久々のライブハウスで生き返った話。VideotapemusicとOgre you assholeのツーマンを観ました。
久々にライブハウスに行った。久々と言っても二ヶ月間が空いたくらいの話なので大したブランクではないのだけれども。
理由はいくつかあって、もちろん仕事がダラダラと忙しいことが主たる理由ではあるのだが、どうもいまひとつ心身のコンディションが整わないんだよな…とかなんとかグチグチしてる間にVideotapemusicとOgre you assholeのツーマン当日。
いろいろ心配なことはあったものの、バシッとパソコンの電源を切って、会場の伏見Jammin'へ。当日券で入場。
先攻はOgre you asshole。実は初体験。
どこかスピリチャルな佇まいがなんとなくとっつきにくかったのかもしれない。
でも久々のライブがこのバンドで良かった。
俺のつまらない煩悩を吹き飛ばすような硬質で容赦のない轟音。バキバキのグルーヴ。久々に無心で踊った。デトックスという単語が頭に浮かんだ。
EP-4、ゆらゆら帝国にINUの系譜に連なる日本的湿度をまとった狂気と叙情性とか、語るべきはたくさんある音楽なんだろうけど、とにかく楽しかったというのが私の素直な感想。
そして素直ついでに告白すると、ボーカルの人はちょっとカクバリ社長に似ている気がする。
さて続いては本日の真打ち・Videotapemusic。
昨年に続き二度目。
最初に観た時はその情報量に圧倒され、その興奮を謎の文章で消化したのだけれども、今日は無国籍な映像と生演奏とサンプリングが入り混じった音楽にクラクラしつつも、もう少し内側のところでビデオ氏の魅力を感じることができた気がする。
子供の頃に留守番しながら観ていた、夕方のテレビの再放送。その心細さ。
まだ地球に未開の地があった時代の郷愁。としまえんのアフリカ館。
夜の街に広がる家々の灯り、忍び込んだ工事現場の不思議な光景。子供の頃に住んでいた再開発される前の隅田川の光景。
夜中にこっそり起きて観た11PM。大人しか知らない、煌びやかで妖しい世界…。
誰も知らないはずの、自分でもほとんど覚えていない原体験を次々と呼びおこされていく感覚。
手法の斬新さや膨大な情報を処理するマニアックな職人ぶりやファッション性に目を奪われてしまいがちだけど、人の心の一番奥深くの記憶や感情を開かせてしまうところがビデオ氏の作品の素晴らしさなんですね。
それにしても後半披露された「Her favorite moment」。早く音源が聴きたい。
そしてこの日も脇を固めた思い出野郎Aチームの新曲の素晴らしさについても語りたいところだけれども、それはまた別の話ということで…。
というわけで心身の深いところで気持ちよく汗をかき、ライブ前に抱えていたモヤモヤはすっかり晴れていたことに気がつく。
ライブはやっぱりいいものですね。
小田島等の歩き方 「1987/2017」
小田島等の個展@LIVERARY OFFICEに行ってきた。
今さら説明するまでもないことだけれど、小田島等と言えばサニーデイ・サービスのアートワークを長年にわたり一手に引き受ける盟友的存在であり、最近ではシャムキャッツのジャケットやレーベルロゴのデザインも手がけている。
しかし、サニーデイの音源を包む、大胆にしてリリカルな作風を想像して彼の作品に臨むとたぶん困惑することになる。
正直に言うと、私も初めて彼の作品を見た時には途方にくれてしまった。
そして今でも、小田島等の作品に向き合うことは、ある種の格闘のようなものだと思っている。
自分の想像力の範疇外にあるものを、ジャンプして掴み取り、咀嚼する。
頭と心が汗びっしょりになったような気持ちになるのだ。
まず彼の作品は、多くのアート/デザイン作品が持つ、キレイとかオシャレとか明るいとか暗いといった、安易なファーストインプレッションをキッパリと拒否する。
そこにあるのは、子供が本能のままに貼りつけて落書きしたように(も)見えるコラージュだ。
最初に向かい合った時点では、なにこれ、ヤバい、わかんない、と冷や汗が出てくるかもしれない。
