ミツメ、スカート、トリプルファイヤーによる「月光密造の夜」が開催されると知ったのは、たしか3月下旬。
ほぼ決まっていたゴールデンウィークの予定を光の速さで変更し、一路東京へ。
だってあの月光密造の夜ですからね…。万難を排して行きたいじゃないですか。
鴬谷の異国で昭和なアトモスフィアにクラクラしつつ、会場の東京キネマ倶楽部に滑り込む。
すると、そこはベルベットのカーテンとバルコニーのような二階席も重厚な、いにしえのダンスホールのような風情。
こんな立派な会場であの三銃士が!物販にスタッフもいっぱいいるし…と思ってよく見るとガチャガチャコーナーを仕切っていたのはスカート澤部氏だった。そういえば2年前の月光密造で首にタオル巻いて物販やってる姿に衝撃を受けたんだよな…。
トップバッターはインディー界随一のWikipediaの充実度を誇るトリプルファイヤー。
結論から言うと、本当に素晴らしいライブだった。演奏は寸分の隙もなくタイトで、吉田のグダグダっぷりも最高だった。
特に後半に披露された新曲の、今までより下半身へダイレクトに訴えかけてくる黒さを増したグルーヴはちょっとネクストレベルじゃないか。
もう吉田のボーカルも歌詞がおもしろいとかおもしろくないとか関係なく、超かっこいいサウンドの一部として取り込んでしまった感じ。
そうなるといよいよ存在意義が問われる、いろんな意味で稀代のフロントマン・吉田だが、この日は遠目に分かるほど気合いと自信に満ちており、満員のお客さんをMCと楽曲の落差で打ち取っていく。
そんな彼のクライマックスはミツメの「三角定規△」のカバー。盟友の楽曲をぶち壊してでも自らの異端ぶりを表現したい、絶対に笑いを取りたいという業の深さが凝縮された破壊的なボーカル。
神聖かまってちゃんの「友達を殺してまで。」というアルバムタイトルが頭をよぎった。
江戸時代なら間違いなくキリストの絵を易々と踏みつけるタイプのキリシタンだったであろう。
幕間の臼山田洋オーケストラによる愛と笑いとグルーヴにあふれた素晴らしいDJを挟んで登場したのは、東京インディー界イチのシュッとした四人組・ミツメ。
前回の月光密造以来、ミツメのライブは4、5回観てるけど、東京で観るのは初めて。
もしかして東京じゃ川辺さんがドッカンドッカン爆笑MCとかカマしてたらどうしようとドキドキしてたけど、やっぱりミツメはどこでもミツメ。上司からの飲みの誘いに絶対応じない若手社員のような佇まいは不変。ブレない若者たちだ。
でも、この日の会場はとにかく音が良く、その恩恵を一番受けていたのは間違いなく彼らの繊細で精巧なサウンド。
眩しいほどのバックライトに照らされた彼らが鳴らす「DISCO」の美しいメロディ、「Alaska」のベースライン、「忘れる」の静寂と轟音のダイナミズムにのっけから圧倒される。
もうこのまま一晩中演奏しててくれよ…という初めて観た時の感覚がフラッシュバックした。
しかしそんな最高にかっこいい若者を無傷で終わらせないのが月光密造の夜に潜む魔物。
中盤で披露されたトリプルファイヤーの迷曲「次やったら殴る」をnakayaanが歌いながら叩くエフェクター(サンプラー?)から音が出ないトラブル発生。
「次やったら殴る…次やったら殴る…」と言いながら音の出ないエフェクターを何度も何度も必死に叩くnakyaanの姿に、いつまでもやり返すことのできないいじめられっ子の姿がリアルにレペゼンされていた気もするのでまぁ結果オーライか。切り替えていこう。
そして披露された新曲は前作「A long day」でのミニマルな構築美とはかなり異なる、甘くて中毒性のありそうなコーラスが印象的なポップチューン。リリースが楽しみです。
そしてトリを務めるのは澤部渡率いるスカート。
開演前にガチャガチャコーナーに並ぶお客さんを仕切っていた姿から一転、水色のリッケンバッカーを持ってステージに立つ姿はまごうことなきミュージッシャンであり(少なくとも俺にとっては)神々しいオーラを放っていた。
そんな彼が一曲目に披露してくれたのはスカート屈指の男前チューン「返信」。もうカッティングもシャウトもキレッキレ。
貫禄すら漂わせる絶好調ぶりである。
そしてトリプルファイヤー、ミツメに負けじとスカートも新曲を披露。というか、中盤は新曲が中心のセットリスト。タイトルがついていないようなできたてホヤホヤのやつを惜しげもなくイベントで披露するなんて、普通じゃ考えられない。ワンマンよりもホームなのが月光密造の夜ということか。
さてその新曲群、すでにリリースされている「離れて暮らす二人のために」のスピッツ級に広がりのあるメロディと同様、今まで以上に洗練された普遍性があるように思いました。青年が大人になったような、佐野元春が言うところのグローイングアップ感というか。
そのキモはもちろん澤部氏が自画自賛するほどの楽曲の素晴らしさにあるのだけれども、やっぱこのバンドの演奏だからこそ、という面もありますよね。
今このメンバーで演奏すればもうそれだけ間違いないだろ、という無敵感でした。
アンコールではミツメから川辺素をゲストにミツメの「DISCO」を、続いてトリプルファイヤー吉田を迎えて「スキルアップ」をカバー。
演奏もさることながら、素君も吉田も、自分のバンドでは見せない屈託ない笑顔が印象的だった。
それが澤部氏の人徳によるものなのか、実はミツメとトリプルファイヤーの居心地が悪いのかはよくわかりませんが、Frictionもかくやという「スキルアップ」の怒涛のグルーヴは大団円にふさわしいものだった。
というわけで長くなりましたが、以上がこの日の私的ダイジェスト。
最後のMCで澤部氏が「余興感の強いイベント」と言っていた通り、バンド同士でカバーし合ったり、それをまた元のバンドに戻したり、「俺があいつであいつが俺で」的なくんずほつれつ感ではあるのだけれども、それが単なる内輪ネタに終わらないのは各バンドの音楽性の高さ、個性の強さの賜物。
この3バンドを軸に追いかけてきたこの2年弱は間違いじゃなかったなぁ、と言う感慨を胸に深夜まで深酒してしまった鴬谷の夜なのであった…。