20181228『サニーデイ・サービスの世界 追加公演 “1994”』
『サニーデイ・サービスの世界 追加公演 “1994”』に行った。
2018年5月に亡くなったドラマー・丸山晴茂の追悼ということで、メンバーは曽我部恵一と田中貴の二人きり。チケットにもわざわざ、「曽我部恵一(Vo/Gt)、田中貴(Ba)」と印刷してある。
とは言え、私の頭の中では、これから何が起きるのかまったく想像できず、そもそもこのライブにどう向き合えばいいのか、整理がつかないままその日を迎えてしまったような感じがあった。
開演時間ギリギリに渋谷クアトロに着いてまず目に入るのは、入口に設置された献花台。麗しい晴茂君の写真パネルの前に、たくさんの花が供えられていた。
そして、フロアに入りステージを見れば、そこにあるのは、数本のギターとベースのみ。ドラムセットがあるべき場所には、ぽっかりと暗い穴が開いていた。
晴茂君の不在というものを改めて実感する瞬間だった。
定刻を少し過ぎたところで、曽我部恵一と田中貴が登場。二人とも黒いジャケットを着ている。もちろん超満員の観客も拍手と歓声で迎えるのだけれども、やはりどこか固い空気も感じる。みんな私と同じような戸惑いを感じているのかも知れない。
ライブはシングル『NOW』のカップリングに収められた『あの花と太陽と』からスタート。
どこかの街では祭りだよ
さびれた心に赤い花が咲く
淋しくなるからぼくは歩くんだよ
そんな歌詞が、年末の渋谷の喧騒と、二人ぼっちのサニーデイのことを歌っているような気がしてしまう。
このように、愛や恋を題材にしているはずのサニーデイの名曲たちが、どうしても晴茂君へのメッセージのように聴こえてくる瞬間は、この後の3時間・36曲の間、何度も何度も私の心の中におし寄せることになる。
『空飛ぶサーカス』『日曜日の恋人』と続く二人だけの演奏に、ドラムの不在をカバーするための装飾や細工は一切なく、空いた穴をそのままさらけ出すかのよう。
当然のことながら、この「ただドラムの音がだけ無い」という状態は明らかに音楽としてのバランスを欠いており、その異形ぶりが最初にクローズアップされたのが、4曲目『真っ赤な太陽』だった。アルバム『東京』の多幸感を凝縮したこの曲は、勢いのあるバンドサウンドが胸を躍らせてくれる…はずなのだけれども、その肝になるドラムの音が鳴らないまま、ベースとギターは忠実にレコード通りのフレーズを鳴らし、晴茂君の不在感ばかりが際立っていく。
そんなオーディエンスの戸惑いを乗せたまま、曽我部恵一は一曲ごとに淡々と、しかしいつもと同じ真摯さで、譜面台の楽譜をめくり、二人だけの静かな熱を帯びたライブを進めていく。
そして11曲目に披露されたのは、再結成後最初のアルバム『本日は晴天なり』に収録された『ふたつのハート』。
活動再開というニュースを聞いた時の驚きと喜び、そして若干の不安が入り混じった気持ちがフラッシュバックする。
きみが好きな色の花を買っていこう
きみみたいにきれいだって もういちど言えるように
透明な花瓶にかざりましょう
心の波にうかべましょう
あれから10年、サニーデイというバンドが歩んできた道のりの長さと険しさ。そして会場入口で花に囲まれた丸山君の写真を思い出しつい涙がこぼれる。
『本日は晴天なり』『Sunny』という丸山晴茂がフル参加した再結成後の二枚のアルバムは、それまで、あるいはそれ以降の作品に比べて音楽的な冒険が抑制されているかもしれないが、三人で演奏することの意味や喜びに溢れた作品で、この夜に演奏されるのに最もふさわしいもののように思えた。
13曲目「からっぽの朝のブルース」からエレキギターに持ち替えた演奏は16曲目『恋人の部屋』で、最初のピークに達する。
サニーデイで最もパワーポップ色の強いこの曲は、冒頭から終わりまで丸山君のドラムがフックになっているのだけれども、今日のこの場にその主はいない。
前半の『真っ赤な太陽』と同様、そこには無音だけが広がっていく…はずだったのだけれども、俺の心の中では確かに聴こえている。あのドカドカして最高にチャーミングな、晴茂君のドラムが。
それが俺だけの錯覚ではないことは、満場のオーディエンスの大きな歓声が証明してくれている。みんな頭の中で、心の中で、晴茂君のドラムを感じている。ここにいるみんなでサニーデイのグルーヴを作り出しているのだ。
いるのに、いない。
いないけど、いる。
フィクションとノンフィクションの境界線。『DANCE TO YOU』以降のサニーデイ・サービスが、宿命的に追求せざるを得なかったテーマが、ある奇跡として帰結した瞬間だったような気がした。
会場全体を巻き込んみながら、演奏はまだまだ続いていく。
『時計を止めて夜待てば』『真夜中のころ・ふたりの恋』といったメロウサイドの名曲の後に鳴らされた、この日22曲目のイントロは、今やサニーデイの代表曲と言ってもいい『セツナ』。
曽我部恵一と田中貴、残されてしまった二人の、魂を叩きつけるような演奏、そしてどんなに叩きつけても壊れることのない力強さを持った楽曲のせめぎ合いが、この日最大の火柱を上げていく。
