ドリーミー刑事のスモーキー事件簿

バナナレコードでバイトしたいサラリーマンが投げるmessage in a bottle

Lee & Small Mountainsのラストライブを観た話。

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リースモの音楽とは、キリンレモンである。

 

さわやかな甘さとほのかなすっぱさ。それでいてパンチのある炭酸が効いていて。なによりも、いつ飲んだって絶対に美味しい。

あまりにもさりげなく、優しい面持ちでいてくれるものだから、刺激的なコピーを引っさげて現れる新製品の前では控え目に見えるかもしれないけど、まあ一口飲んでみてくれよ。やっぱこれだな!という気持ちになるから。


そんなリースモ、略さずに言うとLee &Small Mountainsという名前の最高にイカしたプロジェクトが、その看板を下ろすという。

今から3年前、彼らの7インチ「Teleport  City」に出会って心を躍らせ、ついにはリー・ファンデ本人のライブを企画するくらいに人生を変えられてしまった者として、この節目のライブは絶対に目撃したいと願っていたのだけれども、やっぱ神さまっているのかもしれない。なぜか俺はその日、下北沢はモナレコードにいたのだよ。

 

開演からだいぶ遅れて会場に到着すると、ステージではちょうど対バンのSaToAが演奏を始めるところだった。

去年ハポンでライブを初めて観て以来二度目。


名作 「スリーショット」からのナンバーが中心だったこの日もライブも、ソフトロックなハーモニー、その裏側からチラッと見えるパンクな鋭さとソウルの熱さがかっこいい。


こうした過去の音楽的遺産をセンス良く参照していくスタイルの音楽をこの時代に表現しようと思うと、DJや打ち込みの方が自然のように思えるのだけれど、あえてバンドで、しかもスリーピースで、という意思こそが、彼女たちにしか放つことのできない輝きの根源にあるように思えた。


(この時点では)まだ発売前の新譜からの曲も聴けたのだけれども、どこかオルタナ感のあるメロディーが新鮮で、彼女たちの音楽が届く射程距離がぐっと伸びるような気がした。

そしてワタシは、この繊細だけど確かな光を、いくつになっても感じられる人間でありたいと強く思いましたね。

 

さて、続いて登場するのはこの日の主役、Lee & Small Mountains。バンドが演奏するソウルフルなイントロダクションが鳴り響く中、客席後方から(プロレスラーのようなスタイルで)入場してきたリー・ファンデ。

長い手足をスーツに包んだ姿が実に精悍。


学生時代から名乗ってきたリースモ名義のラストライブということで、きっとこれまでの集大成的セットリストになるのだろう…と勝手に予想していたのだけれども、この日の本編は一曲を除いてすべて未音源化の新曲。


「カーテンナイツ」からはやんないのかい!とツッコミつつも、ソロアーティストとしてのリー・ファンデの第一歩を刻みたいという意気込みや良し。やっぱソウルボーイはこうでないと!


その新曲たちは、これまでのソウルをベースにした路線を踏襲しつつも、よりポップな彩りと、メロディーの力を重視しているような印象の曲が多いように思える一方、スティービーワンダーの「Superstition」を下敷きにしたであろう重いファンクナンバーもあったりして、来るべき次作の充実をギンギンに予感させてくれた。


さて実は私、リースモをバンドで観るのは実はまだ2回目でして、1度目は野外のイベントだったこともあり、じっくり堪能したのは今日が初めてと言ってもいいんですが、この地に足の着いたグルーヴが実に気持ちいい。パーマネントなバンドじゃないというのが不思議なくらいのステディ感。このバンドで名古屋また来てほしい。


そしてそんな完璧なアシストを受けて聴き手のゴールに迫るのボーカルのリー・ファンデ。

オーセンティックなメロディーに「今・ここ」の切実さを宿らせて、オーディエンスの心の壁を真正面から貫こうとする、熱くて青くて愛に溢れたうた。観るたびにスケールが大きくなっているように思えてならない。

 

最高だ…と感極まったところで時計の針は9:30を指していた。シンデレラおじさんことドリーミー刑事(40歳)、お迎えの馬車が来たようです。泣く泣く本編ラスト曲で会場を後に…。

最終の新幹線の中でアンコールが「Teleport City」「山の中で踊りましょう」だったことを知り、100万バレルの涙で大井川を氾濫させました。


ちなみにLee & Small Mountainsという名前はこの日は最後ですが、今後はリー・ファンデという名前で今日のバンドメンバーと共に活動していくとのこと。


また新たな歌を聴かせてくれる日を私は心から待っております。

 

新しさの洪水。長谷川白紙とCRCK/LCKSのライブを観ました。

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一日中オフィスに篭って一つでも多く今年の言い訳と来年のはったりを考えねばならない年度末。

それなのに突如ぶち込まれた取引先との打ち合わせ。


うんざりしながら日時を確認すると、3月7日の夕方。場所は新栄…ってことはとうの昔に諦めていたCRCK/LCKSと長谷川白紙のライブ会場の目と鼻の先じゃないですか。

神様っているかもね…と思いながら当日券でアポロベイスに駆け込んだのは開演2分前。

メール大好きな上司に邪魔されないよう携帯は機内モード。2時間消えます。探さないでください。

 

 

先に登場したのは、新鋭・長谷川白紙。

先日リリースされた「草木萌動」のとんでもなさにブッ飛ばされて、一日も早くライブを観たいと思っていた。


Macとキーボードのみが置かれたステージに

現れた長谷川白紙は、挨拶もなく一心不乱にアブストラクトな旋律を奏でたかと思うと、ビートとノイズとメロディーが一体となった音の濁流をフロアに一気に放つ。いきなり洪水状態に。