しかし心配する必要はない。
これは、小田島等の作品が内包する圧倒的な情報量が、視覚から取り込んだ信号を感情としてフィードバックする脳内処理を、一時的にパンクさせているだけなのだ。
よってここで生じる混乱は極めて自然な生理現象であり、ある意味であなたが健康である証拠とも言える。
とは言え我々は、健康診断を受けにギャラリーまで足を運んでいるわけではない。
当たり前ような顔をして目の前に広がる、物理的、化学的、歴史的、道徳的、あらゆる種類の圧倒的な秩序の中に、小田島等が生じさせた綻びや歪みを感じるためにここにいるのだ。
さあ深呼吸して、改めて作品に対峙してみよう。
ここで私が心がけているのは、これが紙の作品であるという概念を捨てる、自分の身近なものに置き換えてみる、ということだ。
おのずと私の場合は音楽に変換するということになるわけだが、するとあら不思議。
さっきまで謎だらけだった作品が、それぞれのリズムでこちらの感覚に染み込んでくるじゃありませんか。
あるものはアシッドハウス、あるものはヒップホップ、あるものはドラムンベースやサイケGS…。
この音楽(あるいはそれ以外の何か)が持つ本質的なエネルギーを、直接脳にブワーっと送り込んでくる感じ。これが小田島等の作品の最大の魅力だろう(※シラフです)。
さて、心の周波数はステイチューンで、もう少し目を凝らしていこう。
一枚一枚の作品に貼り付けられた素材と、その組み合わせに込められた暗号を読み解いていくのだ。
読み解くなんて書くと、いかにもややこしい感じがするけれどドンウォーリー。
先ほどからあなたの頭で流れているTB-303のベースラインや909のキック、あるいはファズギターやスクラッチノイズに合わせていくつかのキーワードを作品に浮かべていけばいい。
例えば、
オシャレ/ダサい
セックス/プラトニック
人工/自然
作為/不作為
ローカル/グローバル
大人/子供
生/死
昨日/今日/明日
こうして右から左、上から下に視点をズラしていくことで訪れる、作品と自分のピントがピタッと合う瞬間。
この立体的な快感は、他のアーティストでは味わえない感覚ではないだろうか(※もう一度言うけどシラフです)。
さてどうだろう。
ここまでで小田島等の世界を一端は堪能することができたのではないか(もう少し深く論理的に探求したい方には誠光社から出ている堀部篤史との対談集「コテージのビッグウェンズデー」をおおすすめ)。
そして内的冒険を終えたあなたの中には、これまで感じたことのない充実感や、エナジーが満ちていることに気づいていることだろう
(ちなみに私は今回の個展を見た後、二日ほど眠れなくなってしまった)。
そして話を冒頭に戻すと、作品ごとにその姿をダイナミックに変容させているサニーデイ・サービスが、あるいは自らのインディーレーベルを立ち上げようと奮闘するシャムキャッツが、その世界観をレペゼンするパートナーにこの小田島等を選ぶには、やはり揺るぎない必然がある。と思うのです。
日常こそがロックンロール。 シャムキャッツ「Friends again」
シャムキャッツの新作「Friends again」を聴きました。
過去二作の小田島等によるぶっ飛んだアートワーク(最高)から一転、サバービアな温度感が素敵なジャケットと歌詞カードがまず素晴らしい。CDで手に入れて良かったなと思わせる力があります。
さて「AFTER HOURS」でやられた私にとって、シャムキャッツはリズムのバンド、という勝手なイメージがあった。メロディアスなベースラインを中心にボーカルを含めた音色が折り重なっていくような。
でも、この作品では独立した4ピースがとてもシンプルに、歌を引き立てるように鳴っている。
このフラットで均等な感じが「Friends again」のゆえんなのかもしれないと思いつつ、「Grand prix」以降のティーンエイジファンクラブの多幸感を思い出しました。
そしてそんなバンドサウンドに乗る歌は、何かを声高に訴えるようなやつじゃなくて、鼻歌のようにさりげなく光り、じわじわと心にしみていくような手触り。