そしてその熱狂から一転。続いて披露されたのは、『THE CITY』に収められた『完全な夜の作り方』。混沌と興奮が支配する問題作『the CITY』の中で、暖炉の炎のように優しく心を照らしてくれる歌だ。
曽我部恵一というミュージシャンが、90年代から今に至るまでシーンの信頼を得ている理由の一つは、楽曲の叙情性とは裏腹の、彼の徹底的な批評性にあるように思っている。
どんなにエモーショナルな曲であっても、作者本人とは常にある一線が引かれ、決してウェットな情緒にまみれてしまうことがない。
追悼と銘打ったこの日のライブでも、晴茂君の思い出話はおろか、その名前すら一度も口にしない、というところに彼の美学が貫かれているように思っていた。
そんな曽我部が、泣いている。しかも曲のほとんどを歌えないくらいに。
ギターとベースの音だけが響いていくクアトロ。再び訪れる静寂。
そしてそのまま何も言わずに突入した24曲目『恋人たち』。
明日晴れたらきみに電話して
どっか遠くまで電車に乗っていこう
白いあたらしいシャツ
青いトートバッグ
ぼくらの運命は小田急線の中
下北沢の街を闊歩する三人の姿が浮かんでくるような明るい歌と、先ほどの曽我部の涙が重なり、私はまた感極まる。
おそらくここまでですでに2時間くらいが経過。
しかしステージ上の二人は時間のことなんて気にせず、自室にいるかのような親密さで、名曲を次々と積み重ねていく。
その様子はまるで、村上春樹『ノルウェイの森』で、主人公の直子の死を悼んで、恋人のトオルと親友レイコが一晩かけて51曲をギターで演奏するシーンを思わせるものだった。どれだけの歌を捧げても、永訣にはとても足りない、ということなのだろう。
そこから演奏されたのは、『今日を生きよう』『24時のブルース』、そして『サマーソルジャー』といった、大団円にふさわしい曲たち。
その中で、最も胸に迫ってきたのはやはり『baby blue』と『桜 super love』の二曲。
さあ 出ておいで
君のこと待ってたんだ
昼間から夢を見てばかり
約束の時間さ
そんな呼びかけに応えるように鳴らされる晴茂君のフィルイン。ロックバンドとしてのサニーデイ・サービスを象徴する瞬間。
君がいないことは君がいることだなぁ
桜 花びら 舞い散れ
あのひとつれてこい
大切なメンバーを失ったサニーデイ 、そしてこれから多くを失っていくであろう、私たちのそばにあり続ける、祈りと実感。人生というものの一回性、その美しさと残酷さ。
この夜、サニーデイ・サービスが教えてくれたものが、この二曲に凝縮されていたように思う。
しかし、不完全であっても、満ち足りていなかったとしても、人生は続いていく。
旅の手帖にきみの名前も書き込んでポケットに忍ばせる
いつかはきっと知らない場所で きみのこと思い出すだろう
33曲目の『旅の手帖』で、長い本編が終了した。
私が東京のライブハウスでサニーデイを観るのは、当時はまだ歌舞伎町にあった00年12月のリキッドルーム以来。前期サニーデイのラストライブである。そのトラウマの影響か、12月のサニーデイに対してはなんとなく胸騒ぎがしてしまうのだけれども、この日確かに曽我部恵一は「来年は新作の製作に専念し、完成したらツアーをやりたい」と言ってくれた。
突然の新作リリースに驚かされてばかりの身としては、先の予定を教えてくれるという当たり前の親切に驚きつつも、とりあえず解散はしないようなので、まずは安心した。
この日の余韻を胸に、楽しみに待ち続けたいと思う。
※当日の曲順でSpotifyでプレイリストを作成しました。
フリーペーパー「A Frozen Boy, Days in Love Vol.2」が完成しました!
Sons of Nice SongsもKENNEDY!!!は終わったけど、まだ俺の2018年は終わっちゃいない。
大晦日ギリギリ、2号目のフリーペーパー「Frozen boy,days in love ~おいぼれのためのディスクガイド~」が完成しました。
(最下部に配布店さま一覧かあります)
今回のテーマは「愛と闘争 Get back in love again」として、タフな時代を生き抜くために必要だ、必要なんじゃないか、まあちょっと覚悟はしておけ的な作品を勝手に紹介しております。
というわけで、今回もプロモーションの王道、発行人インタビューをお送りします。
聴き手はおなじみ、山崎宗一郎さんです。RO顔負けのストロングスタイルで、フリーペーパー発行の真意に迫ります。
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ーまたなんか変なもん作ったらしいですね。
「失礼だな。帰りますよ?」
ーまあ座って。はい、犯行の動機を述べよ
「俺は犯罪者じゃない」
ーだってテーマが「愛と闘争」ですよ。今時テロリストだってこんな暑苦しいこと言いませんよ。
「『POPCORN BALLADS』以降のサニーデイに影響されて、恥ずかしながら今さら古典SFを読んだんですよ。『1984』とか『ブレードランナー』とか。そしたらもう完全に2018年の現実そのまんまじゃん!って腰を抜かしてしまいまして」
ーどこがそのまんまだったんですか?
