ドリーミー刑事のスモーキー事件簿

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ロックスターの美学と沖野俊太郎 "F-A-R"の話

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やる気とか、本気とか、熱い気持ちとか、一般的に美徳とされる感情を出してもらうと困る人、というジャンルがある。ロックンロールの世界においては。

 

 

 

その分野における最高峰と勝手にワタシが思っているアーティストが、プライマルスクリームのボビー・ギレスピー

 

 

叩けないのにジーザスアンドメリーチェインのドラマーとしてデビューしたというデタラメな経歴からして素晴らしいが、そこから30年経った今も、歌唱力の向上は一切見られず、歌や演奏なんてむさ苦しいバンドとコーラスに任せて、自分だけモードなスーツ着てマラカス振ったり腰を振ったりしてるだけ(に見える)佇まい。


同じロックスターでも、半世紀にわたって青筋立てて頑張ってるミック・ジャガーが気の毒に思えてくる。

 

しかし、島田紳助の涙が不愉快なのと同様に、張り切って飛んだり跳ねたり熱唱するボビーは見たくないわけで。


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そういうある種無責任で自堕落なフェロモンとオーラだけで全てを許されてしまうアーティスト。


 これはやっぱりドラッグとアルコールに強い西洋人の専売特許だろう、と思っていたところに、こんな対談を見つけまして。

 http://natalie.mu/music/pp/okinoshuntaro

トラットリア世代(ドルフィン・ソング世代)の自分としては、小山田圭吾沖野俊太郎の対談というだけで感涙ものなわけですが(しかもいいエピソードばかり!)、自分がうかつにも日本で唯一ボビー・ギレスピーに対抗できる男・沖野俊太郎のことをすっかり忘れていたことに気づきましたよ。

 

かつてVenus peterのボーカルだった彼の、決して上手くはない、というか完全にヘロレロなんだけど、だらしなく甘い沼に沈んでいくような歌声は、他にはない没落貴族的な魅力を放っている、と子供ゴコロに思っておりました。

 

 

そしてこういう魅力は、持ってない奴がどれだけ努力しても決して身につけることができない、ということも。

  

Venus peterの代表曲と言えばファッション通信のテーマ曲"every planet son"だと思うけど、個人的には"mind bike"を挙げておきたい。

 

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マッチョ感ゼロの声で歌われるサビ終わりの

"しっかりと  僕を捕まえてていて"

という、いい意味で情けない歌詞が、いい意味で女々しい余韻を強く残していくところが、沖野俊太郎のボーカリストとしての真骨頂かと。

 

 

そんな彼の15年ぶりのソロアルバム。

一曲目"声はパワー"。

 ポジティブで力強いタイトルに、まさかマッチョなヤル気を出してしまったのか?と不安になったものの、シューゲイズでヘブンリーなボーカルが、どことなくプライマルの"movin' on up"を彷彿とさせる重層的な演奏と溶け合う様は、マーブル模様の恍惚感。

 

そして、2001年にIndian rope名義で出した前作ではちょっと物足りなかった、Venus peter時代のメロディセンスも健在の快作であります

 

その中で特に特徴的だと思ったのは、4曲目"We are stories"のようなエレクトリックなダンスチューンのカッコよさ。

 

 ケミカルブラザーズとかニューオーダーが得意にしているような、踊れる歌モノなわけだけれども、これを日本人がやるとどうにもダサくなってしまうというか、TM-NETWORK感から逃れられないというか。

 

でも、沖野俊太郎の邦楽臭ゼロのボーカルとメロディが乗っかれば、日本語がビートを邪魔することなく、ドライブ感が増していく。

 

でもやっぱり、こういう曲は大音量を浴びる、「体験」をして初めて真価が分かるという気もするわけで。

 

というわけで、前回同様に我が身の田舎暮らしを嘆くしかないオチなんだけど、ぜひ当地方でもライブやって頂ければと、切に望むわけであります。

 

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