ドリーミー刑事のスモーキー事件簿

バナナレコードでバイトしたいサラリーマンが投げるmessage in a bottle

火の玉のゆくえについて 台風クラブ「火の玉ロック」

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「うたのゆくえ」の余韻も未だぼんやり心に残る中、京都から台風クラブの「火の玉ロック」の7インチが届いた。

新曲のタイトルがジェリー・リー・ルイス往年のスタンダードナンバーと同じと知った時から、これはきっと広大なハイウェイを全速力でブッ飛ばすようなロックンロールに違いない、と思っていたのだけれど、開けてびっくり。The Byrdsを思わせるイントロから始まる、(私の知る限りでは)台風クラブ史上最も感傷的なメロディーと繊細なコードワークからなる楽曲だった。

そう、「火の玉」とは燃え上がる台風クラブのことではなく、彼らを次々と抜き去っていく、無数の車の赤いテールランプのことだったのである。

それに追いつこうとするわけでも、引き返そうとするわけでもなく、人生の結末を知っているかのような諦めに満ちた眼差しで、見送るだけの男の姿。

今回もまた、石塚淳の書く歌詞は暗い。ほとんど絶望的と言ってもいい。

 

彼の歌詞に出てくるのはいつだって、自分と、自分の部屋と、街だけ。まるっきりひとりぼっちである。

その完全に閉じた世界の中で抱えた蹉跌や不如意の原因はついぞ語られることなく、行く末も明かされない。

 

しかし、この第三者の介在を一切拒否したような世界の窓をこじ開けて、夕焼けを招き入れ、暗い顔を紅く染めていくのもまた、石塚淳自身による天才的なソングライティングであり、山本啓太、伊奈昌宏のドカドカっとしたバディ感たっぷりの演奏である。

曲が転調するたび、少しずつ灰色の世界に色がついていくこの感覚に名前をつけることはできないのだけれども、いつも俺は彼らの三分にも満たない楽曲の中に、瀕死の魂とその再生のドラマを見ている。

そしてその闇が深い分だけ、それを救い出すメロディと演奏が人懐こい分だけ、俺の魂の揺動もまた大きくなっていくのだ。

その意味で「火の玉ロック」は名曲ぞろいの台風クラブのレパートリーの中でも、特別な輝きを放っている。

 

しかし思えばきっと、ロックンロールってやつはジェリー・リー・ルイスの時代から、ラジオやジュークボックスを通じて、遠く離れた場所に住む誰かの孤独を浮かび上がらせ、そっと光を当ててきたのだろう。この曲で踊っている間は、お前も俺も一人じゃないぜ、と。


ちょっとチリチリした懐かしい音質のレコードに針を落とす度に、そんな感慨を抱いてしまう。