から、暴力的な性格なくせに、身体的な暴力そのものにはすこぶる弱い。
先日も仕事に向かう途中、カラスが小さい鳥を襲っている現場に遭遇し、その日の仕事が手につかないほど動揺した。
なので、暴力的なスポーツであるサッカーは好きだけど、相手を殴って倒すボクシングはそれほど好きじゃないし、ほとんど暴力そのものである総合格闘技に至ってはまず見ない。
(この傾向はムスメが生まれてから強まった気もする)
要するに、矛盾だらけの臆病者ということなんだな俺は。
そんなことをウジウジと考えていたところ、古い友人から"KAMINOGE"なるプロレス雑誌がいきなり送りつけられてきた。
だから格闘技とか興味ないんだってばよ、思いつつ中身を開いてみるととにかく文字が多い雑誌なんですわこれが。
ロッキングオンのプロレス版、と言えばイメージが伝わるだろうか。
そしてそんな雑誌をプロレスに興味のない俺にに読ませようという友人の理不尽さもご理解頂けるだろうか。
しかも、その感想をこのブログに書けというリクエストつき。
めんどくさい!
いやしかしこれは、俺が友情と数少ないブログの読者様をどれだけ大切にしているかを証明するいいチャンス、とも言えなくもない(超ポジティブ解釈)。
というわけで、メロス気分で隅から隅まで全部読みましたよ。
しかし巻末に向けてはまだまだ、(少なくとも私にとっては)無名のレスラーたちのインタビューと、いい大人がムキになって書いたプロレスにまつわるコラムが延々と続く。
この構成がとても良い、と思いましたね。
まず、猪木と藤原が『プロレスラーが最強だった時代』の、巨大すぎる栄光をさんざん語りたおす。
しかしその直後、猪木と袂を分かった前田日明が、猪木ビジネスの裏側や、自身と弟子である髙田延彦の確執を含めた人間関係までも赤裸々に語らせて、猪木神話(=プロレス神話)の多くが幻想であることを暴いてしまいます。
しかも「AV女優と合コンしたい」「堺雅人はすごい俳優」といったゲスな発言によって、前田自身のカリスマ性も無効化してしまう謎展開。
プロレス界、魑魅魍魎すぎるだろ。
という感想を禁じえません。
格闘技としてはもう死んだはずのプロレスという枠組みの中で、そしてプロレスを殺した主犯とも言うべき(間違っていたらごめんなさい)総合格闘技のスター・桜庭和志が、45歳を過ぎてなおレスラーとしてのあり方に悩み、一回り年下の中邑真輔に容赦なくダメ出しされる姿は、ショッキングではあると同時に胸に迫るものがある。
かつての隆盛はもう戻ってくることはないと分かっていても自らのプロレス道を究めようとする現役レスラーの真摯さ。
そういう部分が、ガチじゃなくても、ブームじゃなくても、根強くファンを惹きつけている根っこにある部分なんだろうな、と思いました。
そしてこの後はまた武藤敬司のしょーもなくも興味深い思い出話インタビューに続くわけですが、多分、ここまでに登場するのがプロレスだけでメシが食えてる人たち、なんではないでしょうか。
そこからはブラック企業以上に真っ黒な業界の搾取にあっても闘い続ける女子プロレスラーや、ガールズバー(店員は女子レスラー)を経営しながら興行を続ける団体代表の話など、経済的な苦境の中でたくましく活動する、ザ・ノンフィクションな現実が語られる。
プロレスの魔力に取り憑かれてしまった人はたいへんだなぁ、と思わざるを得ませんが(他人事でごめんなさい)、なんかプロレスって裾野がメチャクチャ広いんだなーという感慨も。
プロレスって名前なのにプロじゃないだろ、という見方もできますが。
というわけで、私のような全くプロレスに興味のない人間でも、この雑誌を順番に読んでいくと、現在の日本のプロレス界というのは、アントニオ猪木がつくった大きな海に、いろんな土砂が流れ込んで(猪木自ら流し込んで)、でも完全には埋め立てられなくて、今は干潟の中で小さな生態系がたくさん生まれている、という大きな流れがくっきりと見えてきました。
あと、インタビューの目線もフラットで、過度な思い入れを強要しない感じが10年代的で良かった。
はい。
以上、私の感想となります。
これで友情は証明されたでしょうか。
雑誌はおもしろかったけど、もう送ってくれなくていいからね!