ドリーミー刑事のスモーキー事件簿

バナナレコードでバイトしたいサラリーマンが投げるmessage in a bottle

最近行ったライブの話(21年春。サニーデイ、SAGOSAID 、PALE BEACH)

去年はほぼ自粛していたライブハウス通いを再開させている。

事実上の営業禁止を強いられている音楽産業の苦境をただ眺めることと、可能な限りの感染対策をした上でライブに足を運ぶこと。そのどちらが罪深いことなのかを裁くことはもう不可能だと思うので、私は私の判断で、可能な限り後者を選びたいと思っている。


4/12は名古屋クアトロにサニーデイ・サービスを観に行った。もともと20年5月に予定されてた「いいね!」ツアーの会場はクアトロだったので、実質的な振替公演といってもいいかもしれない。この日のライブは前回行けなかった妻が優先ということでギリギリまで迷ったけど、娘に留守番を頼んで当日券で入場。新生サニーデイがツアーの中でどう変貌していくのかを観たいという欲望を抑えることができなかったのである。

前回はコロナ厳戒体制で行うツアー初日ということもあり硬かったバンドの雰囲気も、その後に各地を回ることですっかり馴染んだようで、「ソウルフルな名曲をどこまでも青くて熱いガレージサウンドで鳴らす」という大工原幹雄加入後のバンドの本質がより際立っているように思われた。ホワイトファルコンを抱えた曽我部恵一のずば抜けたミュージシャンシップとカリスマでぐいぐいと牽引する季節を過ぎて、大工原のパンクスピリットあふれるドラムの上でエフェクターもかかっていないフェンダーをザクザク鳴らして演奏していく様があまりにも若々しく、これもまたポップコーン〜the CITY期とは違う種類の魔法を見せつけられているようだなと思った。無理してでも行って良かったなというくらいに、心の芯から元気が出た。なお前回のボトムラインと同様、物販ではPAPERMOON細田さんが大活躍していた。


4/17は今池ハックフィンへ。去年の4月に予定されていたイベント「Departures」の一年越しの振替開催で、SAGOSAIDを観に行った。彼らを観るのは19年夏の下北沢ベースメントバー以来2度目。インタビューまでやらせてもらっているくらい大好きなバンドなのにこの有様。しかし冷たい春の雨が降る夜に、「Spring is cold」から始まったわずか30分弱のライブにおけるSAGO SAIDはあまりにも特別だった。90’sオルタナ直系の轟音ギターの中に光る美しいメロディーが彼らの魅力だと思うんだけど、聴く者の心に刺さる本質とは、そういう外形的な快感を超えたところにあるように思うんだよな。なんというか、フレーズの一つひとつから、うんざりした感じ、疲弊しきったムードが立ち昇ってくるんですよ。この日も「Past time」のイントロが鳴り出した瞬間、すごく絶望的な西陽が差してきた感じがした。この日ゲストで出演した6eyesのツチヤチカが「〇〇〇〇〇〇◯ちゃんと違ってSAGOSAIDは本物の90年代を鳴らしてるぜ」と言っていて、俺は〇〇〇〇〇〇◯ちゃんもすごく好きだけどねと反発しつつも、確かにこのSAGOSAIDがまとっている疲弊感はカート・コバーンが命を絶った90年代前半のアメリカのどん詰まり感と同じ種類のものかもしれないと思った(雑誌を通じてしか知らない世界だけど)。そしてそれは2021年の日本を覆う空気にとてもよく似ているということなのだろう。終演後、Skypeの音声インタビューでしか話したことのないメンバーの皆さんにご挨拶。思えばあの取材はコロナ前、リモート取材の先駆けだった。


そして少し間を置いて5/5。ゴールデンウィーク真っ只中に、移転後初めてのstiffslackへ。レコード店に併設されたライブハウスってありそうでなかったけど、庶民的な街の雰囲気と相まって、音楽と日常がシームレスに繋がった雰囲気が素晴らしい。なんか日本じゃないみたい。この日の目当てはTURNのBEST TRUCKS OF THE MONTHで紹介させてもらったPALE BEACH。まだ単独リリースとしては二曲入りのカセットしかないことが信じられないくらいに、完全に自分の世界が確立しているようなライブ。もうただただカッコよかった。ギターポップニューウェーブに対するまっすぐな愛を込めつつ、自分の鳴らしたい音以外は絶対に鳴らさない、迎合しない、視線も送らない。そんな気高さが眩しかった。

対バンのDAISY JAINEは音源も聴いたことがなかったけど、演奏もアレンジも完成度が高くて驚いた。イギリス北部を濃厚に感じさせるグルーヴとメロディ、そしてとっぽい雰囲気。私も世代的に観ることが叶わなかった、The Secret Goldfishのライブも、こんな感じだったのでは…などと夢想してしまった。

この難しい時期にライブを企画してくれたイベンターの方のセンスと行動力に深い感謝と敬意を捧げたい。


と、ここまで書き終えたところで愛知県にも緊急事態宣言が発令。まだ闇は続く。ワクチン早くくれよ。