「独裁者や大企業が市民を完全に抑え込んでて、市民は抑圧されてることにすら気づかない、あるいは諦めていて、むしろ隷属の安楽さを積極的に受け入れようとしている感じ、ですかね…。デタラメな権力者のデタラメを知りながら支持してる、今の日本やアメリカと一緒だな、と」
ーうーん。なんか硬いっすね…。かわいい子犬の話とかしませんか?
「(無視して)でもこの悪意に飼いならさせれちゃってる感じがずっとモヤモヤと気持ち悪くて。日本もなんかもう諦めムードあるじゃないですか、なに言ってもどうせあいつらメチャクチャやってくるし…みたいな。自分も含めてですけど」
ーなんとなくわかります
「でもそこへ、突然爆弾が投げ込まれてきたんですよ、5月に」
ーサニーデイ・サービスの『FUCK YOU音頭』ですね
「そう。こんなに煮ても焼いても食えない話を、絶対そういうことしないと思われてた人たちが最高のパンクとしてぶち込んできて、さすが曽我部恵一だ!とめちゃくちゃ興奮したんですよ。」
ーあれは最高でしたよね。小田島等のMVも。
「でもちょっとがっかりもしましたけどね」
ーえ、なんで?
「MVを含めてあれはもっともっと大騒ぎされるべき作品でしたよ!日本に音楽や芸術をちゃんと評価して世に届けるプラットフォームがあれば、ラッドなんちゃらなんかよりずっとデカい、まっとうなアートとしてのインパクトを世の中にもたらすことができたはずなのに…という歯がゆさが残ったんですよ(と肩を落とす)」
ーたしかに。でもサニーデイ・サービスというバンドが世間に燃やしつくされなくて良かったかもしれませんよ。
「いや。燃やしつくされてもかまわないという覚悟があると思いますよ、あの人たちには」
ーそうかもしれません。
「で、そことは全然違うベクトルで刺さってきたのが、すばらしかの『二枚目』」
ーそれはまた意外なところから
「たぶん彼らはポリティカルイシューがどうこうってバンドじゃなくて、音楽そのもののクオリティに命をかけるタイプ、つまり東京インディー以降のクレバーさを持つバンドだと思うんだけど、自分たちのそういうある種のスマートさ、賢さにすらイライラしてる感じを音にぶつけてる感じが、最高にカッコ良かった」
ーほうほう
「その荒々しさに触れて、ああ俺たちはやっぱりお行儀が良すぎるな、と思い知らされたんですよ。このタイヤが空転するくらいの過剰なエネルギーが必要だな、と」
ーなるほど。つまりSFと『FUCK YOU音頭』、すばらしかが今回の原動力だった、と。
「そうです。それでテーマが決まりました」
ーでも、「愛と闘争のディスクガイド」として紹介されてる作品は政治的なものに限りませんよね?
「朝起きて、仕事して帰ってきて寝る、という普通の暮らしの中にもいろんな戦いがあるじゃないすか。その角度から光を当てると、作品が持つ別の表情が見えてくるかと思いまして」
ー今回の中で言うと、例えば土岐麻子の『PINK』とか?
「そうです。他にもバンドを続けるという生き様自体がもう表現になっているザ・コレクターズや、メジャーシーンで新しい居場所を獲得するために奮闘していたサンボマスターみたいなバンドの作品にも改めてリスペクトを捧げたいと思いましたし」
ーなんとなく犯行の動機が分かってきました。ところで今回はドリーミー刑事以外に三人の方が寄稿されていますね
「ええ。音楽的にも、行動力の面でも、私が尊敬する方々に愛と闘争について語ってもらいました」
ーどんなお三方なんですか?
「まずnecoさんですが、Here Comes The Niceという音楽イベントを主催しながらデザイナーとしても活躍されている方です。ポップにプロテストしてる感じがカッコいいんですよ。いろんな面で勝手に先輩だと思っています」
ーほうほう。じゃあ親しいんですね?
「いえ、京都の磔磔で一度お話ししただけです…」
ー図々しいですね
「すみません…。もともとTシャツを愛用しておりまして…」
ーただのファンじゃないですか。かわにしようじさんは?
「かわにしさんはソロやtroeppaというバンドで活動するミュージシャンで、名古屋インディーシーンのゴッドファーザーです。私にGUIROを教えてくれた恩人でもあります」
ーどこで知り合ったんですか?
「名古屋でレイシストが暴れた時にカウンターとして居合わせたというご縁です」
ーそれはすごいですね。
「私は後ろの方でウロウロしてただけですけど…」
ーそして上野祥法さん。
「写真家で、私がいつもパーティーやイベントでお世話になっているカゼノイチの店主です。年下ですけど、いつも背中を押してくれるよき兄貴です。この人がいなければ、僕も今こんなバカなことはしてなかったと思います」
ーお三方とも「闘争!」って感じじゃなくて、すごく地に足の着いたというか、一人の生活者、音楽好きという感じの文章で素晴らしかったですね
「プロテスターって別に特別な存在じゃなくて、自分に正直で、人生を愛してて、必要な時に少しだけ勇気を出せる人ってことなんですよね」
ーちなみにどれくらいの部数を発行するんですか
「前回の倍です」
ーバカなんですか?前回、配るのにめちゃめちゃ苦労してたじゃないですか!
