iphoneのメモ帳をめくっていたら、去年の夏に書いたままアップしていなかった文章が出てきました。
アナログ盤が出たことに便乗して一年遅れで掲載します。。。
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思い出野郎Aチームの新作。
その名も『夜のすべて』。
2017年に聴いた音楽の中で、一番優しくて、一番俺の生活に近いところで鳴っている音楽という気がして、聴けば聴くほど愛しさを感じている。
つまらない仕事に追われるいい大人が、友達や彼女と週末のダンスフロアーで踊り、酒を飲み、また踊り、やがて月曜日の朝を迎える、というのがアルバム全体を通じたストーリー。
ふと思い出したのは、世界各地で走る夜のタクシーを舞台にしたジム・ジャームッシュの名作『ナイトオンザプラネット』。
それはただ単に、「ある夜に起きたことを記録した短編集」という外形的なことだけじゃなくて、愛とユーモアにあふれた人物の描写や作品全体が保持する体温に、なにか通じるところがあるように思えたのです。
つまり、この『夜のすべて』という作品は、決して夜な夜なクラブに集う洒落た若者のためだけの音楽ではなくて、私のように大都会のクラブなんて縁遠い39歳会社員の心身にも沁みわたる、懐の深いポップミュージックだ、ということです。
例えば先行7インチにもなった超名曲『ダンスに間に合う』。
この「ダンス」という言葉を、あなたの大切にしているなにか、例えば子供とか野球とか釣りとかラーメンとか、に置き換えてみる。
すると残業とか休日出勤とか幼稚園の送り迎えとかで簡単に失われてしまうそれらの時間を必死に守ろうとしているあなた自身の姿と、その背中を優しく叩いてくれる大きな手が見えてこないだろうか。
そう、誰にでも人生を楽しむ権利はあるんだぜ、と。
そしてこのアルバムを特別なものにしているもう一つのポイント。
それは、私たちが大切にしているささやかなものたちを脅かすのは、残業や家事といったパーソナルな事情だけではなく、社会が持つ暴力的側面、例えば差別や戦争、圧政のようなもの、でもあることを指摘しているところだろう。
例えば7曲目『Magic Number』のディスコビートに乗せて歌われるこんな言葉たち。
「街に微かに暴力の香り」
「ださいレイシスト」
「力をなくした歌はブックオフ」
「シティポップで行進するファシスト」
「役に立たないミュージック 役立たずのミュージック」
曲の前半では、あえて波紋を呼びそうな刺激的な単語を用いてまで、不穏な社会と音楽の無力さを残酷なまでに言い募る。
しかし、その間もドラムとベースは4つ打ちのビートを刻むことを止めず、ホーンはひるむことなくファンキーなフレーズを鳴らし続ける。
そして訪れる大サビの
「小さな魔法 ささやかな希望 僕には必要」
「少しの魔法 かけてくれよ今夜 Magic Number」
という懇願のような、決意表明のようなシャウトに繋がる瞬間。
俺はいつもここで、ダンスミュージックの尊さと生命力のようなものを感じて、つい極まってしまうのです。
クソみたいなことが9割の人生の中でかすかな光を放つ音楽をブルーズと呼ぶのならば、
この作品こそ2017年に生きる俺たちのそれなんじゃないか、と。
以上、ついムキになって語ってしまったけど、とにかく最高のパーティーアルバムですので、聴いてるうちに踊りたくなった方は次回のKENNEDY!!!へ。
ぜひダンス間に合うようお越しください。