客席後方にいた私だったが、この音を全身で浴びたい、たとえ鼓膜が破れても。というとても強力な欲望を抑えることができず、瞳孔を開きヨダレをたらしながらフラフラとスピーカーの前へ。


初めて見る長谷川青年は、想像通りいかにも繊細でお日さまが似合わなさそうなルックス。そんな奥手そうな20歳が作り出す音楽は、あまりにも挑戦的で野心的で革新的だった。


もはや感情すら読み取れないほどに細かく引きちぎられ、また集積されて投げつけられる音の塊。

一拍先も予想できないそのサウンドは、まるで超音速の旅客機で、シカゴ、ニューヨーク、デトロイト、ロンドン、ブリストルマンチェスターアムステルダム、ベルリン、東京、京都…すべてのダンスミュージックの聖地を巡る旅のようである。

果たしてその根底にあるのは愛か、憎悪か、無関心か。その感情を読み取ることすらできないほどの情報過多。5Gで音楽を無限に摂取可能な時代を象徴する音楽。


しかしこの40年に亘るダンスミュージック史を3分で駆け抜ける快感も、長谷川白紙の底知れなさの半分未満しか説明していない。

彼のもう一つの魅力は、手がつけられないほど混沌としたリズムを、時に包み込み、時にブーストさせ、時に制圧するような歌を生み出すシンガー・メロディーメーカーとしての側面だ。

例えば、スペーシーな壮大さとサヴダージな余韻が同居した「草木」、発狂したスクエアプッシャーの高速ブレイクビーツをさらに加速させていく「毒」の革新性を前に、いったい過去のどのアーティストを参照して理解をすれば良いか、途方に暮れてしまう。


ここ数年、自分より年下のミュージシャンがつくる素晴らしい音楽との出会いはたくさんあったけれども、音楽の「新しさ」そのものに興奮するなんて一体どれくらいぶりだろう。長生きはしてみるものだ。


ちなみにこの日は「草木萌動」に収録されたYMOの「CUE」のカバー(素晴らしい)も披露してくれた。

コーネリアス高野寛といった偉大な先達もカバーしたこの名曲に耳を奪われながら、YMOの遺伝子を引き継ぐ最新型のミュージシャンがここにいますよーと、ちょうど前日に50年のキャリアを振り返る「HOCHONO HOUSE」をリリースした細野晴臣御大に大声で教えてあげたい気持ちになりました。もうとっくに知ってるかもしれませんが。

 

続いて登場するのは本日のメインアクトCRCK/LCKS。

こちらも初見。音源もほとんど聴いていない完全にはじめまして状態。

東京芸大やらバークリーやら、メンバーの皆様のアカデミックすぎる経歴からスノッブでアートコンシャスな音楽を想像していたのだけれども、意外や意外。

その超絶テクのすべてをポップスの楽しさ、多幸感をぐんぐん拡張させていくために捧げているような音楽だった。

 

特に麗しのODさんの堂々たるディーバ感にはとても驚いた。声も喋り方も完全にプロフェッショナルな上質さ。

そしてそれを支えるメンバーの演奏は、ファンク、フュージョンプログレ、MTVにエピックソニーと、パンクかレイブの洗礼を受けていないものは全てダサいと見なされていた90年代を青春の主戦場を過ごした世代の人間(=俺)としては敬遠しがちな要素を惚れ惚れするほどの手つきで解体・再構築していくもの。

んん?という違和感がいつの間にか、おお!と身体と心が動いてしまっている説得力と新鮮さが気持ちいい。


たぶんそのキモは石若駿の、ディアンジェロ・グラスパー以降のと言えばいいのか、1秒という時間の概念をねじ曲げてしまうような、驚異的なドラムのモダンさにあるような気がしました。

私も宴会ドラマーのはしくれとしてなにかスキルを盗んでやろうと凝視してましたけど、どう手足が動いてどう音が鳴ってるのかまったくわからなかったっすね。(あたりまえ)。


バンドとしての一体感、屈託のない感情の発露。孤独なベッドルームが似合う長谷川白紙とは少なくとも外観上は対照的な音楽。

でもとんでもない情報量のポップス世界遺産をギュッと圧縮して2019年の一曲にしてしまうという意味においては、共通した哲学がある気もする。

北極経由か南極経由か、ポップミュージックをめぐる旅とはかくも自由で多様性と驚きに満ちたものであるかを実感させてもらえた一夜。

サラリーマンとしての責任を投げ捨てでも駆けつけて良かったな、と思いました。

 

もちろん翌朝は「出張先から直帰とはいいご身分だな…」という上司のかわいがりで始まりましたけどね。

人生のクロスロードが重なり合った夜。THE COLLECTORSのライブに行ってきた話。

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自分でも信じられないことだけれども、最後にコレクターズのライブを観たのは今から12年前、2007年2月広島クアトロでサンボマスターと対バンした時だ。

 


そして最初に彼らを観たのはそこからさらに遡ること6年前の2001年。

会場はクアトロよりもずっと小さい名古屋エレクトリックレディランドだった。

あの決して広くはないELLのステージに、長身のメンバー4人が現れた瞬間のかっこよさ!