「ええ…。なので設置頂けるお店、大募集中です。レコード屋さん、ライブハウスはもちろん、洋服屋さん、カフェ…どこでも結構です。ご希望の部数をお送りします」
ー最後に、今後の予定は?
「何もないんですけど、次は誰かと一緒に作りたいです。特にデザインとか、最初から分かっていることですが、思いっきり限界を感じています…」
ー前と1ミリも変わってないですもんね、この手づくりデザイン
「ええ…恥ずかしい限りです」
ー恥の多い人生、お疲れ様です。
〈配布店さま一覧〉
-愛知-
RECORD SHOP ZOO(大須)
ON READING(東山公園)
カゼノイチ(安城)
バナナレコード岡崎店
金山ブラジルコーヒー
バナナレコード大須店
-東京その他-
ココナッツディスク吉祥寺店
ココナッツディスク池袋店
CITY COUNTRY CITY (下北沢)
ディスクユニオン下北沢店
PEOPLE BOOKSTORE(つくば)
Hawaii Record (大阪)
Volume1(ver.) (仙台)
Marking Records (松本)
のら珈琲(秋田)
カフェクウワ(久喜)
グルーヴィン福岡店(福岡)
100000tアーロントコ(京都市)
まるさんかくコーヒー
Sons of Nice Songs Vol.2を開催しました!
関美彦さんとさとうもかさんにご出演頂いたSons of Nice Songs Vol.2、無事終了しました!
寒い中ご来場頂いた皆さん(遠く埼玉から来てくださった方も!)、K.Dハポンの皆さん、気にかけて応援して下さった皆さん、本当にありがとうございました。
なかなか自分のイベントを客観的に振り返るというのは難しい、下手すりゃ不粋なものではありますが、まあ書くわけですよ。だってわたしだもの。
今回は14時開演、お昼に開催しました。
その理由は二つあって、一つはお子さんがいらっしゃる方でも気軽に来てもらえるようにということ。
もうひとつは冬の午後のハポンのムードが、きっとお二人の歌にぴったりだろうと思ったからなんですが、サウンドチェックの時にもかさんのギターに窓からの薄い光があたってる光景がとても美しく、どこか外国の教会みたいだなぁと思ってしまいました(外国の教会、行ったことないですけど)。
最初に登場頂いたのはさとうもかさん。
1時間たっぷりもかさんの歌が聴きたいという私の思いをくみ取って準備してくれたセットリストはなんと16曲。しかも新曲まで!
アルバム「LUKEWARM」に収録された「OLD YOUNG」「ひみつ」からスタートしたライブ、まずはピアノの弾き語りから。
愛らしい古いウーリッツァーの音色は、もかさんの親しみやすさと上品さが同居したメロディとの相性がバッチリで、いきなりグッと引き込まれてしまう。
この日見に来てくださった名古屋在住のSSW・かわにしようじさん(トロエッパ)のお言葉を借りるなら「歌の後ろにオーケストラの音が見える音楽」。
そう、思わずうっとりするほど豊潤で想像力をかきたてられる音楽なのですよ…。
と思いきや、一転ギターに持ち替えて歌う「Weekend」は、疾走感あるメロディに、ワーキングクラスの若者の苦悩をユーモアを含ませながら描いていくナンバー。
やっぱりザ・コレクターズやシンバルズ、そしてスカートといったひねり系ナイスポップの系譜に連なるセンスを感じてしまう(しかしご本人はコレクターズは聴いたことがないとのこと。なんという天賦の才)。
そしてここから今度は「最低な日曜日」「殺人鬼」とミリオン級のフックを持った名曲をたたみかけ、ヒットチューンメーカーとしての片鱗を見せつけてくれたわけだけど、この日披露してくれたできたてホヤホヤの新曲「ネオン」は、その側面におけるさとうもかの評価を決定的にするのではないか、という気がした。
力強く訴求してくるメロディーと、男女の心理の本質を射抜くドラマチックな歌詞、そしてファンキーでコンテンポラリーなビート。
もう早く誰かドラマの主題歌にした方がいいよ!と声を大にして言いたい。
そして中盤の個人的なクライマックスをあえて挙げるならば、ギター一本で披露された「友達」でしょうか。
なにも具体的なことを書いてないのに、なぜかすべてをわかってしまう歌詞が、血が流れるよう切なさを聴き手に運んでくる様に圧倒され、会場の隅で静かに震えておりました。
さらに最後はまるでディズニー映画のテーマソングのような輝きを放つ「Wonderful Voyage」と、Spotifyでも再生回数No.1のキラーチューン「Lukewarm」で、名曲だけの、本当に名曲だけの60分はあっという間に終了。
ピアノ、ギター、PCを駆使して、大人から子供までみんなのハートを暖かくしてくれたもかさんの心意気に、ファンとしても、主催者としても、滝のような涙を流さずにはいられませんでした。
今回見逃した方も、来年は絶対に目撃して頂きたい、早くもっと多くの人の耳に届いてほしい、と心から思っております。
なお、会場にいたキッズ二人にもかさんのお気に入りの曲を尋ねてみたところ「恋をしたら人間になっちゃう曲(「Lukewarm」ですね)」、「隣の人が悪魔のやつ(悪魔じゃなくて「殺人鬼」ね)」とのことでした!