歌詞についても、いかにも歌詞らしいフックはほとんどゼロ。
しかし一見淡々とした光景の中に浮かぶ「特別な何か」をすくい取っていく夏目知幸の異才ぶりが際立っています。
特に素晴らしかったのが、M1「花草」。
二人でマンションの屋上に登るってだけの話なんだけど、
「コカ・コーラの大きい看板
スポーツ選手が引き伸ばされている
君はふいに大の字に寝そべり(その選手のように)
このまま僕らも終わるって目をした」
このフレーズが飛び込んできた瞬間、おい松本隆かよ!って俺の中の何かが爆発したし、
そんな思わせぶりなフレーズから
「君の顔のそば
コンクリートから伸びて
雑草が花をつけていた」
って描写で終わった時には、小沢健二の「向日葵はゆれるまま」(あるいは山田太一の「丘の上の向日葵」)を思い出しましたよ。
夏目くんは本当にすごい詩人だと思います。
大人なのに髪の毛ピンクだけど。
そしてもう一つ触れておかなければならないのはギタリスト・菅原慎一の充実ぶり。
ミック&キース、ヒロト&マーシーからひさし&コータローまで、脈々と受け継がれる。
「ギタリストが歌うのはアルバムにつき1曲まで」というロックバンド鉄の掟(適当)を破り、本作で彼がリードボーカルをとったのはなんと3曲。
しかも、どれも夏目ボーカル曲よりもある種の華がある曲ばかり。
ちょっと張りきりすぎじゃないかと思わなくはないけれども、本職のギターでもいい仕事。淡い色合いのアルバムの中で光る、差し色のように鮮やかなフレーズの数々。いわゆる「違いを生むプレー」ってやつですね。素晴らしい。
というわけでもしかするとパッと目を引くキャッチーさに欠けると思われてしまうかもしれない作品ですが、ポップもロックも恋もキスもセクシーも、君と僕の毎日の中にしかないんだぜ、というシャムキャッツならでは視点をより強固にした、生命力にあふれる作品なんではないでしょうか。
とりあえずこちらからは以上です。
サニーデイ・サービス「Popcorn bllads」全曲レビュー。
昨日、正確には今日の夜、突如としてリリースされたサニーデイ・サービスの新作アルバム「Popcorn ballads」。
小沢健二と小山田圭吾が再び歌を取り戻し、D.A.NやYogee new wavesを始めとする新鋭が次々と傑作をモノにしていく、この2017年に投下された全22曲、85分の大作。
「誰がシーンの顔なのか、ハッキリさせようぜ」と言わんばかりの曽我部恵一のただならぬ気合を(勝手に)感じたワタシも、この興奮をフィードバックしなければ!という気持ちになってきましたよ。
というわけで、「今日初めて聴きながら書いた22曲分の感想メモ」をそのまま公開します。
M1「青い戦車」
前作「Dance to you」に収録された「冒険」を、さらに野心的に進化させたようなメロディとリズム、扇情的なサックス。そして大胆な韻の踏み方からして新しいリリック。期待しか感じない一曲目。ヤバい。
M2「街角のファンク」
まさかの曽我部×オートチューン!「ファンキーな生き方、ファンキーな死に方」というフレーズが印象的なフックから、一気に視界が開ける流麗なサビ。そして曽我部がラッパーをフィーチャーした曲にハズレなし。
今回のパートナーはC.O.S.AとKID FRESINO。P.S.Gとやった「サマーシンフォニー」、MGF「優しくしないで」に続く名曲確定。「エレクトリックピアノとコーヒー」というフレーズに象徴される美しさも内包。
M3「泡アワー」
ファンキー路線はまだ続く。泡アワーというタイトルに象徴されるラフでザクザクっとしたトラックに絡みつくギターがかっこいい。良い意味でデモテープのような荒々しさ。それでいて涼しげな上品さ。
M4「炭酸xyz」
「泡から炭酸」のトラックを引き継ぐ、長い長いアウトロのような曲。例えが古いけどStone rosesにおける「Waterfall」と「Don't stop」と同じ関係か。しかしこの曲の組み合わせによって、両者の持つエッジがバキバキに際立つ。
M5「東京市憂愁」