「これがロックスターってやつか!」という高揚がずっと忘れられず、今日もクアトロまで来てしまったようなものだ。

キャリアの長いバンドは、人から聞かれた時にどうオススメするのかが難しいんだけど、コレクターズに関しては「ライブを観てくれればわかる」という答えですべてこと足りてしまう。

そんなバンドなのに、ここ数年はまったく予定が合わず、より熱心なファンである妻の留守番という地位に甘んじてしまっていたのだ。

 

 

ほぼ開演時刻ぴったりにメンバー登場。

ソールドアウトのフロアーは大盛り上がり。


グリッターなジャケットに身を包んだリーダーはめちゃくちゃ元気だし、コータロー君が放つ色気に至ってはもう目が合っただけで妊娠するんじゃないかというレベル。


でも、でも…今さらこんなこと言うのは本当に野暮だってわかってるんだけど、やっぱりあの四人じゃない…という気持ちが心の片隅でシクシク痛む、というのも正直なところ。

 

不義理をした12年という時間の長さと、コレクターズの歩んできたけもの道の険しさを噛みしめる。

広島のライブの時に妻のお腹の中にいた(ことが後に判明する)娘も、もう今年12歳だもんな。

人生もバンドも、ずっとミリオンクロスロードだよ…。

 

 

しかしJEFF & coziの新リズム隊はとにかくタイトでパワフル。

THE WHOへの深すぎる愛に生きる加藤ひさしが、後ろ指をさされてでも欲しかったビートはこれか、と少しだけわかったような気になる。

 


そしてそのリズムの上で、出たばかりの新作「YOUNG MAN ROCK」からのナンバーを気持ち良さそうに歌う加藤ひさしは、今まで見たことがないくらい機嫌が良く、子供のように明るい。「青春ミラー」発売時のインストアイベントでずっと文句ばっかり言ってた人と同一人物とは思えない。

 


何度もMCで(あらゆるアーティストにとって鬼門である)名古屋公演がソールドアウトしたことの喜びと感謝をストレートに表現していて、こちらまでウルっときそうになる。

 


「世界をとめて」「ファニーフェイス」など、旧作からも何曲か演奏してくれたけど、やはり新曲を演奏している時の方がバンドのテンションが段違いに高い。俺なんかよりずっとキャリアの長そうなファンの人たちも大喜びだ。

今のコレクターズが充実ぶりを表す、実に幸福な光景。

還暦目前、結成30年を優に超えてバンド史上最大の黄金期を迎えるパイセンがいるってことの尊さよ。

 

 

 

彼らがつかみ取った夜明けと未来と未来のカタチの余韻に浸りながら、焼き鳥屋のカウンターで熱燗をキメた夜。。。

 

 

 

スカートの新作をココナッツディスクで買った日のこと

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さる1月22日、私は都内某所に出張していた。

 

仕事で東京にしょっちゅう来ているものの、レコード屋さんが営業しているような時間にフリーになることはめったになく、しかもその日はスカートの新曲「君がいるなら」のフラゲ日だった。

取引先での打ち合わせが終わった後、私は地理に不案内な上司を東京砂漠ど真ん中に置き去りにし、ココナッツディスク吉祥寺に走った。

 

基本的に私はおトクなものが大好きな性分だし(プレミアのついたレコードとか一度も買ったことない)、一定以上の音質で聴ければフォーマットに強いこだわりもないし、そもそも文化資本が乏しい地方在住の身としては、CDやレコードの入手はオンラインに頼ざるを得ないし、もちろんサブスクにもしっかり加入している。

しかしそんな私だからこそ言える逆説的な事実は、「いつ・どこで・どうやって・それを手に入れたのか」ということが、音楽そのものに対する愛着を変化させるということである。

つまり、余計なことはしすぎる方がいいよ、ということ。

 

なので、せっかくこんな日に東京にいるのだから、新幹線の時間を遅らせてでも、あるいは上司の怒りを買ってでも、ココ吉に足を運びスカートの新譜を買うという行為には、それに見合う十分な価値があるのだ。

 

吉祥寺駅から徒歩5分。店の入口で視界に飛び込んでくるのは、私がつくった例のフリーペーパー。

貴重なスペースの一角を、この怪しげな紙で占領させてもらっていることに改めて感謝の念が湧いてくる。

どうか一人でも多くの方に手に取って頂き、あーだこーだと話のネタにしてもらい、レコード店に再び足を運ぶきっかけになってくれることを祈るばかり。

そして売り場に足を踏み入れると目に入るのは、おそらく届いたばかりの「君がいるなら」がずらっと並んだ棚。

この光景を見るために、私はここに来たと言っても過言ではない。

 

もちろんここで売っているCDも、オンラインで注文してコンビニで受け取るCDも、同じ工場の同じラインで製造された物質的にはまったく同じものである。

しかし、そのCDが震わせる空気を受け止める、俺の鼓膜や脳までもが同じであると言い切ることが、果たして誰にできようか。


必然と偶然によってここに集まってきた膨大なレコードやCDの中から、自分の目で見て、手で触れて、なんなら匂いまで吸い込んで選んだ、30年前の沢田研二の7インチやスクーターズのCD、そして去年出たばかりの工藤将也のCD-R。

それらと共に袋に入れてもらったスカートのニューシングルは、間違いなく俺だけのためにカスタマイズされた「君がいるなら」だ。

 

そんな自己満足の詰まった物質で狭い部屋を満たしていく倒錯的な喜びを、AmazonSpotifyは届けてくれないのである。


そう言えば、震災後の女川を歩いたロロの三浦直之は、「記憶とは自分の内側ではなく、外側に宿るもの」と言っていた。

ならばレコードやCDとは、アーティストの歌と演奏だけではなく、聴き手である私たちの記憶をも封じ込めてくれる媒体である。

そしてそれらを過剰な愛と共に私たちに届けてくれる、ローカルでインディペンデントなレコード店

私にそんなことを願う資格はないけれど、いつまでもそれぞれの街の文化的灯台として、私たちの闇を照らしてほしいと思わずにはいられないのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