さて、午後の太陽が傾き、マジックアワーの気配を感じはじめた時間帯に登場するのは、シティポップの裏番長、東京のチャーリー・ブラウンこと関美彦。
赤いベースボールキャップを被った華奢な彼が、ハポンのピアノの前に座る姿に、これだけでもう芸術と呼んでいいのでは、と胸が熱くなる。
このハポンの大きな壁に、もかさんと関さん、美しいピアニストの影が伸びていく光景。
これが見たくて今日のイベントを企画したのかもしれない、と思った瞬間でした。
と、そんな私の高まりすぎたテンションを軽くいなすように、まだ歌う前から名古屋の思い出(20年前ローラ・ニーロを見に来た時に大須で食べた赤だしのみそ汁がおいしかった、等)を飄々と語り出す関さん。
さすが大人である。
しかしひとたびピアノの鍵盤を叩き、その歌声をマイクに乗せれば、そこはもう名古屋でもライブハウスでもない、白昼夢の世界。
一曲目の「HAWII」から、寄せては返す波のようなピアノが創り出す異次元の美しさに、頭が真っ白になりそうになってしまう。
夢見心地のまま「Desert Rose」、「王様と猫」に続いて披露されたのは、アルバム「SEX, LOVE &SEA」の冒頭を飾る超名曲「BLUE」。
私はアーティスト本人が選んでくれた曲を演奏してもらうのが一番いいと思っているので、これまで誰にも特定の曲をリクエストしたことはないけれども、この曲だけはできれば…と喉元まで出かかっていた一曲(ちなみに音源では TB-303が大胆に用いられており、これを私は世界で一番エロい303の音だと思っている。関さんに伺ったところ、303を使うアイデアはプロデューサーである曽我部恵一氏の発案だったそう)。
ああこの甘い時間が永遠に続けばいい…と思ったその刹那、曲の終盤にきてピアノと歌がもつれていく。
どうやらピアノの不調により、低いキーの鍵盤の音が出なくなってしまったらしい。
大好きな曲でこんなトラブル、普通なら落胆し、主催者としての責任も感じなければならないのだけれども、この残酷な結末すら、関美彦のつくりだす繊細な世界においては、ある種の美しさを帯びているように思えてならなかった
まるで誇り高き往年のフランス車のような美しさと、そこに潜む未完成の危うさ。
これこそが関美彦の音楽と安全で高品質なポップスとを隔てる一線であることを、あの場にいた人ならきっと分かってもらえるのではないかと思う。
MCを挟み、続いては現在進行形の関ワークスから二曲。
一曲目はWAY WAVEに提供した「SUMMER GIRL」。
そしてもう一曲が広瀬愛菜(もともとは柴田聡子と滝沢朋恵のユニット・バナナジュース)に提供した「さよなら こんにちは」。
どちらも彼のクリエイティビティがいまだ全盛期にあることを示す、キラキラした輝きを放つ名曲。
そして女性アイドルが歌うための楽曲に乗せてもまったく違和感のない、少年のようなミラクルボイス。なんて魔法的。
しかしそこに対照的なMCの軽妙さもまた、関さんの魅力。
「今日、実はドラムの北山ゆうこさんとベースの伊賀航くんにも一緒に行こうよって声かけてて、北山さんはオーケーだったんだけど、伊賀くんの都合つかなくて」なんて恐ろしいことをサラッとおっしゃったり、
「さとうもかさん、素晴らしかったですね。なんで若くしてあんなブロードウェイみたいな曲が書けるのか聞いてみたいですね。まぁだからと言ってご本人とは親しく話したりはしないんですけどね」とカマしてみたり。
(ちなみに終演後は親しくお話しされていました)。
そしてライブは後半に突入。
ディオンヌ・ワーウィックのカバーに続いて披露された「Bloody Rain」が、終盤の白眉。
音楽ライター北沢夏音氏が「東京の歌50選」にはっぴいえんどや荒井由実、小沢健二など錚々たる面々と共に選出した、3.11以降の街の片隅で暮らす私たちのささやかな物語2020年に向けて都市のあり方が大きく変わる今こそ、大切に聴かれるべき歌だと心から思う。
こうして、もかさんと同様に名曲だけの60分は「Country Man」の永く響くピアノの余韻を残して終了。
ピアノと歌だけのシンプルなライブなのに、今まで味わったことのない、濃厚な時間を過ごしてしまった。
そんな気持ちになりました。
以上がSons of Nice Songs Vol.2のダイジェストとなります。
もかさん、関さん、世代の異なる二人のポップマエストロの共演の一端を感じてもらえれば、と思います。
改めてお越し頂いたお客様(皆さんいい方ばかりで…)、関さん、もかさん、ご協力頂いた方々に御礼申し上げます。
(あ、あと私の酔狂をいつもサポートしてくれる家族にも…)
次回の予定は未定ですが、またいつかどこかで面白いことがやれたらいいなと思っております。
最後に蛇足として、私の選んだ当日のBGMを記載しておきます。
皆様の冬が良いものでありますよう。
<BGM for Sons of Nice Songs Vol.2>
2.Tired Of Waiting For You Larry Page Orchestra
3.Sesso Matto ArmandoTrovaioli
4.Just Like Me The Spencer Davis Group
5.A World Without Music Archie Bell & The Drells
6.Vanishing Girl The Dukes Of Stratosphear
7.Father Christmas The Kinks
8.Children Go Where I Send You Nina Simone
10.Walk Out To Winter Aztec Camera
