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ドリーミー刑事のスモーキー事件簿

バナナレコードでバイトしたいサラリーマンが投げるmessage in a bottle

【ネタバレ注意】"ドルフィン・ソングを救え!"の感想(37歳・会社員の場合)

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樋口毅宏の著書は、いままでに"タモリ論"、"さらば雑司ヶ谷"、"日本のセックス"を読んだ。


同世代の人間として、サンプリングで文学を構築するという手法、その元ネタのチョイスには共感するものがあった一方で、作家として最大のストロングポイントは"日本のセックス"におけるフランス書院も裸足で逃げ出すほどの執拗かつ精緻なセックスシーンの描写だけだったんじゃないか、と思っている。



なので、新作"ドルフィン・ソングを救え!"が、サンプリング世代にとって最大のアイコンであるフリッパーズギターをモデルにした小説、と聞いても「わかりやすい勝負に出たねぇ」と上から目線でスルーしようとしていた。


が、しかし。

その表紙が、今も交通事故からのリハビリを続けている岡崎京子の名作"リバーズエッジ"のワンシーンと知ってからは、「ずいぶん大きく出たじゃないの、樋口先生(と、マガジンハウスさん)よう」とよくわからない闘志がムクムクと。





この大ネタを使うからには、それなりの自信があるってことですよね?

まさか、つまんなくても「愛があるからOKでしょ?」なんて結論にはなりませんよね?


と、いきり立って読んでみましたよ。



一応あらすじを書いておくと、フリッパーズギター(をモデルにした二人組)の解散を食い止めるべく、2019年から1989年へタイムスリップした元渋谷系女子(45歳・無職)が奔走する、というお話。


そしてそこに、現実と虚構の境目が分からなくなるほどに注ぎ込まれた、膨大なエピソード・元ネタと、小山田&小沢へのBL的妄想。



"あの時代"を生きたガールズアンドボーイズ(今はおばさんアンドおじさん)は、音楽ライターとして業界で成り上がっていく主人公・トリコに若き日の自分をオーバーラップさせてしまい、恥ずかしいやら甘酸っぱいやらもう大変なキモチに…。


という感想になるべきだったのだろうけれども。



いやぁ。

自分でもびっくりするくらいにピクリともしなかったマイハート。



その理由を数日考えてみたのだけれども。



結局のところ、俺がこの15年の人生に勝ってしまった、ということなんじゃなかろうかという、不遜極まりない結論に。



学生のうちに、自分のどうしようもなくプロレタリア的な出自と全方位的なクリエイティビティーの欠如を悟り、つまんなくてカタギな仕事をコツコツやってきた結果、心身健康で、リアルが充実したおっさん(あくまでも当社比)ができあがった、と。


いろいろこじらせ続けて45歳で自殺を図る前島トリコとは、決定的に違う人間なんですよ、今のところ(まだ45歳になってないからね)。


そう、あの頃の煩悩は全て古い棺の中に。
ピッタリと閉まった蓋は、樋口毅宏が繰り出すあの手この手くらいでビクともしないんだぜ。


と言うか、そもそも樋口先生にもこじ空けるつもりなんてサラサラなかったんでないか。

荒らした墓場に、もっともらしい中身を詰め込もうとした形跡がないから

あの、"タモリ論"で、タモリを論じるつもりがなかったのと同様に。


まっとうな社会人としては、岡崎京子まで引っ張り出してこういうことすんのはどーかなーって思うけど。
ま、社畜のお前に何がわかるんだよ、と言われればそれまでですが。

 

というわけで、樋口毅宏先生のことは超一流のエロ小説家だと思っているワタシとしては、本作におけるセックスシーンは質・量ともに不満が残った、ということが、作品の「中身」に対する感想となりますね。