ドリーミー刑事のスモーキー事件簿

バナナレコードでバイトしたいサラリーマンが投げるmessage in a bottle

演出のないロックオペラのような。 サニーデイ ・サービス「Dance to the Popcorn city」

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あの突然のストリーミング限定リリースから半年、俺にとっての2017年下半期は「Popcorn Ballads」の季節だった。
それくらいこの大作の謎めいた魅力に翻弄されていた。ブログもしつこく二回書いた。

なのでその「Popcorn ballads」と前作にして傑作「Dance to you」のみを演奏するライブ、その名も「Dance to the Popcorn city」が東京と大阪のみ、しかも平日に開催されるというニュースを耳にした時も、私の中に迷いはなかった。何があってもこの日は行くと心に決めて会社のスケジュール帳に大きな×を書き込んだ。

 

会場は梅田クラブクアトロ
何を隠そう大阪でライブを観るのは初めて。
山下達郎「BOMBER」、THE COLLECTORS「世界を止めて」の人気に最初に火をつけた土地で、サニーデイ・サービス史上最も肉体的な作品を堪能できるというのは実に理想的な環境ではないかと思いつつ会場へ滑り込む。フロアではルースターズの「ニュールンベルグでささやいて」が流れていた。


定刻の19:30を迎え、ジョン・レノンの「Cold Turkey」が鳴り響き、ステージが暗転。
戦時下というテーマにふさわしい重厚で悲愴感のあるオーケストラの調べに乗ってメンバーが登場。
8月野音と同じ5ピースに、サックス・加藤雄一郎を加えた6人体制。


1曲目は「Tシャツ」。たった56秒で駆け抜けるロックンロールナンバー。最新型のダンスビートを基調とした「Popcorn ballads」では異彩を放つ曲だったので意外だったけど、若い恋人たちの些細な苛立ちを描いたこの曲が先頭にくることで、壮大なSFのような「Popcorn Ballads」の世界に、生身の主人公が浮かび上がってくるようである。

 

ここからいよいよ「東京市憂愁」「青い戦車」「泡アワー」と「Popcorn Ballads」のデストピアでファンキーな世界観の核となる名曲がたたみかけられたわけだけど、「そう!これ!これが聴きたくてここにきたのよ!」と叫びたくなるスリリングなグルーヴ。
特に岡山健二の叩き出すドラムの、曽我部恵一が放つ熱量と真っ向から胸ぐらを掴み合うような迫力は、手練揃いのバンドを思いっきりドライブさせていたように思う。


そして梅田クアトロはとにかく音がクリア。
ギター新井仁曽我部恵一のすさまじいせめぎ合いがこんなにクリアに聴けるのは初めてだ。

 

5曲目で初めて「DANCE TO YOU」からのナンバー「パンチドランク・ラブソング」が披露される。続く「summer baby」と共に、それまでの3曲で構築された堅牢な世界の片隅に生きる若者たちの息遣いに聞こえてきそうな感覚。楽曲にはもちろん、このストーリーを感じさせる構成にグッとくる。

 

ここまでですでに大阪まで来て良かったよ…という状態ではあったのだけれども、まだまだ序盤戦が終わったところ。まだ1/3にも満たないのである。いかにこの2作が充実していたか、ということだろう。

 

そして中盤のクライマックスは何と言っても「流れ星」「花火」「クリスマス」の流れ。

荒々しいサックス、掻き毟るギターと炎のような咆哮。今この瞬間だけを信じて、過去も未来も全て焼き尽くしてしまわんばかり「流れ星」の熱量。
一転して、その燃え上がる世界をも二人の愛を彩る背景にしてしまうほどにロマンティックな「花火」のスケール感。
そして過酷な運命を背負った少女の姿を、とびきり美しくスウィートなダンスチューンに封じ込めてしまった、おそらく20年後のフロアも揺らし続けるであろう2017年屈指のキラーチューン「クリスマス」。

この三曲三様の振り切った世界に命を吹き込み、オーディエンスの耳ではなく魂に直接流し込んでくるようなサニーデイ ・サービス、そして曽我部恵一の表現力に震えた。


サイケデリックなほどにメランコリーな「ハニー」、退廃的でオリエンタルなグルーブ「虹の外」を挟んで、後半戦のスタートは今や新たなサニーデイラシックスと言うべき「セツナ」から。

美しいメロディをたたえた端正なロックナンバーが徐々に熱を帯び、最終的にジミヘンとピート・タウンゼントが憑依したとしか思えない危険な領域に突入していく様は何度体験しても壮絶。
ステージ上のメンバーがバトルロワイヤル状態で入り乱れる長い長いアウトロが終わり、次の曲で使うギターをローディーが運びこもうとした瞬間に、さっき聴いたばかりのリフを再び弾き始める曽我部恵一と、ほんの一瞬の空白の後に演奏を始めるメンバー。まさかの「セツナ」リプライズ!ほとんど命がけである。
その直後に演奏された「透明でも透明じゃなくても」の静謐な美しさとのコントラストも合わせ、もはや異常。他に言葉が見つからない。

 

そして後半戦もう一つの白眉は「セツナ」と同じく「DANCE TO YOU」からのニュークラシック「桜 super love」。
大切な誰かの不在をテーマにした歌が、戦火に包まれるPopcorn cityで鳴らされることで生まれる新しいストーリー。
現実とフィクションの拮抗すらも手のひらに乗せて転がしてしまうのが今のサニーデイの凄み。

切実なメロウネスとファンクネスが凝縮されたような「金星」、不穏なくらいに享楽的なオアシステイストのロックンロールナンバー「サマーレイン」で本編終了。

 

ここまででたぶん2時間以上。
普通のロックンロールのライブでは考えられない桁外れの濃密さに、ロックオペラという単語が頭に浮かぶ。
しかもそれは演出ゼロ、生身のミュージシャンによる、魂を削るような楽曲だけで構成された一大巨編。完全にイかれてる。


アンコールは高野勲のピアノに合わせて曽我部恵一がハンドマイク(!)で歌い上げる新曲「きみの部屋」から。「どうせなら二人で 恐怖と驚きの一夜を過ごすのもいいでしょ」という歌詞が、電車の中でジョージ・オーウェルの「1984」を読んでいた私の心に沁みる。ビッグブラザーでもAIでも統制できない人間の魂ってものがあるだろ。それが正解じゃなくても、汚れちまったものだとしても。

続いては「血を流そう」。2時間以上に亘って魂の交換をしてきた私たちにこれ以上ふさわしい曲があるだろうか。灼熱のロックンロールにぶった切られて、あたり一面血の海だぜ…。

そして本当の最後は小西康陽ミックスによる「クリスマス」のB面に収められた「Rose for Sally」。
まさにサニーサイドのサニーデイサービス。心の中を暖かくして、家路につかせてくれる、ホットワインのような歌だった。

 

しかし時刻はすでに22時近く。
私が家路に着くための電車はもうない。
関西に暮らす音楽を愛する人たちと慌ただしく感想を交わした後、深夜の高速道路をひた走るバスに飛び乗った。


01 Tシャツ
02 東京市憂愁(トーキョーシティーブルース)
03 青い戦車
04 泡アワー
05 パンチドランク・ラブソング
06 summer baby
07 すべての若き動物たち
08 苺畑でつかまえて
09 流れ星
10 花火
11 クリスマス
12 ハニー
13 虹の外
14 セツナ
15 セツナ
16 透明でも透明じゃなくても
17 桜 super love
18 金星
19 サマー・レイン
encore
01 きみの部屋
02 血を流そう
03 Rose for Sally(クリスマス・ソング