11.Four Leaf Clover Badly Drawn Boy
12.The Drifter Roger Nichols & The Small Circle Of Friends
13.スライド Flipper's Guitar
14.Big Day Coming From Northwest Citrus
15.Some Things Last A Long Time Daniel Johnston
16.Ghost Mouth Girls
17.Twilight Madness DSK
18.Jealousy James Iha
19.It's Too Late Carole King
20.雨降夜行 金魚注意報
21.Light Upon The Lake Whitney
※蛇足の蛇足
一曲目の「ジムノペディ」は関さんの「Guitar Girl」という曲でめちゃくちゃカッコいいブレイクビーツの上にフィーチャーされてて、たぶん曽我部恵一氏のアイデアだと思うんですが、オマージュの意味を込めて選びました。ぜひどちらも聴いてみてください!
関美彦を観てほしいいくつかの理由
関美彦さんとさとうもかさんを迎えて開催するイベント『Sons of Nice Songs Vol.2』、いよいよ開催まであと二週間となりました。
先日はもかさんのライブについて書いたので、今回は私がなぜ関美彦さんのライブを企画したいと思ったのか、ということについて書いてみたいと思います。
私が初めて関美彦さんの音楽を聴いたのは実はかなり遅い。それは今から10年くらい前、場所は下北沢のCITY COUNTRY CITYだった。
親しげで洒落たメロディー、メロウ度100%の歌声、そしてセンスが良いフレッシュなアレンジにすっかり心を奪われてしまい、思わず「これ誰ですか?」と親切な店員さんに話しかけ、それが関美彦というシンガーソングライターが2004年に出した『Spilberg』というアルバムであるということと、曽我部恵一がプロデュースを手がけていることを教えてもらった。
そしてこのシンガーソングライターが、私の愛読書である曽我部恵一『昨日・今日・明日』に、「穏やかな種類のミュージシャンで、気持ちのいい人間」として登場する人物であるこということも、すぐに知ることになる。
ともかくそれ以来、この『Spilberg』というアルバムは、私の生涯ベストアルバムの一つとして君臨し続けているし、既発作である『Sex,Love & Sea』、『Five Easy Pieces』も遡るとともに、今のところの最新作『Hawaii』も長い時間をかけて身体の中に染み込ませてきた。
この歌をぜひ、もっと多くの、東京以外の音楽好きに聴いてもらいたい、というシンプルな思いこそが、このイベントの出発点なのです。
とは言え、その素晴らしさを伝える手段がなぜライブなのか。ブログやツイッターではダメなのか。
その理由のひとつは、彼自身が極めて優れた音楽リスナーであるという点だ。
Spotifyで関さんが公開しているプレイリストを聴いてもらえばわかるのだけれども、3時間以上のボリュームがあるのに、すべてが名曲。誰が聴いても素晴らしいとしか言いようのないポップミュージックが並んでいる。
それもそのはずで、関さんはかつて田島貴男や木暮伸也も店員を勤め、現在もライターの松永良平氏が勤務しているというハイファイレコードストアの店員だったのだ。
「渋谷系原理主義者」という彼の自称は伊達ではなく、行き当りばったりで音楽を聴きかじっているだけの私が、その桁違いの蓄積の中から生み出された音楽の魅力を文字にすることは到底不可能、と思っている。
これは実際にライブハウスで、関さんの膨大な脳内コレクションに裏打ちされた芳醇な歌を、皆さん自身のの耳で感じてもらうほかないのです。
そして最後に、なぜ今なのか?という点についても書いておきたいのだけれども、この問いに対する答えはとても簡単で、近年の関さんの活動が非常に素晴らしいものだから、ということに尽きる。
オリジナルアルバムの発表こそしばらくないものの、プロデュースを手がけた昨年の青野りえ、今年の広瀬愛菜。
いずれのアルバムもアーティスト本人の魅力を引き出しつつ、上述したような関さん自身のキャリアや才能もさりげなく感じさせる見事な仕事ぶりで、私も思わず拙い文章でその感動を綴った。
dreamy-policeman.hatenablog.com
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やっぱり関さんは2018年に聴いてもらうべき音楽家だ、と思い至ったのです。
どうか今、この時を逃さないでほしいな、と思います。
というわけで、長くなりましたが、12月15日にハポンへ足を運んで頂ければ、きっと私の言っていることがわかってもらえると思います。
ぜひ遊びに来てください。
-Sons of Nice Songs Vol.2-
日時:12/15(日)14:00開演
出演:関美彦、さとうもか
料金:前売2000円+1D(中学生以下無料)
予約web:https://reserva.be/dreamy1
決して消えない光がある サニーデイ ・サービス『Christmas of Love』について
サニーデイ・サービスから届いた、突然の、そして少し早いクリスマスプレゼント。
その名も「Christmas of Love」
日付が11月28日に変わる瞬間に配信されてからまだ約30時間くらいしか経っていないけれども、もう20回以上は聴いている。
そして最初に聴いた時からずっと、鳥肌が立ったままだ。
一聴して伝わるこの曲の特長。