20181228『サニーデイ・サービスの世界 追加公演 “1994”』

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サニーデイ・サービスの世界  追加公演 “1994”』に行った。

 
2018年5月に亡くなったドラマー・丸山晴茂の追悼ということで、メンバーは曽我部恵一と田中貴の二人きり。チケットにもわざわざ、「曽我部恵一(Vo/Gt)、田中貴(Ba)」と印刷してある。

 


とは言え、私の頭の中では、これから何が起きるのかまったく想像できず、そもそもこのライブにどう向き合えばいいのか、整理がつかないままその日を迎えてしまったような感じがあった。

 

 


開演時間ギリギリに渋谷クアトロに着いてまず目に入るのは、入口に設置された献花台。麗しい晴茂君の写真パネルの前に、たくさんの花が供えられていた。

 


そして、フロアに入りステージを見れば、そこにあるのは、数本のギターとベースのみ。ドラムセットがあるべき場所には、ぽっかりと暗い穴が開いていた。

晴茂君の不在というものを改めて実感する瞬間だった。

 


定刻を少し過ぎたところで、曽我部恵一と田中貴が登場。二人とも黒いジャケットを着ている。もちろん超満員の観客も拍手と歓声で迎えるのだけれども、やはりどこか固い空気も感じる。みんな私と同じような戸惑いを感じているのかも知れない。

 


ライブはシングル『NOW』のカップリングに収められた『あの花と太陽と』からスタート。

 
どこかの街では祭りだよ

さびれた心に赤い花が咲く

淋しくなるからぼくは歩くんだよ

 
そんな歌詞が、年末の渋谷の喧騒と、二人ぼっちのサニーデイのことを歌っているような気がしてしまう。

 


このように、愛や恋を題材にしているはずのサニーデイの名曲たちが、どうしても晴茂君へのメッセージのように聴こえてくる瞬間は、この後の3時間・36曲の間、何度も何度も私の心の中におし寄せることになる。

 


『空飛ぶサーカス』『日曜日の恋人』と続く二人だけの演奏に、ドラムの不在をカバーするための装飾や細工は一切なく、空いた穴をそのままさらけ出すかのよう。

 
当然のことながら、この「ただドラムの音がだけ無い」という状態は明らかに音楽としてのバランスを欠いており、その異形ぶりが最初にクローズアップされたのが、4曲目『真っ赤な太陽』だった。


アルバム『東京』の多幸感を凝縮したこの曲は、勢いのあるバンドサウンドが胸を躍らせてくれる…はずなのだけれども、その肝になるドラムの音が鳴らないまま、ベースとギターは忠実にレコード通りのフレーズを鳴らし、晴茂君の不在感ばかりが際立っていく。

 


そんなオーディエンスの戸惑いを乗せたまま、曽我部恵一は一曲ごとに淡々と、しかしいつもと同じ真摯さで、譜面台の楽譜をめくり、二人だけの静かな熱を帯びたライブを進めていく。

 


そして11曲目に披露されたのは、再結成後最初のアルバム『本日は晴天なり』に収録された『ふたつのハート』。

活動再開というニュースを聞いた時の驚きと喜び、そして若干の不安が入り混じった気持ちがフラッシュバックする。

 


きみが好きな色の花を買っていこう

きみみたいにきれいだって もういちど言えるように

透明な花瓶にかざりましょう

心の波にうかべましょう

 
あれから10年、サニーデイというバンドが歩んできた道のりの長さと険しさ。そして会場入口で花に囲まれた丸山君の写真を思い出しつい涙がこぼれる。

 


『本日は晴天なり』『Sunny』という丸山晴茂がフル参加した再結成後の二枚のアルバムは、それまで、あるいはそれ以降の作品に比べて音楽的な冒険が抑制されたかもしれないが、三人で演奏することの意味や喜びに溢れた作品で、この夜に演奏されるのに、最もふさわしいもののように思えた。

 

 

 

13曲目「からっぽの朝のブルース」からエレキギターに持ち替えた演奏は16曲目『恋人の部屋』で、最初のピークに達する。

サニーデイで最もパワーポップ色の強いこの曲は、冒頭から終わりまで丸山君のドラムがフックになっているのだけれども、今日のこの場にその主はいない。

前半の『真っ赤な太陽』と同様、そこには無音だけが広がっていく…はずだったのだけれども、俺の心の中では確かに聴こえている。あのドカドカして最高にチャーミングな、晴茂君のドラムが。

 


それが俺だけの錯覚ではないことは、満場のオーディエンスの大きな歓声が証明してくれている。みんな頭の中で、心の中で、晴茂君のドラムを感じている。ここにいるみんなでサニーデイのグルーヴを作り出しているのだ。

 
いるのに、いない。

いないけど、いる。

フィクションとノンフィクションの境界線。

 
『DANCE TO YOU』以降のサニーデイ・サービスが、宿命的に追求せざるを得なかったテーマが、ある奇跡として帰結した瞬間だったような気がした。

 


会場全体を巻き込んみながら、演奏はまだまだ続いていく。

『時計を止めて夜待てば』『真夜中のころ・ふたりの恋』といったメロウサイドの名曲の後に鳴らされた、この日22曲目のイントロは、今やサニーデイの代表曲と言ってもいい『セツナ』。

