ドリーミー刑事のスモーキー事件簿

バナナレコードでバイトしたいサラリーマンが投げるmessage in a bottle

(俺の)夏はいってしまった どついたるねんのライブに潜入した話

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会議室の時計は、午後7時を回ろうとしていた。

伸び悩む売上と迫りくる年度末。

会議が始まって5時間。
局面を打開する妙案もなく、メンバーの眉間に刻まれた皺だけが深くなっていく。

重すぎる空気の中、俺はトイレのために席を立った。
ように見せかけて、そのまま会社を抜け出した。


だって、観たいライブがあるんだもの。
上司には明日の朝、土下座すれば済むだろう。

俺はもう振り返らない。そう決めたんだ。


急ぎ足で向かった先は、鶴舞のKDハポン

今夜ここでオレは、最先端ヤングの間で話題のバンド・どついたるねんを見るのだ。


音源は一度だけapplemusicで聴いた。
15分で頭が痛くなって止めた。
騒音にしか思えなかった。


じゃあなんで危険をおかして観に行くのか。
わからない。
自分の感性の限界を試してみたいのかもしれない。
あるいはただ会社から抜け出す口実がほしかっただけかもしれない。



受付で「ド、ドリーミー刑事です」と名乗って入場料を払い(実話)、会場の隅っこで張り込み開始。


これまで何度もスーツ姿でライブに潜入したことはあるが、居心地の悪さは今日が一番。


周りを見渡せば、特殊な形状をした帽子、呪術的な模様のパーカー等を着用した若者しかいない。
俺のようなおじさんが身に着つけたらご近所の噂になること間違いなしのシロモノだ。


8時ちょい過ぎにメンバー登場。


うん、君たち全員、国民年金払ってないね、と断言できそうな責任感のないルックスがすがすがしい。


ハードコアな曲からライブがスタート。

どうしようもなく下品で闇雲な熱量の発散。
それに呼応して熱狂する若者たち。
観客とメンバーの区別がつかなくなるほどの一体感。溶けてバターになっちゃうんじゃないか。


なんかこういう感覚、前にも感じたことがあるんだよな…と召喚された記憶は、今から20年前に行ったバリ島の夜。

ガラの悪い地元の若者に引きずりこまれたバーで見た、パンクバンドのライブ。

ぶつかり合う身体と身体、飛び散る汗、次々と回ってくるアルコールのボトル。そしてとてつもなく男臭くてダサい音楽。

観光客ギャルとのワンチャン狙いの地元ナンパ師が闊歩する淫らな街の景色に抗うように、咆哮を上げ、肩を組む汗だくの半裸男たち。金にもセックスにもたどり着かない、超ムダなエネルギー。


あの夜の空気だ。
(ここにはかわいい女子が多いという違いはあるが)



それにしても。


例えば、好きじゃなくてもEXILEとかジャニーズのライブに行ったら、踊りうめーとかよく焼けてるなーとか若いわねー、とか良いところがいくつか見つかるって思うの。


でも、このどついたるねんと称する、20代後半の微妙な年頃のアンちゃんたちときたら、もう1時間以上ライブ見てるのに一個もほめるところが見当たらない。

さっきから「おれの生き様見とけ」って連呼してんだけど、保護観察かなんかの隠喩なのかな?
おじさん的には不安しか感じないよ、君の生き様。


そう言えば、そのバリの旅では、友人たちと入った普通のマッサージ屋さんで、オレだけ日出郎クリソツのオネエ様から逆指名を受けた事件というのもあった。個室に入って全裸にされて下半身を中心に濃厚なオイルマッサージを受けたのだ。なんとか男の操は守ったものの、後で友人たちから、誰も脱がされてないし下半身も責められてないって聞いた時はショックだった。

あんなデタラメな旅はもうごめんだ。


そんなことを考えてたら、ライブも大詰め。


野茂英雄のキャップにモリッシーのTシャツ(たぶんサウスポーグラマーの頃)という斬新な着こなしのメンバーが一人で、白目を剥きながらなにやらラップしている。

なに言ってるのか、俺にはいまいちよくわからないが、お客さんはウケまくっている。


疎外感、という単語が頭に浮かぶ。
でも、悪い気分じゃないぜ。

俺のバリ旅行はとっくに終わっているが、彼らはその真っ只中。
それだけのこと。
生物が進化するためにはに死が必要なのだ(たしか)。


だから、おっさんにもっともっと疎外感を味あわせてくれるくらいかましてくれてもいいんですよ。

ちょっと普通に聴いててウキウキ楽しくなっちゃう部分がね、ところどころに散見されるわけですよ。

俺のダンディズムを貫き通させてよ。

特に、おっさんの腰をムーブさせちゃうあの敏腕ギタリストは非常に良くない。良すぎて良くない。ホント反省してほしい。


観ることができて良かった。 

こちらからは以上です。