それは何と言っても、平成最後の12月に山下達郎からクリスマスソングの王座を奪わんとするかのようなスケール感で鳴り響く、サニーデイ史上最大に開かれたメロディー、暖かいメッセージ、そしてエレクトロニカルパレードのようにドリーミーなアレンジ。
つまり、ポップソングとしての完璧さ。
この2年で何度同じことを思ったかわからないけど、なんでまだこんな瑞々しい歌がつくれるのか、と驚かずにはいられない。
そしてこの曲の持つ、もう一つの表情。
それはサニーデイ・サービスというバンド自身に訪れた、パーソナルな悲しみとその先の景色が描かれているということである。
「電話のベルが鳴って驚き 目覚める
目覚ましの音だと知って またまどろむ
いつからか僕は君のこと なぜだかずっと懐かしく思ってしまう」
今もまだ電話に緊張感を抱かなければならないほどの傷を負いながら、誰かのことを考えている誰かが、
「恋のような街角を もうそろそろ目覚めさせようと」決意し、「枯れ葉の季節の中 君をまた好きになる」と再生していくストーリー。
私のようにサニーデイに心を寄せる者ならば、ここに丸山晴茂の姿を見出さないわけにはいかないだろう。
特に最後の、「枯葉の季節の中~」というフレーズは、二年前の春の日に「君がいないことは君がいることだな」と歌った『桜Super Love」に対するアンサーのように思われ、ファンタジーとドキュメンタリーの境界をひた走るサニーデイ・サービスというバンドの業のようなものすら感じてしまう。
そして、
「紙切れが舞うように
冬の空飛んでいけば 二度と探せなくなる
それがさよなら」
という永訣の直後に鳴らされる、嗚咽のようなギターソロ。
クリスマスソングとしての調和を守る音色と、それでも抑えられない昂りを感じさせるフレーズのコントラストが、決して消えることのない葛藤を表しているようで、何度聴いてもグッときてしまう。
だからこそ最後にたどり着く
「争いごとが終わり 星の名前は決まり 愛を分かろうとする 誰もが」
という希望と愛に満ちたフレーズが深く胸に刻み込まれると共に、街中のスピーカーからこの光のようなクリスマスソングが流れ出し、星になったあの人のところまで届く光景を想像してしまうのだ。
-Sons of Nice Songs Vol.2-
日時:12/15(日)14:00開演
出演:関美彦、さとうもか
料金:前売2000円+1D(中学生以下無料)
予約web:https://reserva.be/dreamy1
11月某日の日記。スカート、金魚注意報、中村佳穂。
11月某日
軽薄な音楽にイライラするけど、本物の渋さってやつにも尻込みする。
剥き出しの狂気に触れる勇気はないけど、無難なロックじゃ楽しくない。
このようにワタシという人間はとてもわがままな生き物で、心にはいくつもの不規則な穴が空いている。
そしてその穴にぴったりとはまるのが、スカートの音楽なのだ。
新曲『遠い春』を聴いて改めてそんなことを思っている。
「僕たちが歩き出すことに どれだけの意味があるのかな」という迷いから始まり、
「つつじの花が咲く頃までには 新しい服で 懐かしい街で 会いましょう」という繊細な決意で結ばれた歌詞。
この少しうつむきがちだけど、歩みは止めないよという一貫した世界観が、すごく私の目線にフィットするというか、寄り添ってくれている気がするのである。
もう少しエモい表現を使わせてもらえるならば、「お前は一人じゃないぜ」という澤部氏からのメッセージを(勝手に)受け取っているのだ。
11月某日
そんなわがままな心と体をひきずるようにして、長野県松本市を仕事で訪問。しゃべりすぎのタクシーの運転手さんのおかげで乗り損ねた電車の待ち時間にMARKING RECORDSへダッシュ。ずっと気になっていた金魚注意報のCD-Rを入手する。ココナッツディスクにおけるスカートや台風クラブを例に出すまでもなく、愛すべきレコード屋さんが愛を込めてプッシュするバンドは、なにか特別な匂いをまとっているものだが、この金魚注意報も例外ではなかった。
エバーグリーンと刹那が同居した繊細なメロディー。サイケを感じさせるくらいに甘く美しい空気感。フォーキーとか懐かしさとかそういう表面的なところじゃなく、本質的な部分でサニーデイ・サービスに通じるところがあるように思った。夢中になる予感がする。ライブが観てみたい。
そういえば俺はサニーデイがこんなに好きなのに、サニーデイに似ているバンドってほとんど聴いたことがない。興味が持てない。不思議な話である。
11月某日
歯が痛い。左奥歯の治療が終わらないうちに右側の親知らずがうずいてきた。業績がダメならせめて体調くらい良くなってもらいたいものだが、ストレスも歯に悪いんですよねーという歯医者さんの言葉が歯ぐきに重く響く。
しかしそんな生命力絶賛低迷中の私とは対照的に、生のエネルギーをこれでもかというくらいに発散しているのが、中村佳穂の新作『AINOU』である。
ポップミュージックのフィールドをギリギリいっぱいに使って鳴らされるバレアリックなサウンド。肉体性と創造性の限界に挑むダンスビートで右サイドを駆け上がったかと思えば、ゴスペルを思わせる巨大な歌心へ一気にサイドチェンジ。ダイナミックすぎる展開に腰を抜かした。
このアルバムとceroの『POLY LIFE,MULTI SOUL』が同じ年に出たということには、偶然を超えた意味があるような気がしてならない。
さてさて。
関美彦さんとさとうもかさんをお迎えしてお送りするSons of Nice Songs Vol.2。いよいよ開催まであと1カ月となりました。
名古屋にポップミュージックの新しい名場面が刻まれる時間になること間違いなし。
全力で、真剣に、必死にご予約受付中です!!