曽我部恵一と田中貴、残されてしまった二人の、魂を叩きつけるような演奏、そしてどんなに叩きつけても壊れることのない力強さを持った楽曲のせめぎ合いが、この日最大の火柱を上げていく。

 


そしてその熱狂から一転。続いて披露されたのは、『THE CITY』に収められた『完全な夜の作り方』。混沌と興奮が支配する問題作『the CITY』の中で、暖炉の炎のように優しく心を照らしてくれる歌だ。

 
曽我部恵一というミュージシャンが、90年代から今に至るまでシーンの信頼を得ている理由の一つは、楽曲の訴求性とは裏腹の、彼の徹底的な批評性にあるように思っている。

どんなにエモーショナルな曲であっても、作者本人とは常にある一線が引かれ、決してウェットな情緒にまみれてしまうことがない。

追悼と銘打ったこの日のライブでも、晴茂君の思い出話はおろか、その名前すら一度も口にしない、というところに彼の美学が貫かれているように思っていた。

 
そんな曽我部が、泣いている。しかも曲のほとんどを歌えないくらいに。

 
ギターとベースの音だけが響いていくクアトロ。再び訪れる静寂。

 


そしてそのまま何も言わずに突入した24曲目『恋人たち』。

 


明日晴れたらきみに電話して

どっか遠くまで電車に乗っていこう

白いあたらしいシャツ

青いトートバッグ

ぼくらの運命は小田急線の中

 


下北沢の街を闊歩する三人の姿が浮かんでくるような明るい歌と、先ほどの曽我部の涙が重なり、私はまた感極まる。

 

 

おそらくここまでですでに2時間くらいが経過。

しかしステージ上の二人は時間のことなんて気にせず、自室にいるかのような親密さで、名曲を次々と積み重ねていく。

 


その様子はまるで、村上春樹ノルウェイの森』で、主人公の直子の死を悼んで、恋人のトオルと親友レイコが一晩かけて51曲をギターで演奏するシーンを思わせるものだった。どれだけの歌を捧げても、永訣にはとても足りない、ということなのだろう。

 


そこから演奏されたのは、『今日を生きよう』『24時のブルース』、そして『サマーソルジャー』といった、大団円にふさわしい曲たち。

その中で、最も胸に迫ってきたのはやはり『baby blue』と『桜 super love』の二曲。

 


さあ 出ておいで

君のこと待ってたんだ

昼間から夢を見てばかり

約束の時間さ

 


そんな呼びかけに応えるように鳴らされる晴茂君のフィルイン。ロックバンドとしてのサニーデイ・サービスを象徴する瞬間。

 


君がいないことは君がいることだなぁ

桜 花びら 舞い散れ

あのひとつれてこい

 


大切なメンバーを失ったサニーデイ 、そしてこれから多くを失っていくであろう、私たちのそばにあり続ける、祈りと実感。

 
人生というものの一回性、その美しさと残酷さ。

この夜、サニーデイ・サービスが教えてくれたものが、この二曲に凝縮されていたように思う。

 


しかし、不完全であっても、満ち足りていなかったとしても、人生は続いていく。

 


旅の手帖にきみの名前も書き込んでポケットに忍ばせる

いつかはきっと知らない場所で きみのこと思い出すだろう

 

33曲目の『旅の手帖』で、長い本編が終了した。

 

 

私が東京のライブハウスでサニーデイを観るのは、当時はまだ歌舞伎町にあった00年12月のリキッドルーム以来。前期サニーデイのラストライブである。

 
そのトラウマの影響か、12月のサニーデイに対してはなんとなく胸騒ぎがしてしまうのだけれども、この日確かに曽我部恵一は「来年は新作の製作に専念し、完成したらツアーをやりたい」と言ってくれた。

突然の新作リリースに驚かされてばかりの身としては、先の予定を教えてくれるという当たり前の親切に驚きつつも、とりあえず解散はしないようなので、まずは安心した。

この日の余韻を胸に、楽しみに待ち続けたいと思う。

 


※当日の曲順でSpotifyでプレイリストを作成しました。

 

open.spotify.com

フリーペーパー「A Frozen Boy, Days in Love Vol.2」が完成しました!

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Sons of Nice SongsもKENNEDY!!!は終わったけど、まだ俺の2018年は終わっちゃいない。

晦日ギリギリ、2号目のフリーペーパー「Frozen boy,days in love ~おいぼれのためのディスクガイド~」が完成しました。

(最下部に配布店さま一覧かあります)

 

今回のテーマは「愛と闘争 Get back in love again」として、タフな時代を生き抜くために必要だ、必要なんじゃないか、まあちょっと覚悟はしておけ的な作品を勝手に紹介しております。

 
というわけで、今回もプロモーションの王道、発行人インタビューをお送りします。

聴き手はおなじみ、山崎宗一郎さんです。RO顔負けのストロングスタイルで、フリーペーパー発行の真意に迫ります。

 

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ーまたなんか変なもん作ったらしいですね。

「失礼だな。帰りますよ?」

 
ーまあ座って。はい、犯行の動機を述べよ

「俺は犯罪者じゃない」

 
ーだってテーマが「愛と闘争」ですよ。今時テロリストだってこんな暑苦しいこと言いませんよ。

「『POPCORN BALLADS』以降のサニーデイに影響されて、恥ずかしながら今さら古典SFを読んだんですよ。『1984』とか『ブレードランナー』とか。そしたらもう完全に2018年の現実そのまんまじゃん!って腰を抜かしてしまいまして」

 
ーどこがそのまんまだったんですか?