タイトルには東京とあるも、美しいイントロから漂う無国籍感が心地よい。しかし、ロボ声で「我が身果てるまで踊ってれば」と歌われる不穏さは、坂本慎太郎の作品を彷彿とさせる。
M6「君は今日、空港で」
ここで急にメロウでアコースティックなサニーデイが戻ってきて面食らってしまう。しかし曽我部のこの身勝手さこそロックンロールだ。でもどことなくいつもよりアーバンなAORを感じせる。シンセがいい。
M7「花火」
続いては突然のナイアガラなウォールオブサウンド!雄大で優しいメロディは大瀧詠一のそれそのものと言ってもいいのでは。それにしても、バッサバッサのジャンルや曲調を横断して行くこのアルバムの編集感覚のダイナミックさよ。
M8「Tシャツ」
続いてはフィフティーズなロックンロール。日々の営みを感じさせる歌詞にソカバンを感じる。
M9「クリスマス」
「Tシャツ」に続いてデモテープ的タイトルの9曲目はまたファンキー路線。グルービーなリズムにこの魔法のファルセットボイスが乗った時点で勝負あり。最高。「彼女の名前はクリスマス」というリフレインの中で踊り続けたい。
M10「金星」
続いてもファンクチューン。ただし「クリスマス」よりもモダンなヒップホップマナー。だらしなく溶けていきそうなセクシーなメロディ。都会のざわめき雑踏を感じさせるトラック。これぞシティポップだと思った。
M11「Heart & soul」
いきそうでいかない、寸止めインストグッドメロディの片鱗が愛しい。ちょうど折り返し地点のインタールード。無作為なフリしてちゃんと構成が考えられていることがわかる(あたりまえか)。
M12「流れ星」
曽我部恵一らしい情熱を感じさせる歌とギター。しかしここでも貫かれるファンクネス。サビの瑞々しさ、力強さよ。
M13「すべての若き動物たち」
なんだこのタイトルそのまんまの、メロディから伝わる若々しさ、新しさは。手グセから無縁の新たな境地を感じさせる。「金星」でも垣間見せたラップ的ボーカルも新鮮。
M14「Summer baby」
80年代エレポップ的なトラック。このチープで軽やかなトラックと、メロウなメロディの対比が切なくて涙が出そうになる。
M15「恋人の歌」
一転して弾き語り。一人であること、孤独を受け入れようとする歌詞。一人ぼっちラジカセで録音したような音質が寂寥感を強調する。
M16「ハニー」
「恋人の歌」と同じくアコギメインのメロウチューン。「Dance to you」リリース後のライブを見た時も思ったのだけれども、この少し懐かしいシンセの音がサニーデイのサウンドに欠かせない隠し味になっている。
M17「クジラ」
ミニマルなヒップホップ的なトラックに絶え間なく乗せられる言葉は、意味よりも抽象的なイメージを喚起させるために費やされている。クールだ。クジラはボーンと太いキックの音から来てるのだろうか。
M18「虹の外」
ファンキーシティにウェルカムバック。この最高にイカしたディスコチューンは、インディーソウルに対する曽我部恵一パイセンからの回答、という気もするくらいのポップ感。
M19「ポップコーン・バラッド」
アメリカンな荒涼とノスタルジアを感じさせるギターとエレクトリックピアノ。一聴では地味な感じだけど、聴くごとに増していくであろう魅力を感じる。
M20「透明でも透明じゃなくても」
ビートルズ風の黄金のメロディが中空を漂っていく、タイトル通りの透明なデイドリーム感。甘いあまいサイケデリア。間違いなく名曲。
M21「サマー・レイン」
ジザメリ的ノイズギターから始まる、カラカラにさめきった、カリカチュアなロックンロール。「ポップコーン・バラッド」から続くロードムービー感がクール。
M22「Popcorn runout groove」
この大作に対する深い意味付けを拒否するように、不敵なユーモアを漂わせた、混沌とした短いアウトロ。
さて、聴きながら一気に書いた22曲分のメモ。
やや意味不明の記述もありますが、総じての感想としては、全編を貫く斬新さと、とにかく今を踊り続けるのだ、という強靭な意志にメチャクチャ興奮した、ということが一番。