-Sons of Nice Songs Vol.2-
日時:12/15(土)14:00開演
出演:関美彦、さとうもか
料金:前売2000円+1D(中学生以下無料)
予約web:https://reserva.be/dreamy1
平成最後の大物ルーキー・さとうもかのライブを目撃した
「自信が確信に変わりました」
イチローを三振に仕留めたヤング松坂大輔の名言よろしく、さとうもか with Time Travelersの名古屋初ライブも、彼女の若き才能が規格外の大きさであることを証明するものでした。
皆さんも早く観た方がいいですよ。
以上。
と終わらせてしまいたくなるほど圧巻のライブでした。
「Touch & Go」というクラブイベントのゲストとして登場した彼女たち。
四つ打ちのエレクトロビートで盛り上がるクラウドの前で演奏するのはやや分が悪いのでは?と心配しましたが、才能ある若者は平凡な年長者の杞憂を軽々と超えていくもの。
一曲目の『Old young』から、キュートなボーカルと高い演奏力で会場中のハートを引きつけたかと思えば、一転してパンクに駆け抜けていく『Weekend』で火の粉を散らす。この洒脱で凝った楽曲と熱い演奏、そして確信犯的に添えられたユーモアという組み合わせに、初期コレクターズやシンバルズに通じるモッド感を覚えてしまう。めちゃくちゃ不敵にかっこいいのである。
続いては、「もう夏は終わっちゃったけど」と言いながら披露された最新曲『Melt summer』。秋風吹く外の肌寒さを忘れさせ、強すぎる夏の日差しとジリジリと焦げるような恋心を連れ戻す。
この一曲ごとにみんなの心の中にある大切な記憶を喚起し、映画のような物語を感じさせる天賦の才こそ、さとうもかの真骨頂。aikoとかユーミンと並べて語られるべきものだと思います。
冒頭3曲でもう完全にハポンをロックオンした後は、ミュージカル調の未発表曲から、『最低な日曜日』『殺人鬼』といったキラーチューンまでをたたみかけるように演奏。その芳醇なバリエーションを生み出すソングライターとしての才に目が眩む。
中でもわたしのハートを強く掴んだのは終盤に披露された『ループ』と呼ばれていた未発表曲。初期達郎ばりのファンキーなカッティングとグルーヴを加速させていくスタイリッシュなメロディー。たびたび他のアーティストを例に出して申し訳ないですが、スカートの『静かな夜がいい』をライブで初めて聴いた時と同じ胸の高鳴りを感じました。この曲を流しながら、海沿いをドライブする自分の姿まで一気に見えてしまうような力強さ。
約40分という短い時間に、彼女のカラフルすぎる魅力を詰め込んだライブはあっという間に終了。
5月に観たライブでは、プロデューサーというより保護者のような入江陽のサポートを受ける頼りなげな姿と楽曲のハンパないクオリティのギャップに、これはいったい何者だ?と強いインパクトを受けたのですが、バンドと共に繰り広げたこの日のライブは、楽曲の持つリアリティはそのままに、会場ごと呑み込んでいくような迫力を感じました。
12月のSons of Nice Songs Vol.2ではソロで登場してくれるということで、また違った魅力を見せつけてくれるものと確信しております。
なお、もかさんは他にも何度か名古屋に来られる予定があるようなのでとにかくどこでもいいから絶対目撃してほしいのですが、伝説の天才シンガーソングライター・関美彦さんとのケミストリーを体験できるのはこの日だけ!ということも声を大にして申し上げたいと思います。
皆様のお越しを心よりお待ちしております。
-Sons of Nice Songs Vol.2-
日時:12/15(土)14:00開演
出演:関美彦、さとうもか
料金:前売2000円+1D(中学生以下無料)