ワタシのリスナー人生の今を象徴するような3組が出演するライブを観に行ってまいりました。
この三組に共通するものを一言で表すなら、日本のポップミュージック史の重みを「背負っている」ということ、ではないかと思っている。
パンクにマンチェ、はっぴいえんどにフリッパーズギターという洋邦の音楽的遺産をバックグラウンド(あるいはトラウマ)にしてデビューし、自らその歴史を更新し続けている曽我部恵一。
同じく、はっぴいえんどや山下達郎はもちろんのこと、サニーデイ以降の日本のポップミュージックの最良を凝縮した音楽を作り続けるスカート澤部渡。
そして、遅咲きのファーストアルバムのリリース直後にして、すでに伝説になっている感すらある台風クラブもまた、京都の、日本のロックンロールの豊潤すぎる土壌から生まれ落ちたバンドと言えるわけで。
この三者が一同に集い、演奏する。
しかも会場は老舗・磔磔、オーガナイザーはその愛あるペンでシーンを支えてきたライター・岡村詩野さん。
ワタシがどんな手段を尽くしてもこの夜に立ち会いたいと思うのは必然だったわけですよ…。
ほぼ満員の会場でトップバッターをつとめるのは台風クラブ。
ライブを観るの三回目なんだけれども、ステージに現れた瞬間から、いつものどこか居心地の悪そうな表情ではなく、この特別な緊張感の中で、とにかくやるしかない!という気合がみなぎった感じが遠目にも伝わってくる。
一曲目は「春は昔」。
そこから「処暑」「ずる休み」と、ファーストにして名盤「初期の台風クラブ」からの楽曲が続く。
ラウドだけど端正、どん詰まってるのに突風が吹きぬけるような解放感。アクセル踏みすぎて空転したタイヤから煙が出る感じも最高。魔法のロックンロールは今日も勢力を増したままライブハウスを転がり回る。
そしてこの日の瞬間最大風速は、やはり「飛・び・た・い」からの「台風銀座」の流れ。
吹っ切れたような伊奈昌宏のドラムと洒脱に跳ねる山本啓太のベース。そして万感をぶち込んだような石塚淳のギターリフ。
俺の心の中はまさに、吹けよ風、呼べよ嵐状態。
そしてその勢いのまま最後は日本語ロックの殿堂入り間違いなしの名曲「まつりのあと」でシメ。
こうして晩夏の台風はあっという間に通りすぎていった…と思ったところにスペシャルサプライズ!
曽我部恵一をゲストに呼び込んでのサニーデイ・サービス「御機嫌いかが?」。
一番のコーラスを石塚淳が歌い始めた瞬間、1995年のサニーデイサービス、2017年の台風クラブ、巨大な円環が繋がったような気がして、ビリッときた。
そしてステージの上の曽我部恵一が、ニコリともせずに演奏していたのも最高にカッコよかった。ステージに上がれば先輩も後輩もない真剣勝負なんだぜ、と背中で語っているようで。
のっけからいいものを見せて頂きました・・・。
続いてはその曽我部恵一がギター一本で登場。
一曲目は曽我部恵一バンドの「ソングフォーシェルター」。
サニーデイ・サービスやアズテックカメラの歌詞を引用しながら、ミュージシャンとしての自分の来し方を激しく自問するような圧巻のブルーズ。
しかしサビの「坊や、そっちはどうだい」というフレーズはこの日は若い二組のアーティストにも(もちろん観客の一人ひとりにも)向けられていたような気がしてちょっと震えた。
この日の曽我部恵一は、MCを含めた緩急のつけ方というか、アーティストととしての振り幅がすごかったように思う。
出会い頭の一発で表現者としての凄みを見せつけた後は、19年前のこの日にリリースされたサニーデイ・サービスの名曲「今日を生きよう」、そして「あじさい」でオーディエンスを甘酸っぱい青春のど真ん中に連れていき、プライベートなMCで笑いの坩堝に落とす。
そうかと思えば「キラキラ」や「満員電車は走る」では喉も潰れんばかりのシャウトでまたしても度肝を抜き、「大人になんかならないで」ではたまらなく純度の高い愛で心を焦がしてくる。
この人のライブを見るたびに、ミュージシャンが、音楽が、表現できることの幅広さ、果てしなさを見せつけられるような気分になって呆然としてしまう。
振り回されっぱなしの数十分、素晴らしかった。
そしてトリをつとめるのは、澤部渡率いるスカート。
台風クラブ、曽我部恵一が温めまくったライブハウスの空気はいわば甲子園9回裏サヨナラのチャンスのような高揚感とプレッシャー。
いやしかし見事にやってくれましたよ、澤部選手。
磔磔の素晴らしい音響も相まって、歌も演奏も繊細にして揺るぎのない、今までで最高のパフォーマンスだったと言ってもいいんじゃないんでしょうか。
「暗い歌を一曲」という言葉と共に最初に演奏されたのは、台風クラブ石塚氏が愛してやまないというスカートの記念すべきファーストアルバムの冒頭を飾る「ハル」。
この「暗さに愛されてしまった天才」というところが澤部、石塚というソングライター二人の共通点なのかもれないな、としみじみしているところに畳み掛けられる「ストーリー」「おばけのピアノ」というキュン死必至の名曲たち。
この日のセットリストは、デビューからの時系列に並べたという、スカートの軌跡を辿るベストオブベスト。
メジャーデビュー直前のこのタイミング、このメンツのイベントで、こういうセットリストを組むところにも、澤部氏がこの日のライブをいかに特別なものと捉えているかがわかるというもの。
その大きな背中で、もっと大きな何かを背負ってしまうところ、大好きです。
MCで台風クラブとのなれそめ(俺と同じココナッツディスク吉祥寺で買ったCD-R!)やインディーデビュー以来の曽我部恵一との縁を語り、「だから今日は今日はエモいんです。みんなが思っている以上に」と言い切った後に披露された「CALL」。
イントロのギターの温度の高さに泣けたし、いつもより回数多めでキメていたシャウトも曽我部恵一の魂が乗り移ったかのようにソウルフルで男前だった。
そしてセットリストの後半は来たるアルバム「20/20」からの曲が並ぶ。
特にアンコールに披露した最後の「さよなら!さよなら!」の突き抜けたポップぶりよ。
どこまで飛距離が伸びるのか、リリースが今からとても楽しみなのである。
そんなこんなで21時きっかりにライブ全て終了。
なんだか自分がここにいることも現実とは思えない、夢のような時間であった。
京都滞在時間、わずか4時間。30代最後の夏、やりきった感あるな…と涼しくなってきた空気の中、新幹線に飛び乗りました。