そしてノンプロモーション・ストリーミング配信オンリーというリリース方法も、「とにかく一番最初に摩擦係数が高いことをやったやつが一番カッコいい」というパンク・ヒップホップの大原則を踏まえれば、(いろいろな意見はあるかもしれないけど)最高にイカしてると思う。
でもこれ、ライブで再現できるのかしら、という疑問と期待を胸に来月のOur favorite thingsを待ちたいと思います。
【お知らせ】フリーペーパー「A Frozen boy, days in love」を発行しました
こんにちは。ドリーミー刑事です。
突然ですが、この2ヶ月ほどチマチマ作っていたフリーペーパー「A forzen boy, days in love」が完成しました。
A4両面、オール白黒の超絶にチープなやつです。
サブタイトルを「おいぼれのためのディスクガイド」としたように、僕と同じくらいの年齢の方をイメージして、新旧のグッドミュージックを紹介するような内容です。
しかし配布するアテもないのにたくさん刷ってしまったので、手に取ってくださる方を探すべく、営業活動をしないといけません(置いて頂けるお店、大募集中です)。
というわけで今回は、やっぱプロモーションと言えばこれだろ、と編集長(ワタシ)のインタビューをお送りします。
<17年5月13日追記>
設置下さったお店一覧(ありがとうございました!)
【名古屋市】
バナナレコード大須店 (大須)
book shop and gallery ON READING (東山公園)
【岡崎市】
【安城市】
ラヴィエヴェル (新安城駅前)
【東京】
City Country City (下北沢)
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(聴き手:山崎宗一郎(cookie & pencil))
ー完成おめでとうございます。今回、フリーペーパーを作ろうと思ったきっかけを教えてください
「フリーペーパーの冒頭にも書いたように、この2年の間に出会った素晴らしいインディーミュージックに対して自分なりのフィードバックがしたかった、というのが最初の動機です。でも、それをどう形にすればいいのかは分からなかったし、それを表現する資格が自分にあるとは思っていませんでした。
でも一方で、『誰が音楽をタダにした』じゃないですけど、音楽がデータ化されて、流通もどんどん効率化されていく中で、削ぎ落とされてしまった大切なものを、受け手側もカタチにしていかなきゃいけないんじゃないか、という謎の責任感みたいなものもあって。すごくモヤモヤしてました」
ーそのモヤモヤが吹っ切れたのはなぜ?
「どんなにダサくても無駄なことでも、まずは自分ができる範囲で、できることをやってみるということが大切なんじゃないかと。そういう意味ではSEALDsの影響もあるかもしれないです。超おこがましいですけど」
ーそれにしてもこのご時世になぜわざわざ紙で作ろうと思ったんでしょうか?
「愚直な気合いを示すには、あえて非効率な手段を取った方がいいんじゃないかと思って。レコード屋さんに行っても最近はこういうのあんまり見ないし。これ、一目で分かるじゃないですか、ちょっと尋常じゃないテンションが」
ーなるほど。では、このローファイ感もあえて、ですか?
「心外ですね。これが僕の全力ですよ。どこがローファイなんですか?」
ーあ、そうなんですか…。あまりなも雑な仕上がりだったもので、こんなんでサラリーマンのお仕事は大丈夫?って思っちゃいましたよ。
「(ややムッとした表情で)本当はSomething on my mindみたいにしたかったですよ僕だって…」
ーなるほど。ところでこのタイトルは?
「メインタイトルはムーンライダーズの名盤「Don't trust over thirty」の一曲から。サブタイトルはニック・ホーンビィの「ハイフィデリティ」って小説で主人公が開くクラブイベントの名前からインスピレーションをもらいました」
ーでも「おいぼれ」とはずいぶん刺激的な言葉ですね?