「独裁者や大企業が市民を完全に抑え込んでて、市民は抑圧されてることにすら気づかない、あるいは諦めていて、むしろ隷属の安楽さを積極的に受け入れようとしている感じ、ですかね…。デタラメな権力者のデタラメを知りながら支持してる、今の日本やアメリカと一緒だな、と」

 
ーうーん。なんか硬いっすね…。かわいい子犬の話とかしませんか?

「(無視して)でもこの悪意に飼いならさせれちゃってる感じがずっとモヤモヤと気持ち悪くて。日本もなんかもう諦めムードあるじゃないですか、なに言ってもどうせあいつらメチャクチャやってくるし…みたいな。自分も含めてですけど」

 
ーなんとなくわかります

「でもそこへ、突然爆弾が投げ込まれてきたんですよ、5月に」

 
サニーデイ・サービスの『FUCK YOU音頭』ですね

「そう。こんなに煮ても焼いても食えない話を、絶対そういうことしないと思われてた人たちが最高のパンクとしてぶち込んできて、さすが曽我部恵一だ!とめちゃくちゃ興奮したんですよ。」

 
ーあれは最高でしたよね。小田島等のMVも。

「でもちょっとがっかりもしましたけどね」

 
ーえ、なんで?

「MVを含めてあれはもっともっと大騒ぎされるべき作品でしたよ!日本に音楽や芸術をちゃんと評価して世に届けるプラットフォームがあれば、ラッドなんちゃらなんかよりずっとデカい、まっとうなアートとしてのインパクトを世の中にもたらすことができたはずなのに…という歯がゆさが残ったんですよ(と肩を落とす)」

 
ーたしかに。でもサニーデイ・サービスというバンドが世間に燃やしつくされなくて良かったかもしれませんよ。

「いや。燃やしつくされてもかまわないという覚悟があると思いますよ、あの人たちには」

 
ーそうかもしれません。

「で、そことは全然違うベクトルで刺さってきたのが、すばらしかの『二枚目』」

 
ーそれはまた意外なところから

「たぶん彼らはポリティカルイシューがどうこうってバンドじゃなくて、音楽そのもののクオリティに命をかけるタイプ、つまり東京インディー以降のクレバーさを持つバンドだと思うんだけど、自分たちのそういうある種のスマートさ、賢さにすらイライラしてる感じを音にぶつけてる感じが、最高にカッコ良かった」

 
ーほうほう

「その荒々しさに触れて、ああ俺たちはやっぱりお行儀が良すぎるな、と思い知らされたんですよ。このタイヤが空転するくらいの過剰なエネルギーが必要だな、と」

 
ーなるほど。つまりSFと『FUCK YOU音頭』、すばらしかが今回の原動力だった、と。

「そうです。それでテーマが決まりました」

 
ーでも、「愛と闘争のディスクガイド」として紹介されてる作品は政治的なものに限りませんよね?

「朝起きて、仕事して帰ってきて寝る、という普通の暮らしの中にもいろんな戦いがあるじゃないすか。その角度から光を当てると、作品が持つ別の表情が見えてくるかと思いまして」

 

ー今回の中で言うと、例えば土岐麻子の『PINK』とか?

「そうです。他にもバンドを続けるという生き様自体がもう表現になっているザ・コレクターズや、メジャーシーンで新しい居場所を獲得するために奮闘していたサンボマスターみたいなバンドの作品にも改めてリスペクトを捧げたいと思いましたし」

 

ーなんとなく犯行の動機が分かってきました。ところで今回はドリーミー刑事以外に三人の方が寄稿されていますね

「ええ。音楽的にも、行動力の面でも、私が尊敬する方々に愛と闘争について語ってもらいました」

ーどんなお三方なんですか?

「まずnecoさんですが、Here Comes The Niceという音楽イベントを主催しながらデザイナーとしても活躍されている方です。ポップにプロテストしてる感じがカッコいいんですよ。いろんな面で勝手に先輩だと思っています」

 
ーほうほう。じゃあ親しいんですね?

「いえ、京都の磔磔で一度お話ししただけです…」

ー図々しいですね

「すみません…。もともとTシャツを愛用しておりまして…」

ーただのファンじゃないですか。かわにしようじさんは?

「かわにしさんはソロやtroeppaというバンドで活動するミュージシャンで、名古屋インディーシーンのゴッドファーザーです。私にGUIROを教えてくれた恩人でもあります」

 
ーどこで知り合ったんですか?

「名古屋でレイシストが暴れた時にカウンターとして居合わせたというご縁です」

ーそれはすごいですね。

「私は後ろの方でウロウロしてただけですけど…」

 
ーそして上野祥法さん。

「写真家で、私がいつもパーティーやイベントでお世話になっているカゼノイチの店主です。年下ですけど、いつも背中を押してくれるよき兄貴です。この人がいなければ、僕も今こんなバカなことはしてなかったと思います」

 
ーお三方とも「闘争!」って感じじゃなくて、すごく地に足の着いたというか、一人の生活者、音楽好きという感じの文章で素晴らしかったですね

「プロテスターって別に特別な存在じゃなくて、自分に正直で、人生を愛してて、必要な時に少しだけ勇気を出せる人ってことなんですよね」

 


ーちなみにどれくらいの部数を発行するんですか

「前回の倍です」

 
ーバカなんですか?前回、配るのにめちゃめちゃ苦労してたじゃないですか!

