老若男女を問わず聴く者すべての心を奪う名曲ばかりがずらりとならんだ、さとうもかのデビュー作「Lukewarm」。
待ちに待ったセカンドアルバム「Merry Go Round」は、あのつい口ずさみたくなる親しみやすさはそのままに、より深い感情が刻み込まれた楽曲が13曲も収録されています。全員必ず聴いてください。
以上。
この作品の素晴らしさを伝えるにはこれだけで言っておけばほぼほぼオーケー。もう何も付け加えることはない…はずなんだけど、やはり妄想刑事としてどうしても申し上げておきたいことがあります。
それは、アルバム全体を包み込むストーリーの存在が、この作品を揺るぎない名盤へと押し上げているのではないか、ということであります。
アルバムの前半でそのカギとなるのは、M1「Insomnia flower」から切れ目なく連なるM3「ばかみたい」。
10年代ヒップホップをさとうもか的に咀嚼したクールなトラックに乗せられる、訴求力と洗練が同居した流麗なメロディー、リアルなリリック。
こりゃこのまま月9の主題歌になってもおかしくないぜ…とテンションが高まってきたところで入り込んでくる、プロデューサーである入江陽のラップ。そこにはこんなシーンが描かれている。
夜中のカフェで寝落ちしそうになりながら、「もかチャンの恋バナ」を延々と聞かされる男(おそらく密かにもかチャンに好意を抱いている)。
さすがにちょっとイライラして
「もかさんはどうしたいの?」聞くと、
「それがわかりゃ苦労しないわ」と理不尽に怒られて、心に割り切れないものを抱える。
(「 」部はいずれも原文ママ)
あえて実名を登場させたこの生々しいリリックによって、フィクションとノンフィクションの壁を壊していくと共に、1曲目のタイトル「Insomnia Flower =不眠症の花」に込められた伏線もさりげなく回収する。
つまりこの16小節が、アルバムに収録された楽曲にさとうもか自身のパーソナルな感情が込められていることと、それらの楽曲が相互に作用しながらアルバムが構成されていることを聴き手に強く印象付けた、という事である。このもか&陽の華麗で周到な仕事ぶりに震えが止まらない。
こうして作品全体への求心力をぐっと高めたところでドロップされるのはM5「LOOP」。
この曲をライブで初めて聴いた時は、バンドサウンドを加速させていくメロディーが最高に気持ちよくて、これはスカート「静かな夜がいい」以来のRIDE ON TIMEポップスだ!と熱くなっていたのですが、Tomgggにアレンジを託したアルバムバージョンは、むしろChocolat以来のレイハラカミポップスだと呼びたくなる、熱い感情がギュッとクールにパッケージされた、アルバム全体のテイストにふさわしいものになっていた。
そして、「メリーゴーランド=回転木馬」というアルバムの中心にある曲が「LOOP=円環」と言うのも、なんだか象徴的である。
そしてタイトルトラックであるM10「Merry Go Round」。
さとうもかの特長の一つである、ディズニー映画のようにキラキラしたメロディに乗せて歌い出される、
「私の人生の一番素敵な日には どうか君がいてほしいんだ」
というまっすぐなフレーズに、「Merry Go Round」というアルバムタイトルが、楽しいだけのアトラクションを表しているわけではなく、めまぐるしく回り続け、確かなことなど一つもない「人生」そのものを表していることに気づかされる。
そしてそんな思うようにならない回転木馬の上で綴られる、
「幸せになろう ふたり一緒にね」
というとてもシンプルでささやかな願い。
この歌詞を噛み締めてから、
「ジェットコースターこわくないよ ジェットコースターこわくないよ」
と、ロボ声で繰り返すだけのM11「こわくない」を聴くと、ふざけてるとしか思えないこの曲も、「シャレにならないスリルに満ちた遊園地=人生」を乗り越えていくための、大切なおまじないのように聴こえてくる。
この楽曲同士の相互作用と相乗効果。
かつてプリンスがグラミー賞のスピーチで語った「みんな忘れちゃってるかもしれないけど、アルバムって大事だよ」というセリフが頭をよぎるじゃありませんか。
そして回り続けたメリーゴーランドも、いよいよ閉園直前のクライマックスへ。
トリを飾るのは去年配信でリリースされて以来、ポップミュージックラバーの心を貫いたままの名曲「melt summer」。
さとうもかが、ユーミンやaikoに比肩する才能の持ち主であることを完全に証明してしまった決定打。
改めてこのドラマチックな名曲をアルバムの中で聴くと、ここまで丹念に描いてきた物語を、花火のように昇華させる爆発力がある。
特に素晴らしいのが、否が応でも映像を喚起させる歌詞。
「時が止まった
息の仕方も わかんない手の位置も
考える暇はなかったの
一瞬の一生だった」
という冒頭。
こんなおっさんが言うのもアレなんですけど、この「一瞬の一生だった」というフレーズが指している状態って、いわゆるキュン死って呼ばれるやつですよね?
それをこの歌の世界にふさわしい、リアルな手触りのある一言で表してしまうセンスに、さとうもかの非凡さが凝縮されていると思うのですよ。
映画のエンドロールのように流れていくエモーショナルなアウトロにシビれながら、この曲で青春を鮮やかに彩っていくであろう日本中のガールズ&ボーイズの眩しい姿を思い浮かべずにはいられませんでしたね。。。
というわけで、私が思うところを長々と暑苦しく書いてしまったので、もしかしたらこの作品自体がそういうものではないか、という誤解を与えてしまったかもしれないのですが、安心して下さい。実はこの作品、トータル33分しかないのです。これだけの情報量を詰め込んでいるのに!
このサブスク時代のサイズ感、繰り返し聴きたくなる(ループ!)余白を残しておく入江陽のプロデュースワークは本当に隙がないな…とまたしても戦慄が走るのであります。
というわけで、さとうもかの新作「Merry Go Round」はぜひ歌詞カードを読みながら、何度も聴いて頂くことをオススメしたい作品となっております。
こちらからは以上です。