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ドリーミー刑事のスモーキー事件簿

バナナレコードでバイトしたいサラリーマンが投げるmessage in a bottle

佐野元春 "Blood moon"が素晴らしい話

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まったくもって生きづらい浮世ですよ2015。



心の底からそう思う。



あのすっとぼけた総理大臣とゆかいな仲間たちがやることなすことに、みんなが熱狂したり激昂したり迎合したり冷笑したり。


それぞれの正義やら事情やらがいろんなところでぶつかり合って、真夏の不快指数は上昇の一途。



なんて他人事みたいに言ってる俺だって、きっと誰かをウンザリさせているわけで、そのことがまた俺の中で小さなトゲになったりして。



ああ、面倒くさい。



フリッパーズギターじゃなくても、「分かりあえやしないってことだけを分かりあうのさ」なんてシニカルに片付けたくなる、ギンギンギラギラの夏なんです。






でも、佐野元春は違いましたよ。


この時代に生きるすべての人々と、正面から愛と共に向き合う作品を聴かせてくれました。



まずアルバムの前半。


彼はこの平坦な戦場のあちこちで、小石を投げあっている一人ひとりに、「君がこれ以上傷つく必要なんてないんだ」と語りかけ、解放していく。



ETV「ソングライターズ」で自らが良い歌詞の基準としていた「他者への優しい眼差し」が貫かれているわけです。




国会前で、Twitterで、Facebookで、あるいは普通の会社の中で、小競り合っている人々は、考えは違うけど、特別な力を持たない庶民であるという点においては、まったく同じ。




つまんない仕事して、ささやかな給料をもらって、文句言いながら税金払っているけど、それでもこの平穏な暮らしが明日も続くことを祈っている。



その僕らが石を投げ合うなんて、とても詮無いことなわけですよ。



SNSによって可視化されるようになった人それぞれの「違い」ではなく、まず互いの「共通点」に目を向けるというところに、佐野先生の現代に対する深い洞察力を感じずにはいられません。





でも、彼は決して「戦うな、争うな」とは言っていません。

「傷ついたやつは、もう戦えないやつは、戦わなくてもいいんだ」と言っているだけ。




その象徴とも言えるのが、アルバムの後半のクライマックスとも言うべき"キャビアキャピタリズム"。




ここで彼は、「本当に戦わなければならない相手」、つまり弱者を騙し、分断しようとする権力に対して、渾身の怒りを込めてNOを突きつけます。




決して熱心なリスナーではない私が言うのもなんですが、佐野元春がこれほどハッキリと中指を突き立てた楽曲はなかったのでは?というほどの超ヘビーファンク。

ふと、ある時期の忌野清志郎を思い出しました。

たった一人になったとしても俺は戦うんだぜ、という姿勢が共通しているのかもしれない。


今、さかんに押し付けられようとしている軽薄な全体主義とは真逆の、成熟した個人主義を感じます。







最初に書いたように、2015年は最低。
間違いなく最低。

でも、そんな時代だからこそ生まれた名作を聴いて、人に優しく、我が道を行くことの大切さを改めて実感した次第。


思わず永久保存版にしてある『ソングライターズ』の最終回を見直してしまいました。