「ええ…。なので設置頂けるお店、大募集中です。レコード屋さん、ライブハウスはもちろん、洋服屋さん、カフェ…どこでも結構です。ご希望の部数をお送りします」

 
ー最後に、今後の予定は?

「何もないんですけど、次は誰かと一緒に作りたいです。特にデザインとか、最初から分かっていることですが、思いっきり限界を感じています…」

 
ー前と1ミリも変わってないですもんね、この手づくりデザイン

「ええ…恥ずかしい限りです」


ー恥の多い人生、お疲れ様です。

 

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Sons of Nice Songs Vol.2を開催しました!

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関美彦さんとさとうもかさんにご出演頂いたSons of Nice Songs Vol.2、無事終了しました!

寒い中ご来場頂いた皆さん(遠く埼玉から来てくださった方も!)、K.Dハポンの皆さん、気にかけて応援して下さった皆さん、本当にありがとうございました。


なかなか自分のイベントを客観的に振り返るというのは難しい、下手すりゃ不粋なものではありますが、まあ書くわけですよ。だってわたしだもの。

 

今回は14時開演、お昼に開催しました。

その理由は二つあって、一つはお子さんがいらっしゃる方でも気軽に来てもらえるようにということ。

もうひとつは冬の午後のハポンのムードが、きっとお二人の歌にぴったりだろうと思ったからなんですが、サウンドチェックの時にもかさんのギターに窓からの薄い光があたってる光景がとても美しく、どこか外国の教会みたいだなぁと思ってしまいました(外国の教会、行ったことないですけど)。

 


最初に登場頂いたのはさとうもかさん。

1時間たっぷりもかさんの歌が聴きたいという私の思いをくみ取って準備してくれたセットリストはなんと16曲。しかも新曲まで!

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アルバム「LUKEWARM」に収録された「OLD YOUNG」「ひみつ」からスタートしたライブ、まずはピアノの弾き語りから。

愛らしい古いウーリッツァーの音色は、もかさんの親しみやすさと上品さが同居したメロディとの相性がバッチリで、いきなりグッと引き込まれてしまう。

 


この日見に来てくださった名古屋在住のSSW・かわにしようじさん(トロエッパ)のお言葉を借りるなら「歌の後ろにオーケストラの音が見える音楽」。

そう、思わずうっとりするほど豊潤で想像力をかきたてられる音楽なのですよ…。

 
と思いきや、一転ギターに持ち替えて歌う「Weekend」は、疾走感あるメロディに、ワーキングクラスの若者の苦悩をユーモアを含ませながら描いていくナンバー。

やっぱりザ・コレクターズやシンバルズ、そしてスカートといったひねり系ナイスポップの系譜に連なるセンスを感じてしまう(しかしご本人はコレクターズは聴いたことがないとのこと。なんという天賦の才)。

 


そしてここから今度は「最低な日曜日」「殺人鬼」とミリオン級のフックを持った名曲をたたみかけ、ヒットチューンメーカーとしての片鱗を見せつけてくれたわけだけど、この日披露してくれたできたてホヤホヤの新曲「ネオン」は、その側面におけるさとうもかの評価を決定的にするのではないか、という気がした。

力強く訴求してくるメロディーと、男女の心理の本質を射抜くドラマチックな歌詞、そしてファンキーでコンテンポラリーなビート。

もう早く誰かドラマの主題歌にした方がいいよ!と声を大にして言いたい。

 


そして中盤の個人的なクライマックスをあえて挙げるならば、ギター一本で披露された「友達」でしょうか。

なにも具体的なことを書いてないのに、なぜかすべてをわかってしまう歌詞が、血が流れるよう切なさを聴き手に運んでくる様に圧倒され、会場の隅で静かに震えておりました。

 


さらに最後はまるでディズニー映画のテーマソングのような輝きを放つ「Wonderful Voyage」と、Spotifyでも再生回数No.1のキラーチューン「Lukewarm」で、名曲だけの、本当に名曲だけの60分はあっという間に終了。

 


ピアノ、ギター、PCを駆使して、大人から子供までみんなのハートを暖かくしてくれたもかさんの心意気に、ファンとしても、主催者としても、滝のような涙を流さずにはいられませんでした。

今回見逃した方も、来年は絶対に目撃して頂きたい、早くもっと多くの人の耳に届いてほしい、と心から思っております。

 


なお、会場にいたキッズ二人にもかさんのお気に入りの曲を尋ねてみたところ「恋をしたら人間になっちゃう曲(「Lukewarm」ですね)」、「隣の人が悪魔のやつ(悪魔じゃなくて「殺人鬼」ね)」とのことでした!

 

 

さて、午後の太陽が傾き、マジックアワーの気配を感じはじめた時間帯に登場するのは、シティポップの裏番長、東京のチャーリー・ブラウンこと関美彦。

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赤いベースボールキャップを被った華奢な彼が、ハポンのピアノの前に座る姿に、これだけでもう芸術と呼んでいいのでは、と胸が熱くなる。

このハポンの大きな壁に、もかさんと関さん、美しいピアニストの影が伸びていく光景。

これが見たくて今日のイベントを企画したのかもしれない、と思った瞬間でした。

 


と、そんな私の高まりすぎたテンションを軽くいなすように、まだ歌う前から名古屋の思い出(20年前ローラ・ニーロを見に来た時に大須で食べた赤だしのみそ汁がおいしかった、等)を飄々と語り出す関さん。

さすが大人である。

 