「その小説を読んでもらえば分かってもらえると思いますけど、この歳までサバイブしてきて、まだ音楽を楽しもうという意思のある同世代に対する最大限のリスペクトをこめたつもりです」
ーちなみに今回、邦楽に絞ったことに理由はありますか?
「僕が最近の洋楽をまったく追えてないからです。最初はHomecomingsの隣にはCASTを、スカートの隣にはBrendan Bensonのファーストを並べようと思ってたんですけど。あまりにも最近の作品の蓄積が少なすぎた」
ーこれを手に取ってもらった人に、どう読んでほしいですか?
「僕なりの地図というか、2017年版グッドミュージックの歩き方、みたいなイメージでつくったつもりです。なのでこれを参考に、一枚でも新しい音楽を聴いてもらえたら嬉しいです。でもこれはあくまでも僕の地図であって、人それぞれ違うと思うし、こいつわかってねーなってネタにしてもらって全然いいと思ってます。キレますけどね」
ーえ?
「うそですよ」
ーところで、これはどこで手に入るんでしょうか?
「わかりません。とりあえず愛知県安城市のカゼノイチとラヴィエベルというバーで置いてくださることは決まっているのですが、あとは未定です。置いてやってもいいぞ、というお店があればぜひご一報頂きたいです!」
ーありがとうございました
「こちらこそありがとうございました」
-フリーペーパー「A Frozen boy, days in love 〜おいぼれのためのディスクガイド〜」-
〈コンテンツ〉
・ドリーミー刑事が独断で選ぶグッドミュージック30選ディスクレビュー
東京インディーから裏渋谷系まで、90年代後半と2017年をぐるっと繋ぐ長い旅。
・ミュージックラバー5名の選ぶ「私的名盤Then & Now 」
現代を生きる大人の等身大の音楽事情にズームイン!
<お問い合わせ>
以下からお気軽にコンタクトください!
E-mail: dreamycop2010@gmail.com
twitter: @dunkrock
instagram: dreamypoliceman
ーリリースパーティーのお知らせー
KENNEDY!!!〜A Frozen boy, days in love release party 〜
日時:5月1日 20:00 〜深夜
会場:カゼノイチ(愛知県安城市 住吉町3丁目10−30)
DJ:二宮浩輔・栃沢康博・ドリーミー刑事 and more
チャージフリー
来場者特典:ドリーミー刑事のMIX-CDをプレゼント!(数に限りあり)
2017年の決定盤現わる! Yogee New Waves「WAVES」
もし誰かに「今年1枚しかアルバム買えないとしたら?」と聞かれたら、俺は迷わずこのアルバムを勧める。
そう断言できるほど、2017年のど真ん中を貫く、大傑作である。
この作品は偉大な先人たちが耕した豊かな音楽的土壌を受け継ぎ、そこに新たな果実を実らせたものである。
例えば一曲目、その名も「Ride on wave」に封じ込められた山下達郎80年代の黄金期を煮詰めたような極上グルーヴ。
あるいは三曲目「World is mine」の軽快なロックンロールに乗せたシティボーイの高揚と憂うつは、佐野元春のデビューを彷彿とさせる。
続く「Dive in to honeytime」のガレージスピリット溢れる初期衝動には初期GREAT3のギリギリの疾走感が、「C.A.M.P」にはサニーデイサービスのこぼれ落ちそうなロマンチシズムが、眩しいほどピカピカにアップデートされ、ギュッと凝縮され、ヨギーの歌として新たな命を吹き込まれている。
こんな風に書くと、「なるほど。大人ウケするいわゆるグッドミュージック的なアレね」とか思われてしまうかもしれない。
そうじゃないんだ。
いやそうなんだけど、それだけじゃないんだよ。
このアルバムが本当にすごいのは、趣味としての音楽、音楽好きのための音楽。
