ドリーミー刑事のスモーキー事件簿

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やるせないほどの美しさ Videotapemusic 『ON THE AIR』

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Videotapemusicの新作『ON THE AIR 』。

室外機が遠慮なく生暖かい空気を吐き出す東南アジアの路地裏から、いつかブラウン管テレビの中で見たアフリカの秘境まで、めくるめく地球一周の旅に連れ出してくれた名盤『世界各国の夜』から約二年。

 

あの縦横無尽なジェットセット感からは少し趣きを変え、「アメリカと日本、その中間」に深くフォーカスしたような印象を受ける。
そして思い出野郎Aチームとのセッションもさらに深化したエキゾ感あふれるサウンドはもちろんのこと、坂本慎太郎による鮮やかなアートワークから濃厚に漂うのは、泣きたくなるほどのロマンティシズムだ。

 

なぜここまで、この作品が切ないのか、例によって電波混じりの妄想力(『ON THE AIR 』だけに)で考えてみた。

 

まずVideotapemusicの作品とは、そもそも構造的にある種の切なさを孕んでいるように思う。

 

彼が作品の素材としているVHSテープに封じ込められた映像とは全て、すでにそこにはない、失われてしまった光景である。そしてそのVHSという記録媒体もまた、その存在を完全に忘れ去られようとして久しい。

いわば二度目の死を迎えようとしているかつての現実。
そこに込められた、あるいは込められなかった思いを拾い集め、貼りつけて、もう一度新しい世界を作り出そうとするVideotapemusic の営み。
もはやアートの制作手法という枠を超え、神事のような意味合いすら内包しているように思えてしまう。

 

そしてその神事によってつくり出された新たな世界が、リアルであればあるほど、美しければ美しいほど強調されるのは、ビデオテープに記録された時間は、二度と取り戻すことのできないという私たちが生きる世界の厳然たる一回性である。

 

『世界各国の夜』が私たちに見せてくれたのは、スクリーンや絵本の向こうにある、私たちが過ごしたことのない場所と時間。おとぎ話であることが前提の世界だった。

しかし、『ON THE AIR』に広がるのは、そこに生きる人々の感情までもが再現された、リアルな世界だ。

 

例えば、アルバムジャケットに描かれる、軍事用レーダーと共存する住宅街。これは実在する福生という街、あるいは戦後の日本そのものを模したもの、とも言えるだろう。

そして、その街に流れる米軍ラジオ。
ノイズに混じって聴こえるスロージャズやルンバのリズムと、それに合わせてステップを踏む人々。NOPPALをフィーチャーした『Her favorite Moment 』のガーリーな憂鬱。


この体温や息づかいすら感じさせる美しい夢のような世界が、すべて虚構だとしたならば。
そう想像すると、胸をかきむしりたくなるほどのやるせなさに襲われてしまうのだ。


そしてこの「レプリカであることが唯一絶対の真実」というパラドックス。その構造をも燃やし尽くそうとしたのが、アルバム終盤に収められた、その名もズバリ『Fiction Romance』の多幸感の洪水であり、続く『煙突』のセンチメンタルな寂寥感なのではないか…。

 

おっと、気がつくと今回もかなりの深みに…。
怪しい感想どうもすみません。