しかしひとたびピアノの鍵盤を叩き、その歌声をマイクに乗せれば、そこはもう名古屋でもライブハウスでもない、白昼夢の世界。

一曲目の「HAWII」から、寄せては返す波のようなピアノが創り出す異次元の美しさに、頭が真っ白になりそうになってしまう。

 


夢見心地のまま「Desert Rose」、「王様と猫」に続いて披露されたのは、アルバム「SEX, LOVE &SEA」の冒頭を飾る超名曲「BLUE」。

私はアーティスト本人が選んでくれた曲を演奏してもらうのが一番いいと思っているので、これまで誰にも特定の曲をリクエストしたことはないけれども、この曲だけはできれば…と喉元まで出かかっていた一曲(ちなみに音源では TB-303が大胆に用いられており、これを私は世界で一番エロい303の音だと思っている。関さんに伺ったところ、303を使うアイデアはプロデューサーである曽我部恵一氏の発案だったそう)。

 


ああこの甘い時間が永遠に続けばいい…と思ったその刹那、曲の終盤にきてピアノと歌がもつれていく。

どうやらピアノの不調により、低いキーの鍵盤の音が出なくなってしまったらしい。


大好きな曲でこんなトラブル、普通なら落胆し、主催者としての責任も感じなければならないのだけれども、この残酷な結末すら、関美彦のつくりだす繊細な世界においては、ある種の美しさを帯びているように思えてならなかった
まるで誇り高き往年のフランス車のような美しさと、そこに潜む未完成の危うさ。

これこそが関美彦の音楽と安全で高品質なポップスとを隔てる一線であることを、あの場にいた人ならきっと分かってもらえるのではないかと思う。

 


MCを挟み、続いては現在進行形の関ワークスから二曲。

一曲目はWAY WAVEに提供した「SUMMER GIRL」。

そしてもう一曲が広瀬愛菜(もともとは柴田聡子と滝沢朋恵のユニット・バナナジュース)に提供した「さよなら こんにちは」。

 


どちらも彼のクリエイティビティがいまだ全盛期にあることを示す、キラキラした輝きを放つ名曲。

そして女性アイドルが歌うための楽曲に乗せてもまったく違和感のない、少年のようなミラクルボイス。なんて魔法的。

 
しかしそこに対照的なMCの軽妙さもまた、関さんの魅力。

「今日、実はドラムの北山ゆうこさんとベースの伊賀航くんにも一緒に行こうよって声かけてて、北山さんはオーケーだったんだけど、伊賀くんの都合つかなくて」なんて恐ろしいことをサラッとおっしゃったり、

「さとうもかさん、素晴らしかったですね。なんで若くしてあんなブロードウェイみたいな曲が書けるのか聞いてみたいですね。まぁだからと言ってご本人とは親しく話したりはしないんですけどね」とカマしてみたり。

(ちなみに終演後は親しくお話しされていました)。

 

そしてライブは後半に突入。

ディオンヌ・ワーウィックのカバーに続いて披露された「Bloody Rain」が、終盤の白眉。

音楽ライター北沢夏音氏が「東京の歌50選」にはっぴいえんど荒井由実小沢健二など錚々たる面々と共に選出した、3.11以降の街の片隅で暮らす私たちのささやかな物語2020年に向けて都市のあり方が大きく変わる今こそ、大切に聴かれるべき歌だと心から思う。

 

こうして、もかさんと同様に名曲だけの60分は「Country Man」の永く響くピアノの余韻を残して終了。

ピアノと歌だけのシンプルなライブなのに、今まで味わったことのない、濃厚な時間を過ごしてしまった。

そんな気持ちになりました。

 

 

 

以上がSons of Nice Songs Vol.2のダイジェストとなります。

もかさん、関さん、世代の異なる二人のポップマエストロの共演の一端を感じてもらえれば、と思います。

 

改めてお越し頂いたお客様(皆さんいい方ばかりで…)、関さん、もかさん、ご協力頂いた方々に御礼申し上げます。

(あ、あと私の酔狂をいつもサポートしてくれる家族にも…)

 

次回の予定は未定ですが、またいつかどこかで面白いことがやれたらいいなと思っております。

 

 

最後に蛇足として、私の選んだ当日のBGMを記載しておきます。

皆様の冬が良いものでありますよう。

 
<BGM for Sons of Nice Songs Vol.2>

1.ジムノペディ 曽我部恵一

2.Tired Of Waiting For You Larry Page Orchestra

3.Sesso Matto ArmandoTrovaioli

4.Just Like Me The Spencer Davis Group

5.A World Without Music Archie Bell & The Drells

6.Vanishing Girl The Dukes Of Stratosphear

7.Father Christmas The Kinks

8.Children Go Where I Send You Nina Simone

9.流星ビバップ 小沢健二

10.Walk Out To Winter Aztec Camera

11.Four Leaf Clover Badly Drawn Boy

12.The Drifter Roger Nichols & The Small Circle Of Friends

13.スライド Flipper's Guitar

14.Big Day Coming From Northwest Citrus

15.Some Things Last A Long Time Daniel Johnston

16.Ghost Mouth Girls

17.Twilight Madness DSK

18.Jealousy James Iha

19.It's Too Late Carole King

20.雨降夜行 金魚注意報

21.Light Upon The Lake Whitney

 


※蛇足の蛇足

一曲目の「ジムノペディ」は関さんの「Guitar Girl」という曲でめちゃくちゃカッコいいブレイクビーツの上にフィーチャーされてて、たぶん曽我部恵一氏のアイデアだと思うんですが、オマージュの意味を込めて選びました。ぜひどちらも聴いてみてください!