そういう(愛すべき)インディーミュージックの枠を大きく超えてしまったところで鳴っているところにあると思うのだ。
誤解を恐れずに言うなら、このアルバムは音楽というよりは、スラムダンクとかワンピースとかスターウォーズに近い存在、つまりその時代に生きる全ての若者が通過しなければならない文化的経験のようなもの。そういう王道感と大きな引力を感じるのです。
スラムダンクにもワンピースにもスターウォーズにも背を向けて生きてきた39歳のオッさんが言ってんだから、たぶん間違ってないと思う。同じ光を放ってるよ。
ちなみに歌詞カードに記された「あとがき」でボーカル角館健悟はアルバムタイトル「WAVES」に込めた意味をこう書いている。
「「WAVE」は君であり、僕であり、いま君が感じている感情のことである。(中略)「僕のことかな」って君が思ったなら、それはすでに「WAVE」であり、そんな君の愛してる人もきっと「WAVE」である」
一読するとほとんど長嶋茂雄の世界である。
しかしワタシはこれを、自分のつくった作品は自分のものではない。聴き手と聴き手の暮らすコミュニティ全てを巻き込むことによってこそ、この作品は完成するのだ、という宣言と受け止めた。
作品や聴き手に対してこれだけの覚悟と責任、(不遜なまでの)自信を持ったミュージシャンが、果たしてどれだけいるだろうか。
思えば2015年の大晦日、渋谷wwwで 初めて彼らのライブを観た感想を、俺はこう書いていた。
「ボーカルの人の、「コイツ、今キテるな感」の強さ。人が輝く時ってこれだよね!というような、何をやってもみんなの視線を惹きつけてしまう感じ。彼らが間違いなくこの日の主役だったし、今見ておくバンドだと思いました」
それから一年半。
この時感じた衝撃をそのままカタチにした作品を届けてくれたことに最大級のリスペクトを送りたいと思います。
子連れでロックする方法2017 森、道、市場に行ってきました(後編)に
(前編からの続き)
森道2日目。
初日とはうって変わっていい天気。 晴れてるけど、そこまでギンギラでもなく、風も穏やか。
それにしても2日目は超充実のタイムテーブル。
10:30から始まるトップバッター青葉市子×detune.から19:50終了予定のceroまで全部観たい。
しかし、実は今まで一度も最初から最後まで会場にいたことがない我が家。
果たして子供の気力体力は持つのだろうか。重い荷物を抱えて先発隊として長女と二人で出発。
時間ピッタリにグラスステージ到着。 初めて青葉市子のライブを観る。
エンジェリックにして静謐、それでいて力強さも備えた歌声で、開放的なはずの会場がひたひたと満たされていく不思議な感覚。 コーネリアスの新曲も、この人とのコラボレーションのフィードバックによるところも大きいのではないか。
歌の世界に寄り添い、拡張していくようなdetune.の演奏も見事だった。
続いてはサンドステージで我らがミツメ! いきなり本日のクライマックス。
「イケメンのお兄さんたち一緒に見ようぜ」と約束していた娘は砂浜で山を作るのに忙しかったようなので、これ幸いとスピーカーの真ん前で観させていただく。
日差しの強い野外。しかも風が吹くビーチ。色白で精緻なサウンドのミツメにとっては不利なシチュエーションではないか…と密かに心配していた私だったが、謹んでお詫び申し上げたくなるレベルの堂々たる演奏でした。
「あこがれ」「disco」「煙突」と新旧の代表曲でお客さんの心をつかんでたし、ナカヤーンのジャンプもいつもより高かったし、川辺素氏のあんなに高揚した表情は初めて見た気がするし。
つまりオーディエンスもミュージシャン共に最高なライブだったんじゃないでしょうか。
そういや去年の森道にはトリプルファイヤー吉田、今年はミツメ。ということは来年はあの人が…?
もうここで月光密造やってくれないか。
午前中にしてこの充実感。 さあ次はグラスステージでユアソンだ!!
と、いきたいところだけれども、今日は子連れなんでね。トイレ連れてったり昼ごはん食べさせたり、とても忙しい。そして人がめちゃめちゃ多い。
ちなみに炎天下(あるいは大雨の中)、子どもと出店の行列に並ぶなんてムリ!という方は隣接するフェスティバルマーケット内で済ませるという方法もありますのでご参考まで。
さて、サンドステージに戻ってきてTHA BLUE HERB。
私にとって数少ないヒップホップヒーローの彼らではあるのだけれども、最近はしっかりフォローできていないこともあり、ちょっと遠慮ぎみにステージ後方でお昼ご飯を食べながら。
しかし「あかり from here」のトラックにBOSSが、この一期一会に命をかけるような濃い言葉を乗せた瞬間に血液が沸騰。DJ DYEのトラックもめっさファンキー。思わずイクラ丼を持ったまま立ち上がる。これはいくしかないぜ…。
とグッときたところで遂に我が家のバッファロードーター・次女が登場。早速浜辺に連れて行くことを要求。
遠くから聴こえるブレイクビーツに耳を傾けながらヤドカリ探しに精を出した次第。
さて次はザ・なつやすみバンド。 シャキーン!に出てたバンドだぞ、ということで娘たちを説得してステージまで戻るもすごい人で近づけず…。音も控えめだったしね。
なんかもう俺の森道市場終わった感あるな…と思いつつグラスステージで大友良英スペシャルビッグバンド。あまちゃんファンとしては見逃せないやつ。
「芸能界いろいろあるんでね。のんちゃんへの応援でこの曲やります」というぶっちゃけMCの後に披露された一曲目は「悲しくてやりきれない」のカバー。
芸能界に片足を突っ込んでいるはずなのに、タブーを恐れないこの姿勢。常に本気度120%のノイズギターに通じるものがある気がしたのは私だけでしょうか。 それにしても夕陽が傾いてきた海を見ながら聴く「灯台」は格別でしたよ・・・。
そのままグラスステージに残ってチャットモンチーを遠くから。
チャットモンチーこそがゼロ年代の日本のロックのある種の屋台骨だったと信じている俺だけど、ライブを観るのは初めて。 二人っきりでステージに現れる潔さにシビれました。
そしてドラム、ベース、キーボードと目まぐるしく楽器を変えながら演奏される新旧の楽曲はどこまでもオリジナルな音で、大友良英と同じ種類の、メジャーど真ん中にいながら立ち止まらない勇気を感じた。
できればもっと前であの不思議な音がどうやって鳴らされているのか観てみたかったな…と子どもと相撲を取りながら思った次第。
しばし休憩。
このヤグラの上で回してたDJがとても良かった。
大江千里から王舟まで、スムーズなビート。
さて! いよいよ大トリ・ceroの登場。 ここまでなんとかたどり着いたぜ・・・。
日中のクラムボンの大盛況ぶりを見てこれは大変なことになるな…と覚悟を決めていたものの、意外と後ろの方は快適。今年は寒くなかったし。
サウンドチェックでいきなり「Summer soul」をフルコーラスで演奏してオーディエンスをロックオン。
ceroに対する予備知識も興味もバラバラな老若男女の心をパッと捉えて一つにしてしまう、この曲の持つ力強さ、スケールの大きさ。
まさに10年代のアンセムと呼ぶにふさわしい。
この場にいることができて幸せだ、と心から思いました。
本編ももちろん最高で、山下達郎もかくやという横綱相撲。日本のインディー史上最強の表現力を誇るバンドではなかろうか。
そういうグルーヴは子どもにも伝わるものなのか、音楽なんて1ミリもわからない次女も楽しそうに踊っていた(疲れてハイになっていただけかもしれないが)。
たぶんキミは今日のほとんどを忘れてしまうだろうけど、いつかきっと「え、あたし6歳の時にceroのライブ観てたの?マジで?」と言う日が来ることだろう。
その時は俺に感謝するように。
俺はceroに感謝するから。
そんな感じで今年の森道も無事終了。
人が多すぎて遊園地側のステージには一度も足を運べなかったし、行きたいお店やお会いしたい人にもあまり会えなかったとかいろいろ反省はありますが、この世に完璧なフェスなど存在しないのだ。完璧な絶望が存在しないようにね。
ということでまた来年〜。